勉強の空回り現象はなぜ生じる?対策は?

2026 年 8 月 27 日

 夏休みが終わりました。長い夏休みの期間は受験勉強に専念できるので、うまく生かせば一気に学力を伸ばすことも可能です。ただし、暑い盛りの時期の休暇だけにコンディション調整が難しく、ややもするとリズムや集中力を欠いた勉強に陥りがちです。おたくのお子さんは、計画通りにしっかり取り組めたでしょうか。

 学習成果は気持ちのもちようでずいぶん違ってきます。自ら考え、解決しようという意気込みのある子どもは勉強に集中力や推進力があり、やればやっただけの成果を得られます。いっぽう、大人に命令されてしかたなく取り組む子ども、上っ面の取り組みに終始する子どもは十分な成果を得られません。日頃からお子さんの様子を注意深く見守り、中身の伴った勉強ができるようサポートしてあげてください。たとえば、いつもより取り組みに自発性が感じられたり、やる気が感じられたりしたときは大いに喜びほめてやりましょう。親からのプラスの声かけは子どもにとってずいぶんと励みになります。この夏休みの受験生活はどうだったか振り返ってみましょう。気持ちの入った勉強、計画に沿ったリズム感のある勉強がどれぐらい実現できていたでしょうか。

 ところで近年、教科書やテキストを読んでも(読めるのに)理解できない、勉強しても成果が得られない(記憶に残らない)子どもが増加していることが問題視されています。主要な原因として、読書体力の不足ということが指摘されているようです。読書体力とはどういうものなのでしょう。簡単に言うと、長文を集中して最後まで読み通す力のことを意味しているようです。なぜ長文を集中して読み通せないのか(なぜ読書体力の不足という現象が生じているのか)というと、文章読解を支えるワーキングメモリが効率的に働いていないからです。ワーキングメモリとは、目的とする行為の遂行に必要な情報を一時的に脳内の記憶のストックから取り出し、必要な思考作業を終えたら順次消去していく短期記憶の機能的側面をとらえた言葉です。

 たとえば、文章を読むときの脳内作業を思い浮かべてみましょう。文字列のなかから言葉を見出し、その言葉と既有の知識とを照合しながら文脈に沿って意味を解釈していきます。同時に、この作業のために脳内に留めていた記憶は、役目を終えると同時に消去されます。そして、すぐさま次の文字列に目をやり、同じことを繰り返しながら文章のアウトラインや重要事項のみを記憶に残します。この作業をワーキングメモリが担っているのです。文章を読むときだけではありません。算数の筆算をするときの数の操作も、複数の案件を頭に思い浮かべて優先順位を決めるときも、おかあさんがたが家事の段取りをつけるときにもワーキングメモリが働いています。つまり、ワーキングメモリは人間の思考や情報処理、創造的頭脳活動を担う重要な役割を果たしているのです。

 再び文章を読むときのワーキングメモリの働きに話を戻しましょう。文章を読んで理解するには、二つの脳内作業の連携が必要です。まず、文字の一つひとつとそれに対応する読みの音を照合し、言葉を抽出しなければなりません。たとえば、文中にひまわりという文字があったとき、読み手は「ひ(hi)・ま(ma)・わ(wa)・り(ri)」という四つの文字とそれに対応する音を照合する(これを音韻の符号化と言います)ことで、ひまわりという言葉を認識します。しかし、それだけでは文章を理解するには不十分です。ひまわりという言葉と、脳内にストックしている花にまつわる情報とを突き合わせ、既知の夏に咲く大輪の花を映像的にイメージして初めて意味を読み取ることができます。つまり、文章を読んで理解するには、音韻の符号化と、イメージ化(心内表象)という二つのステップが必須なのです。

 ここからが本題です。なぜ長文を集中して一気に読み切ることができない子どもが増えているのかというと、上記の音韻の符号化の鍛錬が不十分なせいで、文字列から効率よく言葉を抽出することができず、この段階でワーキングメモリが容量不足の状態になり、著述内容をイメージするために必要なメモリが枯渇しているのです。ワーキングメモリは大変容量が小さいことで知られます。音韻の符号化を低負荷で効率的にできないと、イメージ化の段階に至る前にワーキングメモリの容量が不足し、十分な理解ができないのです。

 上述のように、文中の文字列のなかから「ひまわり」という言葉を抽出し、それを花のひまわりと理解する程度なら誰だって苦も無くできるでしょう。しかし、少し難解な文章を何ページも一気に読み解くとなると簡単ではありません。次々登場してくる文字列を仕分けして言葉のまとまりやつながりの関係を識別し、既有の記憶ストックから取り出した知識と照合して意味の流れをつかみ、不要になった情報を消去しつつ次へと読み進めていかねばなりません。これを快適に省エネでできないから読んでも理解できない、勉強しても頭に何も残らないといった事態に至るのです。

 読書体力の不足という問題が生じている原因は、おそらく子どもの活字離れ、携帯ゲームの普及などであろうと思います。子どもは小学校への入学とともに正式な文字学習を始め、それからわずか2、3年で読書に勤しむようになります。この文字学習のスタートから活発な読書活動に至る過程が、エンターテインメント性の高い視聴覚メディアの浸透とともに脆弱になったのではないかと思われます。つまり、読書の営みを支えるワーキングメモリが鍛えられないまま、中~高学年になる子どもが増えたことが読書体力の不足という問題を引き起こしたのでしょう。

 では、どうしたら子どもの読書体力低下問題を解決できるのでしょうか。まずもって必要なのは、音韻の符号化を正確かつ効率的に行えるよう鍛錬し直すことです。読むという作業で費やすワーキングメモリを最小限に抑え、イメージ化との連携を快適に行えるようになれば、読むことへの負荷が軽くなり著述内容の理解も促進されるでしょう。勉強も当然はかどるようになります。そのための具体的方法については、次回お伝えしようと思います。今回の問題に思い当たる節のある保護者は、ぜひ読んでみてください(読書を支えるワーキングメモリについては、5月1日のブログ記事にも書いています)。

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