受験勉強は今どうなっていますか?

2017 年 5 月 22 日

 2017年度の前期講座が開講して約3ヶ月(4年部は2か月半)が経ちました。進学塾への通学が初めてのお子さんも、今ではだいぶ慣れてきたことでしょう。

 ただし、“ナレ”は“ダレ”にもつながります。開講間もないころの程よい緊張感が薄れてくると、いつの間にか勉強が惰性に流れてしまうお子さんがいます。逆に、何もかもが初めての経験で戸惑ってばかりだったお子さんが、1~2カ月もすると学習の要領がつかめてきて、今では勉強への手ごたえを感じておられるケースもあるでしょう。一人でも多くのお子さんが、毎回のマナビーテストを楽しみに意欲的な学習生活を過ごされることを念じています。

 今回は、お子さんの勉強ぶりに「もうちょっとがんばれないものか」「勉強がマンネリに陥りつつあるのではないか」と、少し心配をされているご家庭の保護者に、受験生活の活性化に向けた提案をさせていただこうと思います。

 すでに何回もお伝えしましたが、小学生までの子どもの学習意欲を支えているのは、「学習から得られる達成感」や「目標を達成したいという気持ち」ではありません(無論重要な要素ですが)。それよりも、「親に認めてもらいたいという願望(低~中学年)」や「親の期待に応えたいという気持ち(中~高学年)」が、子どもの前向きな学習を実現するうえでより大きな作用を果たします。それは子どものもつ精神的な世界が未熟であり、全面的に親を頼って生きているからに他なりません。

 このことを踏まえるなら、「やる気が見られない」「惰性に陥っている」「実行力を欠く」など、わが子の勉強に対する親の不満があったとしても、それは必ずしも子どものせいとばかりは言えません。「子どもの現実は、親を鏡に映したようなものだ」と言われるように、親の生きかたや子どもへの関わりかたが原因である可能性が多々あります。ですから、「子どもの学習意欲は親次第なのだ」と思っていただくとありがたいです。わが子の受験生活に関心を寄せる親の姿勢が大切なのです。親がフレッシュな気持ちを失えば、当然子どもの勉強も惰性に陥ってしまいます。

 では、具体的に親(特におかあさん)はどういう点に気をつければよいのでしょうか。

①子どもの努力やがんばりを信じて見守る

 子どもは親に信頼されていると思うと張り切ります。長い受験生活は、親の信頼という後押しあってこそ乗り切れるものです。子どもがやるべきことをしない。注意する。叱る。無理やりやらせる。これを繰り返すと、親子の信頼関係は崩れ、子どもの意欲喪失につながってしまいます。

 「でも、ちゃんとやっていないのに信頼するなんて」と思われるかたもおありでしょう。しかし、その考えかたは生産的ではありません。子どもは親次第なのです。親が「今からだってやれるはず」という信念をもてばやる気に灯は灯ります。一度親子で受験勉強についてじっくりと話し合いましょう。成績のことより、毎日の取り組みを大切にすることが親の願いであることを、優しく丁寧に伝えてあげてください。

 そのうえで、改めて決心していただきたいのです。それは、「わが子のがんばりを信じる」こと、そしてもう一つは、「指示や命令で子どもを動かさない」こと。親がその覚悟で見守っていれば、親の気持ちは必ずお子さんに伝わります。お子さんの意欲が高まれば、成績は必ず回復してきます。

 お子さんの立場に立って考えてみましょう。おかあさんが「できないのではないか」と不安がっていると感じたり、「どうせやらないだろう」と思っていると受け止めたりしたなら、勉強のモチベーションは下がることはあっても上がることはありません。

 改めて親子で学習計画を確認、調整し、「ちゃんとやれるよね」と信頼の気持ちを伝えてあげてください。無論、自立の度合いやしっかり度は、お子さんそれぞれに違います。親の期待する勉強とはどういうものかをお子さんに伝え、お子さんが「やる!」と決めたことをやらせればよいのです。

②少しずつの進歩を期待し、忍耐強く見守る。

 受験のための塾通いをしていても、受験生らしい自覚に基づく勉強が実現するのはもっと先(6年生の後半になってから)のことです。それが多くの小学生の現実です。

 ですから、「子どもとはそういうものだ」と思ってください。焦ってはいけません。まずは、「塾へ通うのが楽しい」「○○の勉強はおもしろい」といったように、勉強を受け入れ、嫌がらずに(できるなら、楽しいと思って)取り組むようになることを当面の目標にしましょう。私たちも、そういうつもりで指導していきます(6年生には、その段階に応じた対応をしています)。

 無論、子どもにもメンタル・コンディションがあります。やるべきことをやらなかったときには、どうしたらよいでしょうか。そういうときこそ忍耐が必要です。問いつめたり、叱ったりしないことです。きっとがんばれない理由があります。子どもの言い分に耳を傾けてやりましょう。「どんなときにも親は信頼できる」お子さんがそう思ったなら、決して勉強を投げ出すようなことはありません。

 受験生の親は、受験が終わるまでストレスとの闘いは避けられません。しかし親が辛抱し、子ども自らの取り組みを引き出すべく粘り強く働きかけた受験に失敗はないと断言できます。わが子の中学受験とは、どの親にとっても忍耐と辛抱の連続体なのです。

 子どもの現実を目の当たりにすると、ほとんどの親は「こんなことでは」と、ペシミストになりがちです。しかし、取り組みのよい子どもの親のほとんどはオプティミストです。「今はまだまだできていないけれど、きっとやれるようになる」という希望を失わないでください。そういう親の姿勢は必ず子どもに伝わり、「親の期待に応えよう」という気持ちが次第に高まってきます。

③努力を指標に見守り、ほめることを忘れない。

 はじめは気持ちよく応援していたおかあさんが、突如として様変わりすることがあります。それは、お子さんがテストの成績をもらって帰ってきたときです。

 成績がよければ、おかあさんは上機嫌になり、余裕をもってお子さんに接することができるでしょう。問題は悪い成績をもらったときです。そんなとき、ポーカーフェイスでわが子に接するのは難しいものです。子どもの成績を見たおかあさんが突如として猛烈教師になる。そんな話を聞くことがあります。

 しかし、それをしてしまうとお子さんの自立勉強は崩れるし、勉強への前向きな気持ちが引っ込んでしまいます。さらには親への不信感をもたせることになります。また、親が教え始めると、当面の成績は上がるケースもありますが、それをすると受験の意義は大きく損なわれてしまいます。

 大切なのは、親が焦らないことです。そして、出発点のとき以上に、子どもが楽しく学ぶこと、意欲をもって学ぶこと、日々の勉強をちゃんと計画通りやり遂げることが大切なのだということを自らに言い聞かせ、愛情深く応援してあげてください。

 そして、子どものやる気を高めるために、大いにほめることを心がけてください。「成績が悪いのにどうやってほめるのか」とおっしゃるかたもおられるかもしれません。そういうおかあさんには発想の転換をお願いします。成績が上がったらほめるのではなく、がんばりを引き出すべくほめるのです。具体的には、日々予定していた勉強をちゃんとやっているとき、いつもよりも熱心に学んでいるとき、勉強以外のことでもがんばっているとき・・・・・・ほめるタイミングはいろいろあります。

 テスト結果でほめようとすると、親がわが子をほめるチャンスは少なくなります。しかし、努力を評価軸に置いたなら、ほめる回数は格段と増えるのではないでしょうか。親のそういう見守りがお子さんに通じないはずがありません。

 中学受験は、子育ての最中にある子どもの受験です。まだ親がかりの年齢にある子どもの受験生活は、“しつけ”と切り離して考えることはできません。そこで、最後に、“しつけ”とはどういうものかをともに考えて終わりたいと思います。

 外国の有名なカウンセラーは、次のように語っています。

 多くの親はしつけの目的について誤解している。彼らはしつけの目的は子どもをコントロールし、何が何でも子どもに言うことを聞かせることだと信じている。この目標は間違っているし、とうてい達せられるものではない。しつけの目的はコントロールすることではなく、協力を得ることである。協力とは、子どもが親の意向に従うことを自らの意思で選択する、という意味だ。

 望ましいしつけとは、子どもとのパートナーシップを築くことです。押しつけるのではなく、子どもの側から自発的に「親の期待に沿った行動をしよう」と思うような関係を築くことです。

 そのことをこれから心の隅に置いて、お子さんの受験生活を応援してあげてください。感情的に叱ったり、無理やり言うことを聞かせたりするような、親にとっても辛い受験生活になるとお子さんのためにもよくありません。お子さんの受験を子育ての仕上げにするつもりで、自立に向けた見守りと応援をすることが、お子さんにとってもいちばんよいことではないでしょうか。きっとお子さんは、学力を身につけるだけでなく、人間力にも秀でた立派な人間に成長されることでしょう。


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受験生よりも苦労の多いおかあさんのために

2017 年 5 月 15 日

 中学受験に長らく関わってきた筆者ですが、指導の現場に立っていた若い頃には、大概6年生の男子のクラスを担当していました。そのせいか、やんちゃで口答えが多く、親の期待通りにがんばってくれないわが子に苛立つ保護者の様子を随分たくさん拝見したものです。

 これは、受験生がしつけの終わっていない年齢の小学生であることから必然的に生じることであり、見守り応援しておられる保護者、とりわけおかあさんがたの苦労は、並大抵のものではありません。おかあさんがたには、「どうにかしてがんばってほしい」「何とか希望の中学校に受からせてやりたい」という強い願望があります。しかし、当の受験生である子どもの年齢が、受験を理解しベストな学習生活を送るには若すぎるのです。

「このまま今のような状態では、とても志望校合格は覚束ない」――こんなふうに、大人は先を読んで考えます。わが子の無自覚で無頓着な勉強ぶりは、やがて心配を通り越してストレスと化し、さらには毎日のように叱っては親子喧嘩といった状態に至ることさえあります。そうした話を多数聞きましたし、現実に指導を担当していたお子さんの家庭でも、同様の問題がたくさんあったことは想像に難くありません。

 無論、数えきれないほどたくさんの面談も行いました。おかあさんがたと面談をすると、家庭での学習生活や親子関係の状況がかなり詳しくわかります。若い頃には、塾で掌握していたつもりの子どもの実態が、おかあさんとの面談で全く現実と異なっていることを知って驚かされるとともに、自分の見立てや認識の甘さを思い知らされることがたびたびありました。面談は家庭との連携体制を築く貴重な機会であり、勉強の場であったとつくづく思います。

 おかあさんと直接お会いし、お子さんの学習についていろいろとお話しすると、それをきっかけにして何かあったときに双方とも連絡をとり易くなります。面談を終えてしばらく経った頃、家庭でお子さんと大げんかになり、困ったおかあさんからサポートを依頼する電話を受けたことを思い出します。「先生の言うことなら何でも聞きます。うちでは先生が絶対なんです。今息子を電話口に出させますから、先生叱ってやってください!」と依頼され、どう言ったものか困ったことを思い出します。あの頃、おかあさんがたの心の内にある苦しみをどれだけ理解していたでしょうか。今更ながら未熟だった自分を申し訳なく思わずにはいられません。

 ところで、弊社には「おかあさんの勉強会」という呼称の催しがあります。この催しは、筆者が現場での指導から退いたあと、「受験生を抱えているおかあさんがたを元気づけるよい方法はないものか」と、いろいろ考えた挙句具体化したものです。一対一で何でも話し合える催しなら「面談」があります。塾の方針や指導の流れを説明する催しは「保護者説明会」などいろいろあります。

 個別に話し合える場、一方向で多数の方々に情報を提供する場、この二つの形式の催しは弊社だけでなく、どの学習塾にもあります。これらの形式では満たされないニーズに応えられる催しはないものか、おかあさんがたの毎日の子育てに元気と指針を提供できる方法はないものかと、いろいろ思案しました。その結果、受験生をもつおかあさん同士が語り合える、双方向性に基づいた催しを思いつきました。そして、この形式で世界中に広まっているのが「ワークショップ」であることを知り、ワークショップに関する情報を集めたり、自ら参加して体験したりし(様々な人生の悩みを抱えた人たちが参加しておられました)、最終的には自らワークショップのファシリテーターの資格(公的資格ではありません)を取って、この催しを企画するに至った次第です。

 今年度の「おかあさんの勉強会」は、前期・後期各1回実施する予定です。前期は、いずれも6月に実施を予定しています。「週3日通学コース」の会員家庭向けには各校舎にて、また「土曜コース」の会員家庭向けには三篠校にて開催いたします。以下は、勉強会のおおよその概要と実施日程です。

★2017年度 前期 「おかあさんの勉強会」概要

テーマ/「愛ある声かけが子どもを動かす!」(副題:子どもの奮起を促す言葉の研究)
対象/4・5年部会員の保護者
主内容/1.あなたはどんな“声かけ”をしていますか? 2.あなたの“声かけ”のパターンをチェックしてみましょう 3.子どもはおかあさんの声かけをどう思っている? 4.反省と修正を促す声かけ、自信とやる気を吹き込む声かけ
進行方法/司会者の進行と説明に基づき、グループごとにテーマに沿った話し合いをします。緊張を要する「発表」などはありません。楽しい話し合いを通じて、おかあさんがたに受験生活の充実に向けた気づきを提供できるよう趣向を凝らした催しです。
参加方法
「週3日コース」会員…校舎でチラシが配布されたら、電話予約のうえ、申込書を前日までに校舎窓口にご提出ください。
「土曜コース」会員…チラシが配布されたら、本部事務局に電話予約のうえ、申込書を当日会場の窓口にご提出ください。

 最後に、この催しに込めたおかあさんがたへの応援の気持ちについて少し書かせていただこうと思います。

 冒頭でお伝えしたように、中学受験はしつけの終わっていない段階にある小学生の受験です。受験生活を始めたばかりの4、5年生は、受験とその後に控える中学校生活とを結びつけて考えられるだけの人生経験をもちあわせていません。必然、勉強ぶりはおかあさんがたから見れば能天気で無自覚で頼りなく見えるものです。

 しかし、この段階こそ、親がわが子に深く関われる最後のチャンスなのです。中学生になると思春期が訪れ、親子間の心理的な距離は今よりもずっと離れていきます。言えば口答えをするけれども、親に全面的に頼って暮らしている今のうちにこそ、毎日の生活を通して人間として身につけておくべきことを教えておかなければなりません。無論、受験勉強にどう取り組むかも、決して子育てと切り離して考えるべきではありません。

 あからさまな例で恐縮ですが、たとえばおかあさんが「受験勉強が何より優先されるべき。生活上の面倒はすべて自分が見て、とにかく勉強だけに専念させよう」と思い、それを実行したとしたらどうなるでしょう? ひょっとしたら、この作戦が功を奏してお子さんは志望校の一つに受かるかもしれません。しかし、中学校に進学したなら、お子さんはもはやおかあさんの手を借りて問題を乗り越えることなどできません。生活面の自立も、勉強の自立もままならないお子さんには、乗り越えるに難渋する様々な問題が次々に立ちはだかることでしょう。

 よく言われることですが、苦労して手に入れたものほど価値があるものです。自分で算段して学ぶことを子どもに教えるにあたっては、当の受験生よりも親のほうに多くの負担が伴います。手っ取り早い方法を採りたい気持ちに打ち勝ち、辛抱強くわが子の自立に向けた応援をしていくには、同じ条件でがんばっておられる方々と交流するに限ります。この勉強会で、同じ立場にあるおかあさん同士が苦しみを分かち合い、互いに元気や勇気を吹き込むことができれば、随分違ってくるのではないでしょうか。

 「おかあさんの勉強会」にぜひ参加してみてください。きっと何かが変わると思います。長いようで短い受験生活。悔いの残らぬものにしてくださいね。


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子どもの将来のための知的基盤づくり

2017 年 5 月 1 日

 今回は、前々回の話題の続きです。少し堅苦しい話になるかもしれませんが、中学受験準備の段階の家庭教育の重要性、そして、「どのような学習で入試を突破すべきか」という重要な内容に関わる話題ですので、最後まで目を通していただければ幸いです。

 近年、欧米においては学業成績の良し悪しを決定づける要因として、学習に向き合う姿勢や、日常的な習慣など、いわゆる「非認知的特質」が注目されているということを前々回はご紹介しました。こうしたファクターは、知的能力の高い集団において、個々の力量差が少ない場合に、成果の違いを生み出す大きな要因になると言われています。

 この「非認知的特質」がどういうものかをもう少し具体的にご紹介しましょう。たとえば、「勤勉さ」「粘り強さ」「自制心」「やり抜く力」「知的好奇心」などです。これらは、中学受験の準備学習においても重要な働きをすることについては、みなさんもおそらく同意されることでしょう。やる気や粘り強さ、実行力などが強ければ強いほど勉学の成果があがるのは疑いないことだからです。

 ところが、中学受験の助走において、上記のような「非認知的特質」が顧みられず、子どもを時間的にも空間的にも枠に閉じ込め、無理やり勉強させるスタイルの受験勉強がしばしば行われていると聞きます。なぜでしょう。それは、子どもが年齢的に未熟で、自分自身で勉強の段取りをつけたり管理したりすることが難しく、合格を得るには大人が指揮監督して勉強させるほうが、学力を確実に伸ばせると思われがちだからかも知れません。

しかしながら、前述の「非認知的特質」は、子どもの人格が定まってくる年齢までに家庭教育で形成されるべきものです。そこのところを親は見失うべきではありません。

 前述のように、「非認知的特質」が学業の成否を分けるのは、大学での高い水準の学び、高度な研究機関での学びなど、個々人の所属する集団全体のレベルが高くなったときです。ですから、中学受験や高校受験、一般的な大学の入学試験などにおいては、必ずしも絶対的な違いを生み出すわけではありません。中学受験の場合、合格をめざした受験対策のイニシアチブは大人の側にあり、「無理やりやらせる」という方法、つまり「認知的特質」に偏った受験指導が一番手っ取り早いのです。実際、それで「合格」が得られるし、この方法に内在する問題点は当面表面化しません。だから、「鍛えて通す」といったスタイルの受験指導がいまだにはびこっているのでしょう。

 ただし、子どもの将来という見地に立つと、この方法の問題点に目を向けないわけにはいきません。学問が高度なレベルで必要とされ、少々の努力では立ち行かない条件に至ると、その人物の学問に対する向き合いかたや取り組みの姿勢がことの正否を決定するようになります。高い次元の学びの世界では、受動的な取り組みで得た知識や技能は通用しません。目的の遂行に向けて戦略を編む能力、様々な角度から解決法を検証する柔軟な思考、簡単にあきらめない粘り強さ、自らを納得させたいという強い探求心などが大きくものを言うようになるのです。

 以下は、だいぶ前に拝見した教育社会学者の著作で提示されていた学力モデルを視覚的に表現したものです。一本の若木を構成する部分を、学力を支える部分になぞらえてわかり易く説明されています(なお、イラストは弊社が作成したものです)。この図を見ていただくと、「非認知的特質」の重要性がよくおわかりいただけるでしょう。

 この学力モデルでは、学力の要素を3つに分けています。仮に「A学力」「B学力」「C学力」と名づけておきましょう。Aは、木の葉の部分に、Bは幹や枝の部分に、Cは根っこの部分に対応しています(この表現は、上記の大学の先生が使用されていたものをそのまま借用しました)。

「A学力」=「知識」「理解」「技能」など
  ペーパーテストで簡単にはかれるような、点数化し易い学力。
「B学力」=「思考」「判断」「表現」など
  ペーパーテストではかりにくいが、テストの結果に大きな影響を及ぼす学力の要素。
「C学力」=「意欲」「関心」「態度」など
  点数化困難だが、他の学力要素の基盤として重要な働きをする要素。

 この学力モデルを提唱された大学の先生によると、三つの学力は文字通り一体となってひとつの学力の樹を形づくっています。一つでも欠けていたら、生きた樹にはなりません。また、たとえ三つがそろっていても、いずれかが脆弱であれば健全に育ちません。

 子どもが習得する個々の知識や技能が、一枚一枚の葉っぱに相当します。それらの存在は個別に見たなら取るに足りません。しかし、生い茂った葉っぱは総体として大きな力を発揮します。葉は太陽の放つ光の受容体となり、光合成によって植物の成長に不可欠な栄養分をつくり出します。

 葉は、環境の変化や四季の移り変わりで枯れたり、生えかわったりします。学習で得た個別の知識も同じことです。それらは忘れても一向に構いません。大切なのは、必要に応じて知識を更新したり、新しいジャンルの知識をつけ加えたりしていくことです。葉は、樹の生命が続く限り、絶え間なく更新されていくものなのです。

 「葉」と「根」をつなぐ「幹」や「枝」にあたるのが、思考力・判断力・表現力などからなる「B学力」です。伸びやかな思考力や確かな判断力は、いわばしっかりと伸びた存在感をもつ幹です。また、私たちの目を楽しませてくれる枝ぶりのよさは、豊かな表現力にたとえられるでしょう。

 葉から根へ、あるいは根から葉へと、水分や養分が受け渡しされることで幹や枝は育っていきます。それは、子どもたちが習得した知識や技能を、自らの生活や生きかたとの関連で使いこなしていく過程を通じて、しっかりとした思考力や判断力や表現力を育んでいく流れと照応します。

 根っこは葉っぱと違って、通常は目に見えません。地中に隠れています。しかし、その根っこは、その樹の存在自体を支えるという重要な役割を果たしています。「意欲」「関心」「態度」などがこの根に相当するでしょう。その子がもつ意欲や関心、あるいは生活態度は、ぱっと見ではなかなかわかりません。じっくり付き合ってこそだんだんわかるものです。

 また、根は地面にしっかり食い込んで樹を支えるだけでなく、成長に不可欠な水分や養分を絶え間なく吸収する役割も果たします。そうした意味において、根は「アイデンティティ」という語で表されるような、樹という生命体の根源的な部分をも表示していると言えるでしょう。

 前述の「非認知的特質」は、地面に埋もれて見えない「根っこ」に相当することに気づかれたと思います。表面には見えてこないけれども、実は若木をすくすくと成長させるうえで欠くことのできないものです。この根っこを育てるべきは、わが子が小学生の今のうちであり、たとえ中学受験というものが目の前にあっても、決しておろそかにすべきではありません。

 いや、むしろ受験のプロセスでこそ、この「根っこ」たる部分に栄養を送り、知力を大きく伸ばすための基盤を築くべきではないでしょうか。このことは、「自学自習」「自ら学ぶ姿勢」を受験勉強の柱とする弊社のアイデンティティとも深く関わることです。弊社では、このことを一人でも多くの保護者にご理解いただき、学びへの高い志向性や、しっかりとした取り組みの姿勢を育てながら入試での志望校突破を実現したいと考えています。

 今回の記事が、お子さんの中学受験をお考えの保護者の方々に、新たな視点を提供できたなら幸甚です。


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「やる気」はどこからやってくる?

2017 年 4 月 24 日

 新年度が始まって、早くも最初の1か月が過ぎようとしています。お子さんは新しい学年・クラスで張り切って勉強や運動に取り組んでいるでしょうか。そんなお子さんの姿を見ながら、「もう◯年生なんだから、言われなくても自分から動いてほしい」「意欲的に勉強に取り組んでほしい」などと思われることはありませんか?
 私達大人は、子どもに対してつい「もっとやる気を出しなさい」と言ってしまいます。ご褒美を与えたり、厳しい言葉を掛けたり罰を与えたり・・・、何とか子どもの気持ちを高めたいと、アメとムチを使い分けるお母さん・お父さんも多いことでしょう。もちろん、そうした働き掛けによって、自分で楽しさを見出して取り組むようになってくれればいうことはないのですが、なかなかうまくはいきません。

 この「意欲」や「やる気」ですが、一体どんな流れで生まれて、どうやって高まっていくのでしょうか。脳科学者の先生の著作の中に、これに関して興味深い記述を見つけました。それは、「『意欲』を生み出しているのは脳である。そして、脳が『意欲』を生み出すきっかけを与えているのは、体の動きや周囲の環境である」というものです。
 脳科学的にいうと、意欲ややる気が高まるときの脳の変化ははっきりわかっているのだそうです。モチベーションに関わるのは、大脳基底核の一部である「淡蒼球」と呼ばれるところ。脳の運動野が体を動かして実際に筋肉が動くと、この刺激が脳に戻ってくる流れでループが形成される。このループが、淡蒼球から信号が送り出されることに関わっていて、この信号によってモチベーションが高い状態になり、それが勉強や習い事などへの意欲につながっていく・・・のだそうです。このように「やる気が高まるきっかけをつくるのは体や環境である」と聞くと、なんだか不思議な感じがしますよね。

 この中では、これに関連したいくつかの実験結果が紹介されていました。そのうちの一つが、表情に関するものです。この実験は、2つのグループに分かれ、ペンを噛んだ状態で漫画を読むというものです。片方はストローをくわえるようにペンを唇ではさんだ状態、もう片方は歯や歯茎をむき出しにしてペンを噛んだ状態で漫画を読みます。全く同じ漫画なのですが、後者のグループの方が「面白い」と感じた人が多いという結果が出ました。なぜこのような差が生まれるのでしょうか?
 もうお気づきかもしれませんが、後者のペンのくわえ方は、笑顔に近い表情を強制的に作ることになります。つまり、そのときの感情がどうであれ、無理矢理にでも笑顔を作ることによって、脳がポジティブな思考をするようになったということです。「楽しいから笑う」のではなく、「顔が笑っているからきっと楽しいんだろう」と脳が解釈したというわけですね。
 つづいて実験結果をもう一つ。今度は、握力に関する実験です。被験者に握力計を渡して、目の前のモニターに「握ってください」という表示が出ている間だけ握ってもらうというものです。まずは通常通りに計測します。そして次に、開始前の一瞬だけ「がんばれ」とモニターに表示して、その後で計測します。すると、「がんばれ」と表示して計測したときの方が、通常通り計測したときの2倍の数値を記録したという結果が出ました。その上、反射スピードも上がり、力を発揮する時間も長くなったのです。この結果は、人はプラスの情報を取り入れられる環境に置かれると、自然と脳が前向きな反応をするようになるということを証明しています。
 ですから、受験生が「目指せ◯◯合格」という紙を壁に貼ったり、「必勝」と書いたハチマキを巻いたり、入試当日に家族から「大丈夫だよ」と声を掛けてもらったりといった行為はすべて、脳科学の観点からも、子どもの意欲を高めるために効果のあるものだといえます。

 いかがでしょうか。これらの実験結果はいずれも、体全体や五感を使って楽しいと感じることや、周囲からポジティブな働きかけや情報を与えられることによって、脳はそれに応じた対応をするようになるということを証明するものです。「楽しんでいる」「面白いと感じている」と脳が感じたり思い込んだりするような状況を作れれば、やる気や意欲は自然と高まっていくということなんですね。そして、学力を形成する上で最も重要な家庭学習においてこのような環境を作れるのは、お母さん・お父さんに他なりません。
 やる気は、誰かに「やる気を出しなさい」と言われて高まるものではありません。お子さんが勉強や習い事に対して意欲的に取り組むためには、叱って動かそうとするのではなく、普段から前向きな言葉掛けや環境づくりをすることこそが重要なのだ、と心に留めておいていただければと思います。

(butsuen)


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高学歴の集団内で差を生み出すファクター

2017 年 4 月 17 日

 今回は、昨年の12月に新聞誌面で目にした記事をもとに書いてみようと思います。その記事は、子育てのタイプと子どもの学歴や年収との相関関係についての調査研究の結果が報告されたものでした。中学受験生のご家庭に大いに参考にしていただける点があるように思い、今回はその研究結果をもとに、子育てや受験勉強のありかたをともに考えてみようと思ったしだいです。

 この新聞記事は、神戸大学経済経営研究所の特任教授西村和夫氏と、同志社大学経済学部教授の八木匡氏の研究報告を取り上げたものでした。調査対象は、インターネットの調査会社に登録している23歳~69歳の男女で、その対象者リストから無作為に抽出した方々に、子ども時代に親から受けた子育ての特徴について尋ね、その回答結果を分析したものでした(回答者は1万人に及びます)。27の質問項目に対する回答から5つの子育てタイプのいずれかに振り分け、どのタイプの子育てを受けた人物が高学歴・高収入を得る傾向が強いかが調べられました。

 まず5つの子育てタイプとはどのようなものでしょうか。それをご紹介しておきましょう(以下は、新聞に記載されたままを写したものです)。

 この5つの子育てタイプのうち、最も平均学力が高く高収入を得ていたのが、1の「支援型」だったそうです。

 小学生までの子どもは、親が見守ってくれているか、やったことを承認してほめてくれるかどうかで、ものごとに取り組むうえでの意欲や志向性に大きな違いが生じます。何でも自分自身でやり遂げようとする姿勢を尊重し、子どもが自分でやったときには大いにほめる。やろうとしないとき、親は癇癪を起さず粘り強くやってみるよう促す。そういうことの辛抱強い繰り返しが、子どもに自立的な行動姿勢を植えつけます。それはある意味で、親が授けた一生モノの財産と言えるほど貴重なものです。1の「支援型」は、そういった子育てに当てはまるでしょう。

 いっぽう、2~5のような子育てで育った人間は、自分がとるべき態度や行動がどのようなものかを自覚し、実行に移すことができません。あるいは自覚していたとしても、それを実行に移そうとしません。学業面について言うと、厳しく命令したり罰を与えたり、無理やりやらせたりする方法(どちらかというと2に近いでしょうか)や、褒美でその気にさせる方法(敢えて当てはめるなら3になるでしょうか)などでも受験の結果を得ることは可能だと思います。

 しかしながら、先々の大成までも見通すと大きな違いが生じていきます。自分自身の考えをもち、どうするのが望ましいかを考えて行動するようしつけられて育った人間は、高いレベルの知力を巡る競争に強く、より優れた能力を発揮するのです。なぜかというと、高い次元での知的能力が問われる状態になればなるほど、どういう勉強で学力を獲得したかがものを言うようになるからです。東京大学や京都大学などの一流大学で学んだ人は、ただ学力が高いだけでなく、自立志向型の勉強を通して学力を高めているため、学んで得た知識の活用力が高く、結果として実社会でも有能性を発揮でき、収入も一般的な大学を出た人よりもはるかに高くなる傾向が強いと言われています。

 イギリスのノンフィクション作家イアン・レズリー氏は、著書で次のようなことを述べておられます。

 最近では、成績の良し悪しを分ける原因について研究する心理学者たちは、個性や性格といった要素を意味する「非認知的特質」に注目している。こうした研究によって、学習に対する「姿勢」と日常的な習慣が、従来考えられていたより大きく成績を左右することが確認されている。この傾向は、高等教育に進み、母集団に含まれる個々人の知的能力の差が狭まったときに顕著に表れる。イギリスでエリート養成校の学生を対象に長期間にわたる研究を行ったところ、試験の結果を左右する要因として、性格的な特質が知能より四倍も大きな影響を及ぼしていることが明らかになったのである。

 では、どのような性格的特質が重要なのだろうか。もっとも注目されているのは、「勤勉さ」だ。また、これと関連する「粘り強さ」や「自制心」、それから心理学者のアンジェラ・ダックワースが指摘する「やりぬく力」――失敗に対処し、挫折を乗り越え、長期的な目標に意識を集中する能力――も重要だ。さらに最近では、学業成績を左右する性格的特質として、これらと同じくらい影響力のあるものが存在する可能性が濃厚になってきている。

 どうでしょう。高い次元での競争になると、学びの姿勢や日常的な習慣がものを言うようになるということなのですね。また、その人の性格的な側面、たとえば「勤勉さ」、「粘り強さ」、「自制心」、「やり抜く力」(これらには、親の子育てが深く関与していることでしょう)などが、結局は高い次元での学びの成果を保障してくれるのでしょう。同じ学力を得るのでも、テストのためにしかたなくやる勉強、大人に依存した勉強では一定以上の高いレベルの学力には到達しませんし、学んで得た知識を活用する能力も育ちません。

 ところで、引用文の最後に書かれていた「これらと同じくらい影響力のあるもの」とは何でしょうか。それは「知的好奇心」です。前出のイアン・レズリー氏によると、この見解を発表したのはロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの講師ソフィー・フォン・シュトゥム氏で、彼女は学業成績の決定要因に関する過去の研究を再検討するため、併せて5万人の学生を対象とした200件の研究データを収集し、その結果、

学業的な成功の裏では知的好奇心――「労力を伴う認知的活動の機会を求め、積極的に携わり、楽しみ、突き詰める」傾向――が大きな役割を果たしている

という結論を導いたというのです。

 新たな知識を獲得したり、新たな考えを吸収したりするうえで、知的好奇心を強くもっているかどうかは大きな差をもたらすことでしょう。この研究結果を発表したフォン・シュトゥム氏と共同研究者は、好奇心が成績に対して勤勉さと同じくらい大きな影響を及ぼしていると指摘しています。また、勤勉さと好奇心という性格的特質と合わせると、知能と同程度の価値があるということがわかったとも報告しています。

 以上のような研究結果は、「支援型」の子育ての有効性と大いに関連していると思いませんか? 子どもが何事も自分からやってみようとする姿勢を尊重し、温かく見守りサポートする。このような子育ては、わが子を将来高い知性と教養を携え、よい人生を歩む人間にするうえで最も有効な方法の一つだと言えそうですね。


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