家庭内会話と中学受験 ~子育てセミナーを終えて~
2026 年 7 月 15 日
6月29日(月)と30日(火)に、中区袋町の広島市まちづくり市民交流プラザで「子育てセミナー」を開催しました。テーマは、「子どもの知力を育てる家庭内会話」です。29日が3年生までの児童の保護者、30日が4・5年生児童の保護者が対象で、基本的には同じ内容でした。参加くださった保護者の熱心な眼差しに励まされ、無事に予定を終えることができました。
「子育てセミナー」と題した催しは昨年も3回(各回とも2つの会場で計6回)実施しました。「いかにほめるか」「いかに叱るか」「望ましい声かけとは」と、3回とも子どもの受験生活をサポートするうえで欠かせないテーマを掲げたせいか、いずれも多数の保護者に参加いただきました。今回は、対象者を上の学年と下の学年の保護者に分けて実施してみました。このほうが子どもの発達状況に合わせた話ができるのではないかと考えたからです。
表題の通り、家庭での親子の会話は子どもの知的能力を育む大切な場です。ご存知かと思いますが、9歳から12歳にかけては人間の生涯で抜きんでるほど語彙が増えていく時期にあります。それに一役買っているのが親との会話です。毎日の生活で何気なく交わす会話を通して、子どもは様々な新しい語彙を獲得しています。子どもが毎日いちばん会話を交わす相手は誰かと問われると、ほとんどのかたは「おかあさんでしょう」とお答えになると思います。まさにその通り。最も語彙が増える時期に最も会話を交わす相手がおかあさんなのですから、子どもにとっての言葉の師匠であり先生は間違いなくおかあさんだと言えるでしょう。本セミナーでは、家庭内で何気なく交わしている会話と子どもの知性の発達との関係を明らかにし、おかあさんに意識していただきたい言葉遣いについてお伝えしました。
このセミナーで最初にご紹介したのは、かれこれ数十年前に公表され、世界中に広まった「言語コード論」と呼ばれる学説で、イギリスのロンドン大学教授の研究に基づくものです。この国の中産階級と貧困階級との生活格差が、様々な教育施策の甲斐もなく拡大していく原因を調査する過程で、この教授は家庭内の親子間の会話の違いに着目し、会話を規定する目に見えないルールの違いを詳細に分析し、それが子どもの知的発達に大きな作用を果たしていることを明らかにしました。日本は欧米とは社会構造こそ異なるものの、子どもが家庭でどんな言葉遣いを学んで育つかで、子どもの知的成長に違いが生じる点においては変わりません。そのことに気づいた多くの日本の教育関係者が、この理論を様々な機会を通じて紹介しています。今回のセミナーは、言語コード論の紹介を起点にし、子どもの知的成長を引き出す家庭内会話を実現するにはどうしたらよいかを共に考えてみたしだいです。
親子は生活を共にしていますから、互いが見える距離にいることが多く、言葉を交わさずとも意思疎通がある程度図れます。勢い言葉の省略も行われがちです。「あれ、もってきて!」「うん、わかった」「これ、ちょうだい」「ダメって、言ったでしょ」「わかったよ」「いいかげんにしなさい!」「そう、それでいいよ」…これらの会話には、主語の省略、代名詞の多用、短いセンテンス、単純な構文、情緒的言い回しなどの特徴が見られます。相手が目の前にいて、状況を共有しているからこそ成り立つ会話です。こういう会話は親しみやすい半面、第三者には意思伝達ができませんし、複雑な事柄をわかり易く説明するには不向きです。言語コード論を発表した学者は、以上のようなごく親しい間柄でのみ通用する言葉の表現様式を「限定コード」、目の前にいない第三者にわかるような丁寧な言葉の表現様式を「精密コード」と名づけました。

精密コードの特徴は、限定コードのそれとは対照的です。センテンスが長い、構文が複雑である、用いる語彙が豊富である、代名詞の頻度が少ない、論理的である、接続詞が効果的に使われる、感情に左右されない、場面の状況に依存しない(目の前にいない人にも伝えたいことがわかる)などの特徴があります。子どもの知力の発達にとってどちらがよいかと言えば、明らかに精密コードのほうです。学校で先生が用いる言葉遣いは精密コードです。また、子どもが発表時や質問時に求められるのも精密コードです。話す側に立ったときも聞く側に立ったときも伝達されている情報を正確に共有するためには、精密コードに基づく会話を経験しておく必要があるのは言うまでもありません。

ただし、互いが目の前にいる家庭では精密コードに偏った会話にはならないのが普通です。堅苦しくてまどろっこしくて、息が詰まってしまうことでしょう。そこで保護者にご提案したいのは、限定コードと精密コードの上手な使い分けです。家庭での会話が限定コードになるのはやむを得ないしむしろ当然のことです。ただし、じっくりと話ができる状況においては、精密コードにもとづく会話をマスターできるような機会も設けるべきでしょう。親子間の会話スタイルは、「どんな話題について話し合うか」によって変わります。精密コードによるやりとりになる話題を選んで考えを交換するのもよいでしょう。「夏休みの学習計画」や「自分の性格の長所と欠点」について話し合ったりするときには、やや込み入った言葉のやり取りが求められます。こういう時間をなるべくつくることも必要であろうと思います。
また、親子で会話をしているとき、親が問いかけたり、質問をしたりすることを心掛けると、子どもが自分の考えを頭のなかでまとめながら丁寧に話す姿勢が身につくでしょう。すると、こういうことの積み重ねが複雑な表現に強い人間を育てることにつながります。また、言葉のやり取りをしているうちに会話が発展し、いろいろなことについて突っ込みのある会話が展開していくことがあります。こうしてみると、会話の大原則として意識すべきは「双方向の会話」を心掛けることではないでしょうか。親はともすれば、子どもと一緒の時間があると、日ごろ伝えられなかった指示や注意の言葉を一方的に浴びせる傾向があります。これでは本来の会話とは程遠く、子どもは口を閉ざしてしまいかねません。
今回の記事を参考に、これまでよりも少しばかり精密コードに基づく会話を意識すること、親子が対等に考えを交換しながら会話が発展していく双方向の会話を実践することを心がけてみてはいかがでしょうか。毎日絶えることのないのが親子間の会話です。「継続は力なり」と言います。会話を通じてお子さんの成長を応援してあげてください。





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