わが子の素直な反省を引き出す会話のコツ

2026 年 9 月 14 日

 「子どもは親の言うことはろくに聞かない。しかし、親の真似をすることにかけては天才である」といった趣旨の言葉(うろ覚えですが、外国の知識人の言葉だったと思います)を書物で目にしたことがあります。思わず苦笑いをしてしまいました。わが子の足りない点について、親が大事な気付きを伝えようとしても、子どもはろくに耳を貸してくれません。そのいっぽう、親の些細な欠点のほうは実によく観察していて、しかもそれをすっかりわがものとして身につけていることが多いものです。心当たりのあるかたも少なくないことでしょう。

 子どもはなぜ親の言うことを聞かないのでしょう。言うまでもありません。嫌なことは聞きたくないからに決まっています。特に、勉強などのように辛さを伴うものに関しては、注意や叱責の言葉は心理的に苦痛が伴います。さらには、聞いたら落着ではなく、後で勉強のやり直しが待っています。そのことが頭にあるから、余計に親の言うことなど聞きたくなくなるのでしょう。いっぽう、親のいけない点や癖を見事なまでに写し取っているのはなぜでしょうか。これも理由は単純です。児童期までの子どもは、立ち居振る舞いの様式のほぼすべてを、親を見てはまねることで身につけているからでしょう。

 しかし、子どもが嫌がっても言わねばならないときがあります。特に中学受験をめざして勉強している子どもをもつ親であれば、子どもに伝えたいこと、改めてほしいことは山ほどあります。どうやったら子どもに聞く耳をもたせることができるのか。それが今回の話題です。みなさんならどういう答えを用意されるでしょうか。

 実際のところ、決定的な妙案はありません。あるなら、とうの昔にその解決策はあまねく広まっていることでしょう。ただし、確実に一定の効果を引き出せる方法はあります。しかも、大概の人が思いつくし実行できる解決策です。それは、子どもを注意したり叱ったりする前に、よい点を指摘してほめることです。ほめられて気分を害する子どもなんていません。ほめられることで子どもは喜び、親に心を開きます。そうして聞く耳が整ったところで、少し耳の痛い話をする。それなら子どもは素直に親の言葉を受け止め、自分のいけない点を改めようという気持ちになります。第一、子どもだって今のままでよいとは思っていないのですから。つい易きに流れ、楽な行動を選択してしまっているだけなのです。

 ほめたあとで叱る。これだけでもよいのですが、さらにダメを押すともっと効果が生まれます。叱った後、もう一度前向きな言葉を投げかけて締めくくるのです。ある県の中学校の校長先生のブログを拝見していたら、「ほめて、けなして、ほめる」という言いかたで同様の方法が紹介されていました。先生からいきなり注意されたり叱られたりすると、生徒の反発を招きがちです。そこで、まずはよい点を指摘してほめ、つぎに子どものいけない点を率直に指摘して叱り、最後に子どもの心に寄り添う言葉を添えます。それによってしこりを残さぬようにするのです。どうでしょう。これなら、子どもは自分の態度や行動を改めようという気持ちは高まることでしょう。

 世界中に広まっている民間教育運動の創始者の著作に、同じような発想に基づくアイデアが紹介されていました。以下は、それをもとにみなさんの参考にしていただけるよう、具体的場面を設定してまとめたものです。

 ポジティブなサンドイッチは、注意の言葉の間に、ポジティブなメッセージをはさむことで、子どもの自尊心を傷つけずに励ます方法です。これなら子どもは言われた点を素直に受け入れることができ、励まされます。

 なお、子どもが落ち着いて親の言うことに耳を傾けるようにする方法について少し付け加えておきます。一つは、子どもの目を見て話すことです。そうすれば、「おかあさんは真剣なんだ」と子どもは受け取るでしょう。洗い物の作業をしながら小言を言われても、子どもの心には響きませんが、まっすぐ目を見て話しかけられれば、さすがに子どもも真面目に聞こうとします。

 もう一つ心がけたいのは、できるだけ落ち着いてゆっくりと話すことです。子どもを叱るとき、とかく親の声は高くて早口になりがちです。それに慣れてしまうと、子どもは親の言うことを聞き流すようになります(一種の防衛手段でしょう)。いっぽう、子どもの目を見据え、ゆっくり丁寧に話しかけられると、子どもも感情を高ぶらせず親と目線を合わせるようになるでしょう。これが聞く耳を育てることになります。「このところ叱ってばかり」と後悔しておられる保護者は、ぜひ試していただきたいですね。きっと親子の関係が変わると思います。

 最後にもう一つ付け加えておきたいことがあります。子どもを叱る役割は、とかくおかあさんのほうに集中しがちです。日常生活で時間を共有することが多く、子どもの世話をする役割の大半を引き受けておられるからやむを得ないことでしょう。そんなおかあさんに慰労の言葉を投げかける人がいれば、きっとおかあさんの注意や叱責の言葉にも余裕が生まれるでしょう。お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏(故人)の著書(「ことばの力」中公文庫)にこんな著述がありました。

こどもはほめなければ伸びない。母親によくそういう話をするけれども、内心、母親はなっていない。と思っていることが多い。このごろ、そういう自分に気付いて、愕然とした。母親もほめてやらねば、こどもをほめることのできる自信をもったお母さんになるわけがない。

 日本のおかあさんは、平均して家庭におけるしつけ教育の80数パーセントを担っているという統計資料を見たことがあります。おかあさんの負担は並大抵ではありません。それがおかあさんがたの心の余裕を失わせている面もあるのではないかと思います。おとうさんがたには、そのことに改めて注意を向け、おかあさんへの感謝と慰労の声を投げかけることを忘れないようにしていただきたいですね。無論、おとうさんに限らず、そういう働きかけがあればおかあさんにとって随分励みが得られるでしょう。

 親子関係は距離が近いため、互いに「わかってくれるはず」という甘えが生じがちです。そのために感情がぶつかり合い、言わずもがなのことを言ってはあとで後悔するのも度々です。今回の記事が、親子関係の風通しをよいものにするうえで多少なりとも役立てば幸いです。

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