書く力はじっくり育てるべきもの

Posted 2012年5月15日 火曜日

 うちの子は、今の状態で大丈夫だろうか。他の家のお子さんは、もっと進歩や上達が早いのではないだろうか。

 小学校低学年のお子さんをおもちのおかあさんで、こうした心配をおもちのかたはいらっしゃいませんか? わが子についてあれこれと心配をするのは、親なら当たり前のことです。お子さんが小学校に入学するとき、「うちの子は、学校になじめるかしら」などと、ずいぶん心配されたことでしょう。わが子にまつわる心配や気苦労は、まだまだ当分の間続きます。

 最近も、1年生のお子さんをおもちのおかあさんから相談を受けました。「うちの子は、まだ書くことが達者にはできません。今のままで大丈夫でしょうか。他のお子さんより遅れているということはないでしょうか。何か特別なことを、今のうちにやらせておいた方がよいのでしょうか」――確か、こうした内容の話だったと思います。

 子どもは小学校に入学とともに、リテラシー社会の一員となるために必要な読み書き能力を養うための学習を始めます。しかしながら、ほとんどの子どもは、それよりもはるかに前から文字の学習を体験しています。なかには、かなり長い文章でもすらすらと読めるようになっているお子さんもいます。書くことにしても、自分の名前を漢字で書けるぐらいのことは朝飯前で、たくさんの漢字を書けるようになっているお子さんも珍しくありません。

 したがって、小学校入学の時点において、子どもたちの読み書き能力にはかなりの個人差があります。このことを気にされるおかあさんのなかには、「早くから読み書きの学習を始めていたほうがよいのではないか」と心配されるかたもおありでしょう。これについて、ある専門書には次のようなことが書いてありました。

 「早く読み書きを習った子どもは、はじめは何かと有利だが、段々とその差は縮まり、2年生になる頃にはあらかた先行体験のアドバンテージはなくなる。」

 これはうなずけることです。早く人よりも難しいことを学んでいたほうが、学力形成において有利であるなら、中学受験においてもそのことが実証されるはずです。

 しかしながら、毎年数多くの受験生を指導している弊社の現場で、そうした先行体験有利説は全くと言ってよいほど聞こえてきません。実際のところどうなのでしょうか。そこで、引き続き専門家の見解をかいつまんでご紹介しましょう。

 「たとえば書くことであるが、ただ書く練習をたくさんして、漢字をいっぱい覚えたとしても、それだけで学力が高くなるわけではない。重要なのは、子どもがひらがなや漢字などの文字の利便性や機能に自ら気づき、役立つことを実感する体験をすることだ。そうして、この便利な文字というものを、子どもが心底使えるようになりたいと願って勉強すれば、先に勉強を始めた子どもに追いつくことは少しも難しいことではない。むしろ、人よりも先に覚えさせようと大人が勉強を強要することのほうが問題である。そうなると、テストで高得点をあげることが勉強の目的になってしまう。そういう子どもは、結局行き詰まってしまう。」

 1年生の子どもは、おかあさんとの手紙のやりとりが大好きです。おかあさんが買い物で外出するときに、お子さんに手紙を書いたとしましょう。学校から帰って、おかあさんからの手紙を発見した子どもは、手紙をもらったことがうれしくて、おかあさんが帰ってくるまでに返事を書こうと一生懸命にがんばります。そういう思いで書くための努力をしたなら、それはほんとうの勉強になります。

 特にまとまりのある文章を書くことは、子どもにとって相当な難事です。相手が目の前にいないうえ、返事がすぐにはもらえません。自分が伝えたい事柄を順序だて、読んだ人がわかってくれるような流れで書けるようになるのは、まだまだ先のことです。内言が発達し始めたばかりの子どもにとって、自分の思いを書き言葉で表現するのは大変な頭脳作業なのです。たくさんの経験をしなければ、思いを書き言葉で自在に表現できるようにはなれません。

 1・2年生の子どもをもつおかあさんは、たいがい「うちの子は、書くのが苦手です」と、おっしゃいますが、それは当たり前のことなのですね。ただし、前述のようにおかあさんとの手紙のやりとりに熱中したり、毎日僅かでも日記を綴ったりするなど、継続的に書くということに取り組んでいると、ある時期から急速に進歩し、長い文章を書けるようになります。頭に浮かぶ自分の思いを、書き言葉に変換して表現する脳内の態勢が整ってきたからです。それは、3年生頃だと専門家は述べています。

 こうして、どの子も書くのが苦手に見えた状態から、構想力を発揮して長い文章を書けるようになった子どもと、いつまでも幼稚な文章を少ししか書けない子どもとがはっきりとしてきます。このことからもわかるように、進歩が表面化するまでの努力の積み重ねが重要なのです。この段階で顕在化した差は、もはや少々の努力では埋め合わせることができません。

 今はちゃんと書けなくても焦る必要はありません。お子さんに、「書くって楽しいことだね。文字って便利なものだね」ということを具体的な状況のもとで、繰り返し教えてあげてください。文字を使って表現することを自ら欲する子どもになるよう働きかけてあげてください。そうすれば、お子さんは自然と書くということに目を向け、自分の思いを綴ることに熱心な子どもになっていきます。そうなったなら、もう何も心配する必要はありません。


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