2013 年 9 月 のアーカイブ

ほめられて“やる気”がしぼむケースもあるの?

2013 年 9 月 30 日 月曜日

 前々回の記事の終わりに、「ほめられることで、却ってモチベーションが下がることがある」というようなことを書いたと思います。今回はそれを話題に採り上げてみました。「何で、ほめてやる気が下がるんだろう?」と不思議に思われたでしょうか。実は、以前このブログでそのことについて書いたことがあります。今回は、心理学の専門家の著作にもっと詳しい説明が載っていましたので、それをご紹介してみましょう。

 ほめることがかえって逆効果をもたらす原因として、次の4つが考えられるそうです。

1.ほめられることで、「次もうまくやらなければ」というプレッシャーが生じる。

 私の授業を受講している大学生に、「ほめることの影響」についてレポートを書いてもらったところ、「一度ほめられると、次にほめられなくなるのではないかと怖くなる」と述べている学生が少なからずいた。ある心理学者は、「称賛は是認への依存心を強める。ほめすぎると、不安定な精神状態を引き起こす。それは周囲の期待に添えないのではないかと恐れを感じるからである」と述べている。

2.ほめられると、失敗する危険を冒さないために難しい課題を避けるようになる。

 能力をほめられると、自分の能力をどう伸ばすかということよりも、自分がいかに失敗しないようにするかという、パフォーマンスの結果ばかりに目が向くようになっていく。実験によると、「頭がよい」とほめられた子どもは、難しいパズルに挑戦させてその結果を伝え、あとで仲間の前で報告させると、約40%が成績を偽って実際よりも高く発表した(他のグループは約10%)そうである。

3.能力をほめられると、結果の良し悪しを「能力」を規準にして考えるようになる。

 「能力が高い」というほめかたをされた子どもは、ひとたび失敗を経験すると、努力が足りなかったと考えるより、自分の能力のせいだと考えてしまう傾向がある。人は失敗の原因を自分の能力不足に求めると、モチベーションを失いやすい。能力は、自分ではどうすることもできないコントロール不可能な要因だからだ。

4.安易にほめられると、「自分は能力がないと思われている」と解釈する子どももいる。

 それほど難しくない課題をやってほめられると、「いつもはあまり能力が高くないと思われているのだな」「自分はもともとうまくできないので、今回はほめてくれているのだな」と、うがった見方をすることもあるだろう。ほめ言葉を自分の能力の低さのためと考えてしまうのである。その結果、難しいことをやり遂げることへの期待感が弱まり、次へのがんばりや集中力を低める恐れも生じる。

 

 上記の指摘をもとに考えると、「ほめさえすればよいわけではない」と言えそうです。大事なのは、「どうほめるか」ということなんですね。

 弊社は中学受験専門の学習塾です。2週間に一回の割合でマナビーテストと呼ばれる単元テストを実施しています。子どもなりに努力して備えたテストの結果がよくないことが続くと、どうしても自分の能力への懐疑心が湧いてしまいます。

 そういう経験を何度も繰り返した子どもに、「この間のテスト結果、よかったじゃないか。この調子でがんばれよ!」と励ますと、「先生、あれはまぐれですよ」「どうせ次はいつも通り成績は落ちますから」などと切り返され、戸惑ったことがあります。残念なテスト結果を突きつけられているうちに、有能感をなし崩し的に失ってしまったのでしょうか。

 さて、不用意なほめかたは却って逆効果を招くとすると、どのような点に留意して子どもをほめればよいのでしょうか。さきほどの、「ほめることがマイナス効果をもたらす例」を書いておられた、大学の先生の著述をもとに、少しだけ筆者の見解を添えてお伝えしてみようと思います。

 まず、子どもにもプライドがありますから、「これは、ほめるに値することか」ということを吟味する必要があるでしょう。前述の先生は、「ほめるに値する具体的な行為に対してほめ、自分が心から正直にそう思っているのだということがきちんと伝わるように誠実にほめる必要がある。こちらの反応が本物であるときには、相手は少なくとも、こちらのほめる動機がコントロールをねらったものではないことを感じとるであろう」と述べておられます。

 また、これは以前ブログに書いたことですが、相手の人格に関わるような点を指摘してほめるのではなく、相手の行為自体、もしくは行為がもたらした結果をほめることが必要です。「優秀な子」「自慢の子」「素晴らしい才能をもった人」「正直者」などのほめかたは望ましくありません。

 その理由ですが、たとえば「正直者」とほめられた子どもが、いつもは「自分は正直でない」と思っていたならどうでしょう。「正直者」と言われると、却って反発してしまうのではないでしょうか。

 専門家によると、パズルなどの課題を終えたあと、「あなたはほんとうに素晴らしいね」と、全体的な人間像をほめられた子どもは、「一生懸命取り組んでいたね」と、取り組みをほめられた子どもと比べて、失敗に対してネガティブな受け止めかたをし、その課題に取り組む意欲を失ったり、無気力になったりし易いそうです。

 もう一つ大切なことがあります。子どもの努力をつかまえてほめるということです。ある実験では、「頭がよい」というほめられかたをした子どもより、「こんなによい点をとれたのは、一生懸命頑張ったからだね」と、努力を指摘してほめられた子どものほうが、以後の行動において難しい課題に率先して取り組む傾向が強かったと報告されています。

 最後になりますが、ほめ言葉には有能さや必要な情報(例:できばえ)を提供する「フィードバック的側面」と、人を操作する「コントロール的側面」の両面があるそうです。後者は少しわかりにくいかもしれません。ほめることで、自分の望むようになってくれる、自分への好意を抱いてくれるという要素が含まれている場合です。つまり、相手よりも自分のほうの都合でほめているわけです。

 大人は、子どもをほめ言葉でコントロールしようとしがちです。親の望むような行動を子どもがとったら大いにほめ、望ましくない行動をとったら叱る。こうした大人の意図を、子どもが感じとったならどうでしょう。おそらくやる気を低下させてしまうのではないでしょうか。

 一方、どれぐらいできたかを具体的に伝えてほめる(フィードバック的側面からほめる)と、子どもは「自分の行動の原因は自分にある」と知覚するようになると言われます。その結果、有能感や自己決定が高まり、ゆえにモチベーションが高まることになります。

 以上の4つについて、お子さんをおもちのかたに反省する点はなかったでしょうか。とかく大人は子どもの気持ちや立場になって考えることをせず、手っ取り早く大人からの一方通行の言葉かけ(安易なほめ言葉)で子どもを変えようとしがちです。しかし、それでは効果が薄く、それどころか逆効果を招くことになりがちです。

 わが子が思うようにがんばってくれない。――そんな悩みをもっておられるおとうさんやおかあさんは、上記の4つを踏まえ、お子さんへの対応やアプローチのしかたを考え直してみてはいかがでしょうか。

 

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 子どもの発達, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

心のこもった言葉が子どもを動かす

2013 年 9 月 23 日 月曜日

 もうすぐ夏休みが終わって、1ヵ月が経ちます。毎日の通学リズムを取り戻しているでしょうか。学校では、運動会や遠足、芸術鑑賞といった行事も行われる季節です。私学の中学校でも、文化祭や体育祭といったイベントが開催されます。

 そんな行事がたくさんある季節ですが、ご家庭では、お子さんは計画を立てて勉強をされておられるでしょうか。中には、ついついテレビを見すぎてしまって、計画どおりに勉強ができないお子さんもおられるかもしれません。そんなとき、どんな風に声をかけておられますか?

 心の中では、「だめだだめだ。怒らずに」と思いながらも、「勉強しなさい!」と目の前の光景に感情が流され、イライラをストレートに出してしまうこともあるのではないでしょうか。

 機嫌の良いときには、「テレビ見ていいよ」と普段は怒ってしまいそうなことでも、許してしまうこともあります。感情というのは、見ることや測ることはできませんが、自分の態度や行動を支配する大きな力です。

 具体的に場面に照らして考えてみましょう。仕事から帰ってきて慌ただしく夕飯を準備しているとき、「○○、どこにあるの?」というお子さんの何気ない言葉が飛んできました。さて、どんな風に答えますか?

 状況にもよりますが、一番イライラしているときなら、「そこの棚!」と感情に任せて、単語だけで答えてしまうこともあるかもしれません。「なんでそんなこともわかんないの!」と心にわきあがった感情を抑えられず、言葉に表してしまうこともあるでしょう。

 では、言われた側のお子さんはどうでしょうか。「ちょっと聞いただけなのに、なんで怒ってるの?」と嫌な気持ちになるでしょうね。言葉の言い方に、感情はとてもよく表れます。相手に怒りの感情をのせて言葉を返してしまうと、相手に嫌な感情を抱かせてしまいます。

 一方、「○○どこにあるの?」と聞かれたとき、おかあさんがとても上機嫌だったらどうでしょうか。「そこの棚の引き出しだよ」とやさしく答えるかもしれません。やさしく教えてもらったお子さんは、「ありがとう」とおかあさんに感謝し、素直に「次はできるように」と思うでしょう。または、「今度は、自分が弟(妹)に教えてあげなきゃ」という思いかもしれません。いずれにしても、プラスの感情をもたらします。次にはこうしようという前向きな感情です。言い方は、言う側の予想を超えて、言われた側にとても重要な影響を及ぼします。思わず発した言葉と言い方が、相手の感情を大きく左右するのです。

 家庭で交わす「おはよう!」といういつもの挨拶。毎日何気なく交わしていますが、ふと「あれっ??」と思う日があります。まだ眠いのか、体調が悪いのか、具体的な体調までわからなくても「いつもと違うな」と感じることがあります。短い言葉でも「しんどいな」「ねむいな」「だるいな」という感情が伝わるのです。毎日生活を共にしている家族だからこそ気づけることでしょう。

 中学受験という目標をもつことは、子どもにとって負担も少なくありません。おかあさんから見て「頑張っているな」と褒めたくなるときもあるでしょうが、「そんなことしてて大丈夫なの!?」と不安になるような行動を目にすることも多いものです。そんなとき、心配から怒りを感じるときもあります。しかし、そんなときのお子さんは、「やらなきゃいけないってわかってるんだけど・・・」と葛藤をしているのです。中学受験という目標をもつことは、子どもにとって支えでもあり、負担でもあります。「目標があるから頑張れる!」という順調な時期もあれば、目標に押しつぶされそうになる危うい状況もあります。きっとお子さんは、この二つの感情の中を行き来しながら、前に向かっているのではないでしょうか。

 受験生活は、目標を同じとする友達とともに過ごしています。友達は、仲間でありライバルです。時には、周りに敗けているように思えて感情が沈むときもあります。また、別の時には、「よし、やるぞ!」と感情が盛り上がるときもあります。この感情の起伏の中、心の底で支えてくれているのは、おかあさん、おとうさんの心のこもった言葉です。言葉で記すと「がんばれ」の一言に過ぎません。ありきたりにも受け取れる応援の言葉です。

 でも心の内には自分の中にしかない「がんばれ!!!!!!!!!」と万感の思いが込められた言葉です。おかあさん、おとうさんにかけられて嬉しかった言葉は?という質問を以前、弊社に通っている子どもたちにしたことがあります。すると、「がんばれ!」という言葉が一番でした。言葉として書くと同じですが、きっと子どもたち一人一人の心に残っている言葉は、音の高さや言葉のスピードなど、それぞれ違うと思います。

 言葉と言い方は、とても大きな影響を与えます。ぜひ褒めるときも、叱るときも、心を込めた言葉をかけてあげてください。中学受験という大きな目標に向かっていけるプラスの力を与えてあげてください。きっと、お子さんの学習の活力に大きな影響を与えるでしょう。

 

(yasumoto)

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: がんばる子どもたち, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴

テストの効能に関する新たな知見

2013 年 9 月 9 日 月曜日

 会員保護者には周知のことですが、弊社の会員生(4・5・6年生)は、1週おきに「マナビーテスト」という単元テストを受けています。その子どもたちに、「テストをどう思う?」と聞いてみたとしましょう。どういう答えが返ってくるでしょうか。

 おそらく、子どもたちは「楽しみだ」と「イヤだ」が相半ばの反応を示すのではないかと思います。弊社の教室に通う子どもたちは、中学受験をめざしています。一般の小学生よりはずっと勉強のできる子どもたちです。テストに備えた勉強をほぼ毎日していますから、「つぎはよい成績をとりたい!」という意気込みをもって勉強しているのが普通です。

 では、なぜ「イヤだ」と思う子どもがいるのでしょう。それは、塾での成績が絶対評価だけではなく、相対評価でも示されることに起因するのではないかと思います。つまり、点数だけでなく、集団内での順位が成果の指標になります。しかも集団は、勉強のできる子どもで構成されています。

 ですから、頑張っても成績が上がるとは限りません。逆に成績が落ちることも少なくありません。そういう状態が続くと自信も揺らぎますし、「テストがイヤだ」という受け身の気持ちにもなるでしょう(こうした事態に対する親のケアについても、このブログで何度か書いています)。

 テストを上手に活かした勉強については、今年の3月25日に掲載した「テスト成績をどうとらえるか」を参照いただければ幸いです。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回は「テストの効能」を話題に採り上げてみました。一般に、テストは、「今の学力状態をチェックするもの」「わかっていること、わかっていないことを明確にするためのもの」「努力の成果をみるためのもの」などと思われていると思います。ところが、割と最近になって、テストの意外な効能が指摘され、注目を集めているようです。その内容を知ると、これがまたごく当たり前のことなので、筆者は「今までなぜ気づかなかったのだろう」と思ったほどです。

 勿体をつけてしまいました。そのテストの効能とは、「学習した内容を長期記憶として脳に定着させる」ということです。これはアメリカの学者の研究によって発表されたもので、おおよその内容は以下の通りです(日本の大学の先生の著作から引用させていただきました)。

 

 大学生にテキストを7分かけて読ませた。その後で大学生は2群に分けられ、一方の大学生は再び7分かけてテキストを読み直した。もう一方の大学生は、テキストの内容を思い出して書き出すというテストに7分間取り組んだ。その後で最終テストを実施したところ、7分間の復習をした群よりも内容を思い出して書き出すテストに取り組んだ群のほうが、成績がよかったのである。復習やテストから最終テストまで2~7日の日数が空いている場合に、この効果は特に顕著だった。すなわちテストにより学習内容の長期記憶化が促進されたのである。

ブログ用グラフ(20130829)

 

 なぜテストに記憶を促進する効果があるのでしょうか。記憶しているかどうかを試すのがテストのはずです。それについて、この研究結果を紹介している日本の大学の先生は、「前に一度読んだテキストをもう一度読むよりは、思い出そうとするほうが、多くの心的エネルギーを要する。これがテキストの学習を促進したと考えることができる。あるいは、人が長期記憶に覚えている内容は、常にスムーズに思い出せるわけではない。テストを経験することで、知識を思い出す練習になったと考えることができる」と述べておられます。

 確かに、テストを受けたことのある人は合点がいくでしょうが、テストの最中は大変な集中力を発揮し、既習事項で今問われていることに関する情報を記憶から引き出そうとします。ご存知かと思いますが、学習や体験によって得られた情報は、すべて脳の奥深くにある海馬と呼ばれる部位に送られます。 

 海馬は、刺激として強い情報を重要と認識し、長期記憶として加工します。ですから、テストによって経験済みの情報を頭に想起させ、改めて重要であることを確認させる効果を引きだしたということであろうと思います。

 弊社では、一つの単元を基本的に2週間かけて学びます。2週間、授業と家庭勉強を交互に繰り返し、そして2週目の週末土曜日にテストを実施しています。このテストは、2週間の学習成果を確かめるとともに、全員で競い合う形式になっています。ですが、このテストを通して、学んだことのなかで重要な内容を想起することで、長期記憶として定着させていたのですね。

 さて、前出の日本の大学の先生は、日本の児童・生徒がテストをどのようなものと捉えているか(テスト観)について、4つの代表的な例を紹介しておられました。その4つは以下の通りです。

 

1.改善的テスト観・・・テストは、自分の苦手なところを指摘してくれるものだ。

2.誘導的テスト観・・・テストは、学習計画を立てるのに役立つものだ。

3.強制的テスト観・・・テストは、勉強を強制してやらせるためのものだ。

4.比較的テスト観・・・テストは、勉強のできる人とそうでない人を分けるためのものだ。

 

 この4つのなかで、どれが子どもの学力形成にとって望ましいでしょうか。お気づきと思いますが、1と2が望ましいと言えます。1のような考えに立った子どもは、自分の弱点を確認し、それを補うための努力をするでしょう。また、2のテスト観に立った子どもは、テストに備え、見通しをもった対策を怠らないでしょう。一方、3や4のテスト観に立つと、勉強やテストに対してネガティブな受け止めかたが染みつくおそれがあります。

 中学受験をするかどうかに関わらず、子どもたちはテストと無関係ではありません。改善的テスト観や誘導的テスト観に立った学びをすれば、勉強に手応えが生まれ、ますます頑張ろうという意欲も育つでしょう。

 たとえば、次のような意識のもとで勉強をしていけば、望ましいテスト観は次第に浸透していくでしょう。テストの前にやるべきことは何か。いつまでに何をやっておくべきか。それを念頭に計画的に学ぶ。テストの結果がわかったら、理解の不十分なところはどこかを確かめる。そして、そこをしっかりやり直す。

 テストを軸にして、このような学習の流れができたらいいですね。このような意識をもって学ぶことを、ぜひ子どもたちに浸透させたいものです。

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: がんばる子どもたち, アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方, 子どもの発達, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭学習研究社の特徴

「授業」と「家庭勉強」を連動させる

2013 年 9 月 2 日 月曜日

 9月が到来し、弊社の教室では「後期」の授業が始まろうとしています。そこで今回は、子どもたちの学習について書いてみました。

 以前、「家庭勉強の役割」についてお伝えしたことがあります。家庭勉強を「宿題」のように捉え、「やらされるもの」と、受け身の気持ちで取り組んだのでは活性化しません。学校や塾の授業を受けた後、わかったところとわからないでいることを仕分けし、理解を一層深めたり、一段レベルアップしたりするための勉強を家庭で自発的に行う。それが「家庭勉強」なのだということをお伝えしました。

 同じ勉強するのでも、「宿題」と思うか、「自発的学習」とみなすかでは気構えが違ってきます。僅かな期間にも、成果の差がはっきりと現れるものです。

 この家庭勉強の道標(みちしるべ)となるのが「授業」です。弊社で実施する「授業」は「講義形式」で、一般に学校で行われている授業と同じような手法を採ります。つまり、先生がその日に扱う単元の導入をし、それからその単元の学習テーマを代表する課題を採りあげ、子どもたちに発問を仕掛けながら考えさせ、発表をさせたりしながら徐々に重要な知識や理論の核心に迫っていきます。

 進学塾の授業というと、入試での出題傾向に沿った問題の解法説明をし、「ここが重要だ。絶対に覚えておけよ!」「こういう問題がよく出る。絶対に落としちゃだめだぞ!」などと情熱的に子どもたちを引っ張っていくような授業を連想されたかもしれません。しかし、弊社ではそういった指導は入試直前にでもならない限り、どの担当者もしていないと思います。

 弊社の授業(4・5年部)は、「子ども自身に考えかたの道筋を案内し、最も重要な知識や理論について、できるだけ子ども自身が考えて理解するよう導く」ということを基本的方針として定めているからです。学習対象のいちばん大切な部分に、自分で考えて到達(発見)するか、先生から教えられるかでは、学びの喜びが違ってきますし、記憶にも少なからぬ影響があるのではないでしょうか。

 無論、授業時間を全て上記のような指導に充てているわけではありません。単元の重要な原則についてみんなで考え、一応の理解に達したら、残りの時間は例題や練習問題を扱い、代表的な問題を通して理解を徹底させます。ただし、授業時間は1教科1時間足らずですから、たくさんの問題を扱うことはできません。

 そこで重要になるのが、家庭でテキストの残りの問題に自発的に取り組む勉強をすることです。授業でどこまでわかったか、取り組んだかを踏まえ、テキストの問題に挑戦します。その家庭勉強において、授業を通して学んだ知識や理論が活かせるよう願って担当者は指導しています。

 もしも、テキストの基本的な問題がわからないような場合には、授業で学んだ箇所にもう一度立ち返ることが必要です。わからない部分に出合ったら、常に出発点(基礎の基礎)に戻って勉強し直すのがいちばんだからです。

 ところで、テキストの問題は全部できないといけないのでしょうか。それが可能なら素晴らしいです。しかし、受験用テキストですから相応の分量はありますし、課題の難易度幅も相当あります。全ての問題をやりこなせるお子さんはごく僅か。わからない問題があって当然です。入試を迎えるまでに、同じ単元を何回も扱うよう弊社のカリキュラムは構成されています。そうやって、少しずつ学力を仕上げていけばよいのです。そのとき、そのときの学習で、一歩ずつレベルアップしていけば、やがては入試突破は射程距離に入ってくるものです。ですから、4・5年生においては、お子さんの今の学力状態を考慮し、「その時点でできるところまででよい」と割り切ることが大切です。

 また、家庭で過ごす時間の大半を受験勉強に充てるのは無理な注文です。学習計画で割り当てた時間内で、精一杯努力すればよいのではないでしょうか。「全部できないといけない」と思い込まないことです。「決めた時間の中でがんばればいいのだ」とお子さんを励ましてあげてください。マナビーテストでも、入試本番でも、満点は求められていません。6割、7割の問題が答えられるレベルに到達すればよい(入試に合格できる)のですから。

 また、決めた時間内で集中して勉強する姿勢を培っておくことは、中学以降の学校生活で重要な意味をもちます。中学、高校では、より多様な学問に接することになりますし、交友や部活などでどんどん忙しくなります。今から時間や労力に頼る勉強に染まると苦労するのは必定です。

 さて、先ほど弊社の授業について簡単にご説明しましたが、なかには「たくさんの問題に取り組ませて欲しい」「解き方を教えてすぐ問題に取り組ませたほうが効率的ではないか」と思われるかたもおられるかもしれません。

 しかし、それをやると家庭勉強を自分でできない状態で中学生になってしまいます。また、毎日のように塾に通っていただかねばなりません。必然、受験勉強を全て塾で賄うことになり、授業時間も長くなってしまいます。また、こうした訓練型の勉強で身につけたことは、一定期間を経過すると記憶から消え去ってしまうことが多いものです(後述します)。

 弊社のような授業のしかたは、一見効率的でなく、まどろっこしく感じられるかもしれません。しかし、実は脳の記憶の仕組みからも有効な方法なのです。

 一般に、子どもたちが学習によって獲得した知識は、「意味記憶」として脳に蓄えられます。この意味記憶は長期記憶の一種ですが、内容によってはなかなか脳に定着しにくく、しかも何らかのきっかけがないと記憶から取り出せないことが多いのが特徴です。この意味記憶を脳に定着させる方法として有効なのが、「エピソード記憶」と一緒に情報を海馬(体験や学習で得た情報を長期記憶に加工する脳内器官)に送ることです。エピソード記憶とは、体験に基づく記憶で、これも長期記憶の一種です。エピソード記憶は意味記憶よりも定着しやすく、また想起(記憶から取り出す)し易いのが特徴です。

 たとえば、授業である事柄を学習するときに、先生がおもしろい例え話をしてくれたとします。そういうことと一緒に覚えたことは、記憶としてよく残ります。また、誰かがユニーク質問をして教室が湧いたりすることがよくありますが、そういうときに学んでいたことは妙に覚えているものです。それは、意味記憶が単体ではなく、エピソードと一緒に脳に格納されるからです。

 授業の上手な先生は、具体的事例を示したりおもしろい話をしたりして、子どもの学習課題に対する興味を引き出すとともに、そういう事例や話とセットで学習事項を記憶として子どもの脳に刻みつけているのだと言えるでしょう。

 授業は、大げさに言えば約1時間の物語(エピソード)です。暗記や訓練で知識を頭に入れる方法は、なかなか物語にはなりにくく、たくさん問題にあたった割に記憶に残らないものです。一方、授業での様々なやりとりを通して学んだことは、意味記憶とエピソード記憶が合体しているので、頭に残りやすいと言えるでしょう。

 ですから、単元の大切な柱となる理屈を、導入段階から先生がいろいろ工夫して物語として子どもたちに学ばせる方法は、土台となる知識を定着させるうえでとても大切な働きをしているのだと言えるでしょう。原理原則をエピソードと一緒に学び、それを起点にして家庭で類題などに取り組めば、より身につき易いのではないでしょうか。

 子どもたちが、先生やクラスの仲間と一体となった楽しい授業を通して、大切な基礎をしっかりと身につける。そうしたことが毎回の授業で実践できれば、自ずと家庭勉強との連動もうまく行くでしょう。そういう流れを意図して行っているのが、弊社の中学受験指導です。

 

LINEで送る
Facebook にシェア
Pocket

カテゴリー: 勉強について, 勉強の仕方, 子どもの発達, 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴