読みのスキルを向上させ、読書体力の不足問題の解消を!
2026 年 8 月 31 日
8月27日に掲載したブログにおいて、読めても理解できない子ども、勉強が空回りする子どもが増えていることをお伝えし、その原因として考えられるのが読書体力の不足であることを確認しました。そこで今回は、読書体力の不足にどう対処したらよいかについて考えてみようと思います。
読書体力とは、長文を集中して最後まで一気に読み通す力のことを意味します。それが脆弱なのは、読みの作業を支えるワーキングメモリが容量不足に陥るからだと思われます。ワーキングメモリは容量が極めて小さいため、負荷の少ないスムーズな読みができないと、途中で容量不足をきたし、読んでも理解できない、記憶に残らないという事態を招いてしまうのです。読書体力の不足は、勉強の成果にも少なからぬ影響を及ぼします。塾のテキストを読んでも、理解が不十分で学んだことが頭に残りません。そこで今回は、読みの効率性を高め、ワーキングメモリの働きを促進する方法を考えてみようと思います。
- 1)音韻の符号化がスムーズに行われているかどうかを確かめる。
まずもって確かめたいのは、わが子が正確に音韻の符号化を行えているかどうかです。この段階で躓くと読みは成立しません。音韻の符号化とは、「文を構成する文字の一つひとつと、それに対応する読み(音)を照合する」ことを言います。この作業を通じて、言葉のまとまりや区切り目、つながりの関係を仕分けし、文意を理解していきます。つまり、文字言語を音声言語に変換しているのです。なぜそれが必要なのかと言うと、人間の言語理解中枢が音声言語を理解するためのものだからです。
音韻の符号化を文章の流れに沿って行うのが音読です。お子さんが音読を正確にスムーズに行えているかどうかをチェックしてみましょう。できるなら、教科書や弊社の国語テキストの素材文1ページ程度は誤読や躓きなしに読めるようになりたいですね。これをクリアすれば、ワーキングメモリは読みの段階で容量不足に陥ることはありません(問題があれば、最低3か月は毎日約15分音読練習を!)。
滑らかで正確な黙読は音読の鍛錬を通じて可能になります。というのも、上述したように黙読は音韻の符号化を経なければ不可能だからです。子どもは音読の繰り返しを通じて、文字列を見ただけで読みの音を脳内でイメージできるようになります。すると、声に出さずとも文意が読み取れるようになります。これが音読から黙読への移行です。ところが、近年は音読が不十分なまま黙読へ移行する子どもが増えています(保護者がそれに気づいておられません)。声に出して読む音読よりも黙読が楽だからです。
- 2)読んでもわからない理由は他にもあります。対策は?
1.読みに集中できる態勢が整っていない
机の上に雑多なもの(ゲーム機や漫画本など)があると気が散ります。周囲から聞こえる音も読みの作業の妨げになります。読むときの着座姿勢も影響します。体を斜めに崩したり足をぶらぶらさせたりすると、読みに集中できません。
2.読むことだけに気をとられ、理解が疎かになっている
「ちゃんと読まなければ」ということに気を奪われるあまり、何が書いてあるかに気が回らなくなる子どもがいます。その証拠に、読了後「何が書いてあった?」と尋ねると「わかりません」と答えます。また、こういう子どもは読みが不得手なため、読むことでワーキングメモリを使い切ってしまい、理解するためのメモリに不足をきたしてしまいます。。
3.文のまとまりや区切り目が判断できない
活字に触れる経験が少ない子どもは、言葉のまとまりや区切り目を仕分けするのが苦手です。「はやりものはすたりもの」などの表現に出くわすと、目を白黒させてしまいます。当然ながら、読みに四苦八苦してワーキングメモリを早々と消費してしまいます。

4.理解語彙が足りない(特に抽象語)
小学校の教科書を見ると、3年生頃から抽象語が増え始め、4年生から一気に増加します。使用語彙や理解語彙の量は、日頃の読書生活や会話生活の質や量で決まります。言葉の生活が脆弱な子どもは、言葉の壁に突き当たってしまいます。上記のような中学受験の素材文にはお手上げになってしまうでしょう。
《対策》
1についての対策は、落ち着いて読みの作業に集中できる環境を整えることでしょう。机の上に余計なものを置かない、テレビをつけっぱなしにしないなど、すぐに思いつく対策があるはずです。背筋を伸ばした正しい着座姿勢を身につけるよう、しばらくは保護者のサポートも必要です。2は気持ちの向けかたの問題です。正確によどみなく読むことに留意しつつ、並行して著述の意味をしっかりと押さえる読みかたを心がけるのです。それを絶えず励行しているうちに、徐々に理解の伴った読みができるようになります。3は“慣れ”の問題でしょう。活字に慣れ親しみ、活字を通して情報を得る習慣を浸透させれば、しだいに文を構成する文字や言葉の仕分けが上手にできるようになります。4は言語生活を豊かにすることに尽きるでしょう。書き言葉、話し言葉に関わらず、言葉に触れる生活が充実すれば、語彙は確実に増えていきます。教科の学習もさることながら、言葉に触れる生活を充実させることも、中学受験に向けての重要な備えであることを忘れないようにしたいものです。
- 3)読みの習熟は、読みの経験をふやせば増やすほど進みます。
ここまでの反芻になりますが、正確に文章を読めるようになるための前提は、音韻の符号化のスキルを高めることです。それには声に出して文章を読む音読がいちばん効果的です。音読は黙読への単なる橋渡しではありません。声に出す読みのほうが記憶によく残ります(音声言語の歴史は、文字言語の歴史よりもはるかに長いからでしょう)。音読を励行して読みのスキルを向上させながらも、音読で著述内容を理解する取り組みも継続しましょう。必ず中学受験対策の勉強の成果につながります。なお、音読は読んでいる子ども自身で間違いに気付けるので、一人で取り組んで成果を上げることが可能ですが、できるならしばらくは保護者が練習につき合い、交代で読みを競い合ったり、うまく読めたときにはほめたりしたほうがよいでしょう。子どもにとって励みになるからです。
研究者によると、読みの力は読めば読むほど向上します。かつて名推理小説家として名をはせたエドガー・アラン・ポーも、「本を非常によく読む者は、その読書能力を幾何学的に大きく伸ばしていく」と述べています(筑波大学名誉教授 佐藤泰正氏の文献より)。また前述の佐藤先生によると、文章を易しくするよう配慮することよりも、たくさん本を読んで読みの力を鍛錬するほうがはるかに読みの効率化に役立つそうです。「経験に勝るものなし!」と言えるでしょう(もちろん、難しい文章を無理に子どもに与えても逆効果を招くだけです)。読書は、過ぎれば受験勉強の妨げになるものの、中学受験期の小学生にとっては読みの上達に向けて欠かせない体験でもあるのです。無理のないよう生活に浸透させ、快適かつ効率的な読みができるようになるまで、上手にお子さんをサポートしてあげてください。
文部科学省の全国学力・学習状況調査によると、読書時間の長い子どもほどどの教科の正答率も高いと報告されています。ただし、同調査によると平日に平均30分以上読書をする子どもの割合は3割ほどしかいません。年々日本の子どもの読書時間は少なくなっています。今や小学生全体の7割は学力形成にとって不十分な読書状況で過ごしているのです。そういえば、弊社でトップランクの成績を安定してあげている児童の大半は読書に熱心な子どもたちです。読めば読むほど読みの熟達は進み、読みの負担は軽減されますから、「読んで理解する」という自学自習の基本を忠実に実行できるわけです。
繰り返しますが、読みの技術がレベルアップすれば、ワーキングメモリの枯渇を招かなくなります。そのための対策は、音韻の符号化をスムーズに行えるようにすることです。具体的には、音読に取り組むこと、読書を受験生活の中に浸透させることです。それによって読みの負担が少なくなり、すらすら快適に読めて、著述内容の理解も進むようになります。また、正確に読むだけでは理解につながりません。読み進めながらイメージング化(心内表象)を連動させる必要があります。さらには、読んで理解するためには語彙の拡充を図る必要があります。読書はここでも大活躍します。親子間の会話も決して受験生活に不要なものではありません。子どもの語彙拡充に一役買うだけでなく、勉強への意欲増進や親子の信頼関係の強化にも重要な働きをします。
読書体力の不足が、お子さんと無縁でないと思われたご家庭におかれては、今回の記事を参考にしていただき、読みの力の巻き返しを図っていただきたいですね。遅きに失することはありません。読みの習熟を図れば、当面の中学受験突破のみならず、さらに先の学びの人生に多大な恩恵をもたらすのですから。



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