ポジティブな自己暗示で“やれる自分”を取り戻す!

2017 年 7 月 17 日

 試験やスポーツなど、順位や勝敗を競うような場面において、あなたは「きっとやれるさ!」とポジティブに考えて臨むほうですか? それとも、「今回はダメかもしれない」と、ネガティブな心境に追いやられるほうでしょうか。

 どちらがよい結果につながるかは言うまでもありません。悪い結果を予測すると、頭も体も機能が低下し、得られるはずの結果を取り逃がしてしまいがちです。まして入学試験など、結果次第でその後の人生の歩みが変わる可能性のある重要な場面では、誰だってドキドキ緊張しますし、ネガティブな心理と闘うことを強いられます。こういう場面に強いタイプの人間でありたいものですね。

 しかしながら、おそらくこのブログを読んでくださっているかたのほとんどは、「私は本番に弱い」「勝負ごとでつい緊張し、失敗をしてしまう」と、自分のことを嘆いておられるのではないでしょうか。筆者自身、「私は本番で緊張しない。勝負事に強い」と胸を張っている人をついぞ見たことがありません。「よい結果を得たい」という願望が強ければ強いほど、よくない結果に対する不安が頭をもたげてくるのが人間というものなのでしょう。

 これは日本人に限ったことではありません。結果を得たい重要な場面を前にすると、国や人種を問わず人間はプレッシャーや不安などのネガティブな心理との闘いを余儀なくされます。それをどう押しのけるか、心の強さや心理コントロールの力が問われるわけですが、その微妙な個人差が成否を分けることになります。

 また、人間は自分の所属する集団の特性や、一般通念から見て不利なデータを示されると、実際の能力よりもパフォーマンスが低くなると言われます。この現象は「ステレオタイプの脅威」と言われるもので、ちょっと例を挙げてご説明してみましょう。

 アメリカで、次のような実験が行われました。60代、70代、80代の人たちを集め、年齢構成や能力が均等になるよう配慮した二つのグループに分けました。片方のグループには、「人間の記憶力は年齢とともに低下する」という内容の記事を読むように指示し、そのあとで単語の記憶力を試すテストをしました。同じテストを、テストの前にその記事を読まなかったグループにも実施しました。すると、前者は単語を44%しか記憶していなかったのに対し、後者は58%を覚えていたそうです。また、女子の大学生を対象とした数学の難問を解くテストでは、女子学生たちに「自分は女性である」ということを意識させる働きかけをしただけで、なんのほのめかしも受けなかった女子学生グループよりも成績が悪くなったと言います。

 「自分(たち)は、それが得意でない」という情報を前もって与えられると、パフォーマンスが落ちるのなら、その逆はどうなのでしょう。「自分(たち)はそれが得意である」と思うことでパフォーマンスを上げることはできないのでしょうか。

 これに関して、ヘルスコミュニケーションの専門家である蝦名玲子(りょうこ)先生の著作のコラムに、次のような興味深い記事が掲載されていました。

 自信があるとき、人は身体を開き、自分のパワーを見せつけるように大きく見せる「力強いポーズ」をとるものです。陸上で1位になった選手、サッカーでゴールを決めた選手、部下を叱る上司、子どもを叱る親や教員などはみんな、胸を張り、手を広げたり、腰のところに両手を置くスーパーマンのポーズをしたりして、大きく見せています。

 逆に、自信がないとき、人は身体を閉じ、「弱いポーズ」をとります。猫背になり、手や足を組んだり、うなだれたりして、まるで他人にぶつからないようにするように、小さくなるものです。

 社会心理学者のエイミー・カディ博士の研究では、2分間、「力強いポーズ」をとると、それだけで「テストステロン」という支配性ホルモンが増え、「コルチゾール」というストレスホルモンが減ることを確認しています。そして自信をもって、アサ―ティブに自分の気持ちを表現するようになり、ストレスを感じにくくなったのです。

 一方、2分間「弱いポーズ」をとると、テストステロンが減り、コルチゾールが増えたという結果が得られました。そして、内気になり、ストレスを感じやすくなったのです。

 さらに興味深いのは、これが研究室の中だけではなく、人生を左右する大事な局面でも使えることが確認された点です。カディ博士は、2分間、一方のグループには「力強いポーズ」を、もう一方のグループには「弱いポーズ」をとってもらい、その後、何を言っても無表情な面接官による就職面接を受けてもらうという研究もしました。その結果、事前に「力強いポーズ」をとっていた人たちのほうが全体的に高く評価され、「採用したい」と言われたといいます。

 身体と心はつながっています。身体は心を変化させ、心は行動を変えさせ、行動は結果を変えます。このことを忘れずに、テストや受験、体育祭や文化祭など、何か大切なイベントのまえに子供が自信を失くしているようであれば、2分間、「力強いポーズ」をとるように伝えましょう。すると、その2分間で、体内物質が変化し、心もついてきてくれるはず!

 「力強いポーズ」――これは試してみる価値がありそうですね。人間のパフォーマンスと体内で分泌されるホルモンとには強い相関関係があると言われます。「力強いポーズ」が自分を肯定的に表現する姿勢を促し、パフォーマンスを高めます。それが自信につながり、やる気や実行力のもととなる体内物質を分泌させる。こういったプラスの循環を生み出すのです。

 小学生の子どもは、親の働きかけ次第でどんなふうにも変わっていきます。この「力強いポーズ」を2分間試みること、それを促してみてください。そして、子どもの変化に応じてタイミングよくほめ、子どもの自信が高まるようサポートしてみてはいかがでしょうか。また、親が率先して「力強いポーズ」を実践し、自然とお子さんがそういったしぐさを実行するよう促してみるのもよいでしょう。親なら誰だって、わが子が何事も自信をもって積極的に取り組んでくれることを願っているものです。今回の情報は、こうした成長への流れを築くきっかけにできるかもしれませんね。

 子どもが期待通りに行動していないと、まして、注意の声に反発したりすると、親はつい懲らしめの言葉を浴びせがちです。しかし、これは逆効果にしかなりません。この夏休みから、前述の蝦名先生が「2分間で自信を高める魔法のような方法」と述べておられる、このポーズをお子さんに試してみませんか? それは、わが子への関わりをプラスの方向へと転換するよい契機になるでしょう。


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当社イベント「私学がきみを呼んでいる!」ご報告

2017 年 7 月 10 日

 去る6月25日(日)、広島市西区民文化センターにて、当社イベント「私学がきみを呼んでいる!」を開催いたしました。これは、当社に通う6年部会員生のご家庭を対象とした催しで、私学の先生や生徒の生の声を実際に聞いてもらい、志望校選びに役立ててもらいたいとの思いから、毎年この時期に実施しているものです。
 本来は会員生のご家庭しか見ることのできない催しですが、今回は、このブログをご覧の皆さまにもちょっとだけご紹介したいと思います。

【第1部:これであなたも私学博士!?】
●映像による学校紹介
 各学校で作製された映像や画像を見ながら、家庭学習研究社出身の当該学校の生徒さんに、自らの学校の魅力をプレゼンテーションしてもらうパートです。学校について説明してくれる先輩たちは、家庭学の卒業生でもあるそれぞれの学校の中学3年生なのですが、みなさん堂々と素晴らしいプレゼンを披露してくれました。これだけ大きな会場のステージ上にたった一人で上がり、数百名の観客に向かって話すというのは、なかなかできない経験のはず。かなりの緊張もあったとは思いますが、どの学校の先輩たちもとてもわかりやすく丁寧に説明してくれました。小学生時代を知る当社のスタッフも、「3年でこんなに成長するんだなあ」と感動していましたよ。素晴らしい学校紹介をありがとうございました。

 

 

 

 

 

●参加型クイズ&トーク
 ここでは、各私学に関するクイズを出題して、会場のみなさんに「グー・チョキ・パー」を挙手してもらう形式で参加してもらいました。楽しみながら学校の事を知ってもらえる「クイズ&トーク」で、6年生の子ども達やお母さん・お父さんに大いに盛り上がってもらいました。会場からは、クイズの正解を発表するたびに「やったー、合っとった!」「えー、なんでー」といった声が、あちらこちらからあがっていました。
 また、学校に関するクイズの正解発表の際には、解説を兼ねて各学校の先生方から学校生活の様子や教育活動などについてお話しいただきました。それぞれの学校独自の取り組みを聞くことができ、満足された保護者の方や6年生も多かったようです。

 

 

 

 

 

【イベントアトラクション】
 第1部の締めくくりは、アトラクションです。毎年様々な学校から、クラブやサークルの素晴らしいパフォーマンスを披露していただいているのですが、今年は、女子の部では「安田女子中学校バトン部」の皆さん、男子の部では「広島学院中学校『曲芸戦隊ジャグレンジャー』」の皆さんにお越しいただきました。
 いずれも素晴らしい演技を披露していただき、会場は大いに盛り上がり、終了時には割れんばかりの大拍手が起こりました。イベント終了後のアンケートでも、「アトラクションが素晴らしかった」「アトラクションの演技を見て、学校に興味がわいた」といった声も多く聞かれました。アトラクションを担当していただいた両校の皆さん、素敵なステージをありがとうございました。

 

 

 

 

 

【第2部:私学で夢をかなえよう、がんばれ中学受験生!!】
●制服紹介
 15分間ほどの休憩をはさんだ後は、第2部に入ります。最初は、各学校の先輩たちと先生による制服紹介です。生徒さん達が、それぞれ冬服や夏服、合夏服などを実際に来て登場してくれました。部活のユニフォームや道着などを紹介してくれた学校もありました。特に女子にとっては興味深いパートだったようで、客席の6年生の女の子たちは熱心に見入っていました。憧れの学校のお姉さんの制服姿を見て、1年後には自分が通う姿をイメージできたのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●先輩からの受験アドバイス~私学の先輩に聞いてみた!アレコレ!~
 続いては、先輩たちからの受験アドバイスのコーナーです。各学校に在籍する家庭学出身の生徒さんと先生方に協力していただき、中学受験生時代のエピソードや得意・苦手科目の勉強法、現在の中学校生活について、皆さんに語っていただきました。会場の6年生にとって、3年前まで自分達と同じように家庭学で頑張っていた先輩たちの生の声は、とても心に響くものだったようです。終了後のアンケートにも、「どんな風に勉強すればいいか教えてもらえた」「先輩たちのアドバイスを元にこれから頑張りたい」などの6年生からの声がありましたし、保護者の方々からも「生徒目線の声が聞けてよかった」「親が言うよりはるかに深く伝わった」「子どものモチベーションが上がったようだ」といった感想をいただきました。

 

 

 

 

 

●先生からの受験アドバイス
 このパートでは、各学校の先生方から受験勉強のアドバイスや今年度の入試に関する情報をいただきました。志望校の先生から直接お話を聞ける貴重な機会ですから、客席の6年生と保護者の皆さんも、ペンとメモ帳を手に真剣な面持ちで聞かれていました。また、先生方からはあわせて学校案内行事などのご案内もありました。オープンスクールへのご参加を検討されている方は、各学校のホームページ等をチェックされてみてはいかがでしょうか。

●受験生の皆さんへの応援メッセージ
 最後に、先輩たちと先生から、会場の6年生に向けたメッセージをいただきました。1校ずつ順番にお願いしたのですが、いずれの中学校も思いを込めた熱いメッセージを伝えてくださいました。客席からは1校ごとに大きな拍手が起こり、素晴らしい会の締めくくりになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各学校の先生方や先輩たちのご協力のおかげで、とても素晴らしい催しとなりました。アンケートの満足指数も全体的に高く、足を運んでいただいた6年生達や親御さんにもご満足いただけたのではないかと思っております。
 最後に、この催しにご協力いただきました各学校の先生方、生徒の皆さん、お忙しい中本当にありがとうございました。この場を借りまして、改めて御礼申し上げます。

 さて、受験生の皆さんはもうすぐ夏休みを迎えます。小学校最後の夏休みということで、大いに思い出作りに励みたいところではありますが、入試を考えれば、この夏は苦手科目克服やラストスパートへの土台作りのためにも非常に大切な時期です。このイベントでもらったエネルギーを胸に、中学受験生として最後まで全力を尽くしてくださいね。応援しています!

(butsuen)


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読書傾向と読解力には相関関係がある!?

2017 年 7 月 3 日

 お子さんは本を読むのが好きですか? どんな本を好んで読んでおられますか? 読書時間は1日あたりだいたいどれぐらいですか? 今回の話題は、読書と読解力とに明確な関連性があるのかどうかを話題にとりあげてみました。

 みなさんは、子どもの読書と読解力や国語力とに何らかの関係があると思っておられるでしょうか。小学生と言えば人生で最も語彙の増加が著しい時期です。以前発達心理学者の調査データをご紹介したことがありますが、人間の一生でいちばん語彙の増加率が高い時期は9~10歳(小学4年生)の1年間で、実に前年比40%近くに及ぶ語彙が増えます。また、増加数でいちばん多いのは10~11歳(小学5年生)の1年間で、6300語余りもの新しい語彙を獲得します。そのことと読書には有意な関係があるのでしょうか。

 いつだったか、弊社の教室に通っているお子さんのおかあさんとお会いしたとき、「うちの子はオタク系で、暇さえあれば本を読んでいます」と苦笑いをしておられました。ちなみに、そのかたのお子さんは、マナビーテストで総合1番を取ったことがあり、「やはり、読書は学力に影響を及ぼすのは間違いないのだろう」とそのときは思いました。

 ただ、このような情報では読書と読解力の関係についての確かな根拠にはならないので、何らかのデータ的な示唆の得られる資料がないかと探してみました。すると、電気通信大学大学院情報理工学研究科の猪原啓介先生の著作に、PISA調査の結果に基づき、「読書と読解力の関連性」について指摘しておられる箇所があるのが目に留まりました。参考になるかもしれないのでご紹介してみましょう。

 PISA調査は、2000年に始められたOECD加盟国の15歳生徒(日本では高校1年生)を対象とする国際的な学習状況に関する調査です(一部非加盟国も参加)。ご存知かと思いますが、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3つを調査の柱としています。PISAというと、2003年度の「読解力」調査において、参加40カ国中の平均値に近い14位だったことから、「PISAショック」という言葉が生まれたことが記憶に新しいところです。この結果が公表されるまで、「日本の子どもの学力は高い」というのが一般的認識でしたから、日本中に激震が走るほどの驚きをもって受け止められ、日本の子どもの読解力低下がセンセーショナルに報道されました(直近の2015年度実施分においては、70カ国中の8位)。このPISAショックは、「ゆとり教育路線」の軌道変更に大きな影響を与えたと言われています。

 PISA調査においては、読解力の調査項目に付随して読書状況に関する質問も設けられています。2009年の調査においては、日本の生徒約6000名が参加し、「趣味としての読書」「読む本の種類・頻度」というテーマで質問が行われています。これらの質問は、日本の15歳生徒の読書傾向や読書量がある程度掌握できる資料になるのではないかと思われます。

 まず、「趣味としての読書」に関する調査内容と、その結果を見てみましょう。

質問:「あなたは、普段、趣味としての読書をどのぐらいしますか。当てはまる番号に1つ〇をつけてください。
選択肢:「1.趣味で読書をすることはない」「2.1日30分以下」「3.1日31分~1時間未満」「4.1日1時間~2時間」「5.1日2時間より長い」 ※あとの説明の都合で番号をつけました。

 ここで知りたいのは読書時間と読解力テストの相関関係です。それぞれの選択肢を選んだ生徒の読解力テストのスコアを算出して得られた結果をお伝えしてみましょう。読解力の平均スコアがよかった順に並べると、4(552)→3(550)→5(537)→2(536)→1(492)となりました。

 この結果について、前述の猪原先生は「ここからは、あまりにも読書ばかりし過ぎていると読解力の成績が下がってしまうが、基本的には読書量と読解力の成績には正の相関関係があることが読み取れる」と述べておられます。

 次に、「読む本の種類・頻度」と読解力との関係に関する調査結果を見てみましょう。まずは質問の内容をご紹介しましょう。

質問:「あなたは、次のものを自分から進んで読むことはどれぐらいありますか。(1)~(5)のそれぞれについて、あてはまる番号に1つ〇をつけてください」
選択肢:「まったくか、ほとんどない」「年に2~3回」「月に1回ぐらい」「月に数回」「週に数回」
本の種類:(1)雑誌、(2)コミック(マンガ)、(3)フィクション(小説・物語など)、(4)ノンフィクション(伝記・ルポタージュなど)、(5)新聞

 選択肢のうち、「まったくか、ほとんどない」「年に2~3回」「月に1回ぐらい」を選択した者を「読まないグループ」、「月に数回」「週に数回」を選択した者を「読むグループ」として、二つのグループの読解力の成績が比較されました。そして、その結果が次のようなグラフで示されています(調査を実施した国立教育政策研究所の表<2010>をもとに作成)。

 このグラフをご覧になればおわかりいただけるように、「雑誌」と「コミック」では「読まないグループ」と「読むグループ」で読解力の成績の差はあまり見られないのに対し、「フィクション」「ノンフィクション」「新聞」では、「読むグループ」の読解力は「読まないグループ」のそれよりも明らかに優れていることが見て取れます。

 特にフィクションでは両者のスコアに大きな差が見られます。これには明確な因果関係があるのでしょうか。筆者の憶測にすぎませんが、フィクションを読むことに熱心な子どもは、活字で表現された仮の世界を、想像をたくましくしながらイメージする力に長けており、それが文章読解にも効力を発揮しているのではないでしょうか。

 ともあれ、二つの資料を通じてわかったのは、

ということです。やはり、成長の途上にある年齢期に読書に勤しむということは、活字文化の継承者となるうえでの前提になる大切なことだと言えそうです。

 先ほど、マナビーテストで1番を取ったお子さんのエピソードをご紹介しましたが、本が大好きであるいっぽう、勉強すると決めた時間には集中して取り組んでいるからこそ成果をあげておられるようです。読書を心から楽しむためにはやるべきことをしっかりとやる。このけじめがうまく作用してこその成果でしょう。最近読んだアメリカの心理学者の著作によると、このような自己制御力こそ、人生での成功において最も必要とさせるものだそうです。

 みなさんのご家庭においても、このけじめをルール化するなど工夫し、お子さんが読書を楽しむ毎日を実現してあげてください。小学生の今のうちなら、読書がもたらせてくれる様々な恩恵に浴することができます。


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“忘却”は受験生の敵か

2017 年 6 月 26 日

 今回は、“忘却”すなわち“忘れる”ということを話題に取りあげてみました。なぜこの話題を取り上げるのかについては説明無用かもしれませんね。受験生にとって、忘れるということはあってはならないことであり、日々の受験生活は忘却との闘いのようなものですから。

 せっかく苦労して覚えて手に入れた知識も、一定数はいつの間にか記憶のふるいから抜け落ちてしまいます。覚えたはずの知識が、肝心のテストのときに思い出せず、歯ぎしりのする思いをした経験はどなたにもおありでしょう。中学受験生ならなおさらで、「あー、自分の頭がもっとよかったら。もっと記憶力があったなら」と、テストの度にため息をつくお子さんは少なくありません。

 しかしながら、「忘れることは人間にとって不可欠のことである」という知見を紹介しておられる学者がおられます。お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古先生(前回のブログでも、この先生の著述をご紹介しましたね)です。先生によると、記憶と忘却は切っても切れない関係にあり、言うならば「呼吸のようなもの」なのだそうです。以下は、そのことについて述べておられる箇所の引用です。

 実際、小さいときから、忘れるのはよくないこと、困ったことだと思い込まされている。学校で勉強したことはよく覚えておけ、忘れてはいけない。覚えているかどうか確かめるために、忘れたころに試験をする。忘れて間違うと減点という罰を受けるから、いつとはなしに、忘れることをオゾマシキ厄介者のように思って大きくなる。

 忘れないで、よく覚えて記憶力のよいのは“頭がいい”とされ、逆に、忘れっぽいのは“頭が悪い”ときめつけられる。忘却は貧乏神以上におそろしい。少なくとも、成績不振のもと、悪いのは忘れる頭である、ときめつけるのである。忘却からすれば、とんだ濡れ衣である。世間は誤解をしていることに気づかない。文化が発展、学問・技術の進歩と発達の目覚ましい現代においてなお、年来の勘違いを是正するに至っていない。不思議なくらいである。

 忘却は困ったことではない。それどころか記憶と同じくらいに大切な心的活動である。両者は、対立関係にあるのではなくて、セットとして、共同の働きをしていると考えるべきである。忘却がなくては記憶はその力を発揮できない。車の両輪のようなものだ、ということもできるが、呼吸のようなものと考えた方が妥当だろう。

 空気は吸ったら出さなければ、新たな空気を吸うことはできません。「呼(はく)」と「吸(すう)」は連動してこそ成り立つ行為です。記憶と忘却の関係も同じで、体験や学習によって得た知識も記憶したらそれで終わりではなく、忘れるということがあってこそ、記憶という活動が活性化するのだそうです。この繰り返しや連動性が重要であり、段々と記憶が整理整頓され、使える有用な知識になっていくのです。ですから、忘れることは人間にとって必要なことなのですね。

 外山先生はこれに関して興味深いことを書いておられます。「呼吸」についても、「記憶と忘却」にしても、一般にその順序性が誤解されているというのです。呼吸について考えてみましょう。われわれは「まず空気を吸って、それから吐き出す」と考えがちですが、そうではなく、「まず体内のよくない空気を吐き出し、そのあと新しい空気を吸い込む」のです。「吸わなければ、吐く息もないのでは」と思う人に対して、外山先生は「残っているよくない息を全部出してしまってから、きれいな空気を吸い込む。これが深呼吸である」と述べておられます。

 記憶と忘却の関係もこれと同じで、まず忘却が先にあるのです。忘れることによって混とんとした知識を整理整頓し、スッキリした頭で次の学習活動を行うのです。様々な知識で混乱した状態で学習をしても効果は得られません。しっかりと根付いていない知識はいったん忘れてしまい、そのうえで次の学習活動へ移行すれば、記憶がより働きやすくなるのですね。その意味においては、忘れることは必要なことであり、よいことなのです。

 もう一つ記憶についての話題を。人間の忘れかたには個人差があります。テストで同じように85点を取った生徒も、間違えた個所は一人ひとり違っているのが普通です。前出の外山先生によると、このような忘却の個人差こそ、人間の個性であり、創造力のもとなのだそうです。これに関する著述の一部をご紹介してみましょう。

 知識の記憶のみによって、個性を育むことはできない。知識も記憶も、そのままでは没個性的であり、超個性的である。忘却はひとりひとり独自の忘れ方をする点で、個性的である。没個性的な知識を習得することを通じて個性が生まれるのは、つまり忘却の作用によるのである。( 中略 )

 コンピューターは記憶の巨人である。単純記憶において、コンピューターに勝る人間は存在しないと言ってよい。完全に多量の情報を記憶し、それを操作、処理する能力をもっている。完全記憶を実現しているが、個性がない。忘却ということを知らないからである。記憶だけなら人間はコンピューターに叶わないが、忘却と記憶のセットで考えれば、人間はコンピューターにできないことをなしとげる。この点からすれば、忘却は新しい役割を認められなくてならないはずである。忘却が個性化をすすめ、創造的なはたらきの基盤であるのに目を向けないのは怠慢である。

 忘却は力である。忘却力は破壊的ではなく、記憶力を支えて創造的なはたらきをもっている。

 どうでしょう。忘れることに負のイメージばかりもっていた筆者にとっては新鮮な視点をもたらしてくれる情報でした。みなさんはどう思われましたか。受験学習においても、「忘れるな!」一辺倒ではなく、「何を忘れたか」を検証し、学び直すことで、お子さんの頭脳はお子さん独自の発達を遂げ、創造的な知力の持ち主に成長していけるんですね。

 覚えることと忘れることは、どちらも同じぐらい大切なんだということを、お子さんに伝えてあげてください。


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“朝学”はなぜ効果が高いのか?

2017 年 6 月 19 日

 今回は、「朝早めに起きて勉強すると効果が高い」と言われる理由を話題にとりあげてみます。「勉強の能率が上がらない」と、困っておられるかたにとって、“朝学”は現状を打開する一つの方策になるかもしれません。また、あと1カ月余りで夏休みがやってきます。夏休みからの学習時間の割り振りを考えるうえで、多少なりとも役立てていただければ幸いです。

 もっとも、朝の苦手なお子さんは少なくありません。なかには、「朝早く起きて勉強」というだけで、「うちの子には無理!」とあきらめてしまうかたもおありでしょう。 そんなかたも、とりあえず読んでみてください。睡眠と記憶の関係についての基本的なことがわかりますから、受験生活の参考になるかもしれません。

 お茶の水女子大学名誉教授で、かつて同大学の附属幼稚園の園長も務めておられた外山滋比古先生は、子どもの教育に関わる多数の著書を表しておられます。その外山先生の本のなかに、「なぜ朝はものを考えるのに適しているのか」について書かれているくだりがあります。ちょっとご紹介してみましょう。

 忘却が夜の間におこることはどうやらたしかである。忘却が頭をはたらきやすいように、きれいに整理してくれるのだとすれば、一夜明けた朝、頭がものを考えるのにもっとも適した状態になっているのはむしろ当然である。

 昔から、それに気付いていた人は少なくなかったと想像される。イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクにこういう詩がある。

 朝、かんがえ (Think in the morning)
 ひるは、はたらき (Act in the noon)
 夕がたに食し (Eat in the evening)
 
夜は眠れ (Sleep in the night)

 つまり、朝いちばんに考えよ、頭を使え、というのである。ほかの仕事は、そのあとでよい。朝はそれほど頭の活動に適しているのだという洞察である。食事をするのは夕方、つまり、仕事が終わってからでよいというところが注目される。

 同じくイギリスの小説家ウォルター・スコットも朝の信者だったようで、難しい問題があって夜遅くまで解決できないようなとき、彼はまわりのものによく言った。「明朝になれば、いい考えが浮かんでくるよ」、夜の間に、妙案、妙想が用意されることを知っていたのである。その夜に、大働きをするのが忘却であることまでは、スコットは、あるいは知らなかったかもしれない。しかし、夜より朝の方が頭がよく働き、いい考えが生まれやすいことは経験によって知っていたものと思われる。生活の知恵である。

 どうやら、朝頭を使うとよい考えが浮かぶのは、夜眠っているときに前日までに経験した事柄の多くが忘却され、頭が整理整頓されて働きやすくなっているからのようですね。

 外山先生は、朝頭を使うことの重要性を昔の人が知っていた証拠として、「朝廷」という言葉の由来を紹介しておられました。大昔、中国の役所は、朝、日が昇るのとともに開始されたという故事があります。それで「“朝”廷」と呼ばれたのだそうです(「廷」は政治を行うところ、官吏が集まる広い庭の意)。朝早くに仕事をするほうが、より能率的に迅速に行えるということを昔の人が知っていたからです。

 また、みなさんご存知の“朝飯前の仕事”という言葉は、「朝食前でもできる簡単な仕事」という意味で使われていますが、もとはそういう意味ではなかったという話も紹介されていました。朝食前に仕事をすれば、頭がすっきりと整理されているので、仕事がはかどり易くなります。本来はそういう意味だったのです。それが、「簡単にできる仕事」と誤用されるようになったのだと言います。外山先生は、「朝の仕事の能率がよいことを忘れてしまっていまのような解釈になったのである。朝の仕事の能率のよさこそむしろ注目すべきである」と述べておられます。朝する仕事は能率のよいことを昔の人はよく知っており、本来はそうした知恵が生み出した言葉だったのですね。

 ここで再び外山先生の著作の一部をご紹介しましょう。勉強がはかどる時間に着目しておられます。

 “朝考える”にしても、“朝になればいい考えが出てくる”にしても、さらに中国の朝廷にしても、朝の思考、仕事がすぐれていることに注目しているのだが、朝飯前の仕事が、朝は朝でも、食事の前というところに注目しているのがおもしろい。

 というのも、思考に適しているのは、朝だけに限らないからである。気をつけてみると、昼前にも、そして、夕方にも、仕事のはかどる、つまり、頭の状態がよい時間帯があることがわかる。ことに、夕方がいい。体から言えば、昼より疲れていてもおかしくない夕方に頭の活動がよくなる。言いかえれば、頭がよくなる。さらに、忘却作用が成果をあげているのはどうしてか。

 考えられるのは、いずれも空腹時ということである。胃の中に、食べたものが入っていて、その消化にエネルギーをとられるとき、頭の活動も低調になるのではないかと推測されるのである。

 みなさんご経験がおありかと思いますが、たっぷりと食事を摂った後は、ややこしいことを考えたり覚えたりする気になれないものです。それは、食事をした後には消化作業で内臓に負担がかかっているため、頭の働きにエネルギーを向ける余裕がないからなんですね。

 受験の際にも、「胃もたれのする食事を摂らず、多少空腹の状態で臨んだほうが頭がよく働く」と言われます。また、「厚着をしてあたたかい状態よりも、多少薄着で寒さを感じるぐらいがよい」と言われます。これは、「体が少し危険を感知するぐらいのコンディションにおいて、神経が最も研ぎ澄まされ、頭の働きが鋭敏になるからだ」ということのようです。

 早朝は、記憶が整理整頓されて働きやすい状態にあり(睡眠によって不確かな記憶が忘却されている)、体が思考に適したコンディションにあり(食べ物が消化された後で胃に負担がかかっていない)、少しひんやりとした勉強にふさわしい環境にあり(少し寒さを感じるくらいの条件で頭は一番よく働く)、まさに受験生の勉強に最適な時間帯だということがわかりましたね。

 以上のような情報をもとに、お子さんの学習に有効な時間や条件を考えてみてはいかがでしょうか。繰り返しますが、1カ月余りすると夏休みがやってきます。長い夏休み期間は、生活習慣を見直し、勉強の成果があがるルーチンを築く絶好のチャンスです。お子さんと話し合いながら、お子さんにピッタリの学習のありかたを考えてみましょう。状況が好転する可能性大です。


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