学力形成の要は言葉の力 その3

2025 年 12 月 6 日

 前回は、子どもの語彙獲得の道筋を小学校入学の段階からから追っていきました。そして、子どもの語彙増加は、小学校入学から一気に進むわけではなく、また常に一定のペースで進むわけでもないことを確認しました。前回ご覧いただいた資料でもわかりますが、子どもの語彙は3、4年生から急激に増え始め、5、6年生ごろ爆発的に増えていきます。この流れはどのようにして生じるのでしょうか。

 大人にとっては、特別難解な文章でないかぎり、文章を読むのに難渋することはありません。それは、子どものころから長い年月にわたって文字を学び、文章を読む経験を繰り返してきたからです。しかし、人生経験の少ない児童期までの子どもにとっては容易なことではありません。文字列を目で追いながら瞬時に著述内容を理解できるようになるためには相応のステップが必要です。そのステップとは何でしょうか。音読です。そこで今回は、「なぜ音読が必要なのか」を話題に取り上げ、音読の果たす重要な役割についてお伝えしようと思います。

 小学校入学後、子どもは「書き言葉」の学習が進むにつれて徐々に簡単な本なら自分で読めるようになってきます(大半の子どもは幼少期から文字に触れていますから、実際にはもっと早くから可能になっていることでしょう)。ただし、まだ大人のような黙読はできません。文字に対応する読みを声に出し、音声言語と照合して初めて意味理解が可能になります。なぜなら、文字学習の初期段階では、文字列をみると同時に著述内容を理解する脳内の体制がまだできあがっていないからです。つまり、当分は文字の言葉を耳の言葉(音声の言葉)に変換する必要があります。この作業に習熟すると、やがて目で文字列をとらえると同時にその読みの音をイメージできるようになっていきます。そうなると、声に出して読む手間が不要になります。これが黙読です。つまり音読は、黙読の段階へ漕ぎつけるための重要な仲立ちをしているのです。

 はじめは文字の一つひとつを拾い読みするかのように、文字に対応する読みを声に出し、目と連動させながら言葉のまとまりとその意味を確かめていくため、音読はぎこちなくゆっくりとしたものになりますが、何か月か練習をしているうちに読みが滑らかになりその速さも進歩していきます。そうして、2年生になる頃には声に出さなくても、すぐに著述内容の意味が理解できるようになるのです。黙読は音声というバイアスが解除されるため、スムーズに速く快適に読む作業を遂行できます。これが子どもの読書を活性化させる原動力となります。また、学習の効率を大いに高めてくれることになります。

 このように見ていくと、読みの発達は、まず「文字」の獲得に始まり、「音読」の励行、「黙読」への移行というのが基本的な流れだということがおわかりいただけるでしょう。黙読が軌道に乗るのは3年生頃からです。なお、音声を伴わずに頭のなかで思考をめぐらすことを「内言」と呼びますが、「内言」が発達するのは3年生の頃からです。黙読への移行がこれと連動しているのはうなずけることですね。

 さて、なぜ読みの能力獲得に音読が必須なのかということを、日本語の性質から見てみましょう。日本語には、「ひらがな」「カタカナ」という表音文字と、「漢字」という「表意文字」があります。小学校に入った子どもは、まず「ひらがな」を習います。言葉は、これらをつないで構成されますから、「ひらがな」は音符のようなものです。声を出して読むことと、言葉の切れ目を発見することを同時進行させて初めて意味を理解できます。もし、声を出さなければ、文字の流れを目で追っていっても、意味はさっぱりわからないことでしょう。「音をつないで意味をつくる」という体験が、日本語の「かな」の特性からどうしても必要なのです。これに対して、「漢字」は「表意文字」です。文字自体に意味があり、視覚的性格を強く帯びています。ですから、文章にたくさんの漢字が扱われる高学年の学習においては、しだいに「黙読」が主体になってくるのは当然の流れでしょう。

 この黙読が読みの主役になる過程において、音読の経験をたっぷりと積み重ねておくことが重要です。声に出して滑らかにスピーディに読めればそれだけ黙読も速く正確になるのです。さらには、つぎのような収穫も生まれます。

 なぜ上記のような効果が生じるかというと、音読は「読もう!」という意思がなければできません。読み手に積極性が求められる作業です。それを元気よく続ければ、話すときの声もおのずとハキハキと活発になります。それが波及効果を生み出すのです。また、声に出せば、自分の耳で自分の読みの状態を客観的に知ることができます。読みにつまずけばすぐにわかりますし、逆にうまく読めていればよい気分になります。すいすいよどみなく読めていれば、親は大いにほめてやりたいものですね。そうすれば、ますます子どもは張り切って自信たっぷりの大きな声で読むようになるでしょう。

 さらに、音読は飛ばし読みの防止に役立ちます。大人になると不要な個所を飛ばして読み、情報の入手を効率化することも必要になりますが、音読は間違えずに正確に速く読むための練習ですから、飛ばし読みは禁物です。2~4年生ぐらいのお子さんでしたら、まずは一つの段落をつっかえずに間違えずに音読するのをめざす段階から始め、やがて1ページを一気に読み切ることができるようになるといいですね。おとうさんやおかあさんと交代読みをするのも、練習に励みやアクセントをつける効果があります。親の上手な手本は、子どもにとってよい刺激にもなるでしょう。

 上述しましたが、声に出してよどみなく読めると、それに比例して黙読も速くて正確になります。当然、子どもは読むのが得意になればなるほど本を読むことに熱心になります。そうして、語彙が増える、思考力が増す、といった学習に必要な能力も引き上げられていきます。4年生から6年生にかけて語彙の爆発的増加現象がみられるのはこのためです。

 高学年で読解力が不足している子さんはいませんか? そういうお子さんに音読をさせてみると、たいていはすぐにつまずきます。おそらく黙読も遅くて不正確な状態だと想像がつきます。だから読解力が身につかないのです。該当するお子さんは、音読を今から励行しましょう。数か月もすると黙読力も確実に上昇します。

 音読は読みの上達にとって要の存在です。毎日少しの時間でいよいですから、まずは3か月継続してみましょう。読みの上達は間違いなく確認できることでしょう。

カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 家庭学習研究社の特徴, 小学1~3年生向け, 音読・読み聞かせ

おすすめの記事