親子のコミュニケーションが夏休みの学習成果を決める?

2021 年 7 月 21 日

 夏休みが始まり、早速本日(7月21日)から6年部の「中学受験夏期講習」が開講します。このあと、他の学年も次々に夏休みの講座が始まります。

 6年生の子どもたちにとって、入試本番までに残された期間はあと半年足らず。この夏休みは基礎から応用への転換期にあたりますから、今から始まる夏期講習で手ごたえをつかめるかどうかで入試に向けての見通しも変わってきます。毎年夏の講座が来ると同じようなことをお伝えしていますが、受験生の子どもたちには「夏を制する者が入試を制する」という自覚のもと、悔いの残らぬ夏休みの受験対策を実現してほしいですね。がんばれ、受験生!!

 ところで、これから盆過ぎまでは、年間を通して最も蒸し暑さを感じる時期であり、戸外と室内を行き来すると体が変調を来しがちです。家で勉強を始める際には、冷水のシャワーを浴びたり洗顔したりして、気分をさっぱりと切り替えたうえで取りかかるなど、集中力の伴った勉強を実現するための工夫も必要でしょう。また、早朝や夜などの涼しい時間帯を上手に活かし、時間や量より質を重視した勉強を実現していただきたいですね。

 もう一つ。子どもたちの集中度を左右するのがメンタルです。小学生のメンタル面を左右する要素として何と言っても見逃せないのは親子関係であり、親の上手なサポートです。夏休み期間は、これまで以上にお子さんとのコミュニケーションを大事にしていただきたいですね。

 親子のコミュニケーションを図るうえで重要な役割を果たすのが、わが子をほめることです。小学生までの子どもは、いつだって親にほめてもらい、親の承認を得たいと望んでいます。ほめ過ぎるとほめる効果が失われるなどということはありません。いくら親にほめられても、「もっとほめられたい!」と望むのが子どもというものです。親にほめられると、子どもは「自分は親に愛されている、期待されているんだ」ということを確かめることができます。当然、心が安心と幸福感で満たされますから、自然の流れとして「自分は親にどうすることを期待されているか」ということに思いを馳せるようになります。受験をめざして勉強している子どもなら、受験勉強へと気持ちが向かうのは間違いありません。

 では、いつほめたらよいかということになりますが、それには、次のような時間を夏休み中に毎日設け、その際に必ず最低一つはほめる言葉を用意しておき、子どもに伝えるというのはいかがでしょうか。

 その時間とは、1日の振り返りの時間です。勉強は、ただ漫然と取り組むのではなく、絶えず今の状態を振り返りながら成果と課題を明確にし、現状にある問題点を解消していくとより効率的に成果へとつなげることができます。その日その日の勉強について、成果と課題をノートに記す習慣をつければ、お子さん自身が現状を振り返って客観視する姿勢が身につきますし、親にすればわが子の現状や努力の様子を確かめることができます。

 「うちの子にはほめるべきところが一つもありません」と、あるおかあさんに言われたことがありますが、それはおかあさんの期待する勉強や成績という観点に縛られているからに他なりません。お子さんそれぞれにほめてやりたくなるよい点は無数にあるものです。それを見つけてわが子に伝えてやることは、親としての重要な仕事の一つではないでしょうか。またそれは親として楽しいし、わが子に関わる様々な発見にもつながるものです。

 このような「振り返りノート」を用意し、夕食後一息ついたときに「ちゃんとやれたこと」と、「上手くできなかったこと」をお子さんに振り返らせ、両方を書き記すよう促すとよいと思います。そして、親子でそのことについて 会話を交わすのです。がんばっている点については、大いに喜びほめてやりたいですね。また、がんばれなかった点については、次にどうしたらよいかについて子ども自身に考えさせ、必要に応じてアドバイスや激励をしてあげるとよいでしょう。

 無論、場が堅苦しい雰囲気になると長続きしませんし、お子さんのやる気を高める効果も引き出せません。そこで、この振り返りの時間を利用してお子さんをほめるようにすると、楽しく元気の出る雰囲気になるのではないでしょうか。先ほどの例のように、勉強のこと以外の話題でもよいのです。お子さんが前向きに頑張っているところを見つけて指摘してもよいし、少しでも進歩が認められることを指摘してもよいのです。

 とりあえず、受験勉強は置いておき、わが子のよいところ、ほめてやりたいところを5つイメージしてみてください。普段気づかなかったことがいきなり思い当たり、早く伝えてやりたくなることもあるかもしれません。こういったポジティブなやり取りの繰り返しは、必ず子どもによい影響をもたらします。ぜひ実行してみていただきたいですね。

 なお、ほめる際の原則として専門家の多くが指摘していることをご紹介しておきます。それは、能力や人間性をとりあげてほめるのではなく、子どものしたことをとりあげ、それをほめるということです。たとえば、「弟の面倒を見るなんて、なんて心のやさしい子なの!」ではなく、「弟の面倒を見てくれてありがとう。おかあさん、助かったわ」が適切です。なぜなら、誰だって、いつも人にやさしくは振る舞えません。「弟はウザイ。消えてしまえ!」と思うときだってあります。「なんてやさしい子なの!」とほめられると、「違う。ボクはそんないい子なんかじゃない!」と後ろめたさや反発心がこみあげてくるものです。そうなると、せっかくのほめ言葉も意味をなさなくなり、気まずい雰囲気に陥ることになりかねません。

 この夏休みを起点に、楽しい会話の時間、振り返りの時間を設け、親子のコミュニケーションを一層密なものにしませんか? 親子の気持ちのつながりは、お子さんのやる気を高め、学習の成果を増大させるだけでなく、家庭の雰囲気よくする効果ももたらすことでしょう。

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夏休みは、‟行動の切り替え”を合言葉に!

2021 年 7 月 12 日

 早いもので7月も半ば。夏休みが近づいてきました。弊社では、7月21日(水)の6年部「中学受験夏期講習」を皮切りに、全ての学年で夏の講座を開始します。

 さて、夏休みはかつてよりは短くなったものの、学校への通学が中断することや自由に使える時間が増えること、さらには年間で最も蒸し暑い日が続くことなどから、行動のリズムが変調を来しがちな時期です。このような条件の下で受験勉強をするわけですから、ともすれば学びの質が低下しがちであり、毎日をどう過ごすかで個々の学習成果に大きな違いが生じるものです。親子で話し合ってしっかりとした学習計画を立て、規則正しい生活のもとで勉強に取り組んでいただきたいですね。

 夏休みで特に気をつけたいのが‟行動の切り替え”です。朝起床してから夜の就寝まで、子どもたちに与えられた時間は誰でも同じです。中学受験生なら、1日の行動予定もさほど違わないことでしょう。だからこそ問われるのは計画の実行力と学びの質です。その違いが学習成果に少なからぬ違いをもたらします。そのカギを握るのが‟行動の切り替え”なんですね。

 一つ例をあげてみましょう。おたくのお子さんは次のAとBのどちらにも当てはまりますか?

A 勉強の時間になったら、遊びをやめてすぐ勉強にとりかかれる。
B 勉強の時間は集中して取り組み、予定を終えたら気持ちよく遊べる。

 どちらもOKなら素晴らしいですね。ですが、かつて指導現場にいた頃の経験を思い起こすと、次のようなご家庭がかなり多かったように思います。

  上記のような家庭が多いのは無理からぬことです。遊びは子どもにとって掛け値なしに楽しいものですが、勉強は頭を使って考えるプロセスに苦しみもあり、楽しいばかりではありません。おまけに、幼いころから親に「勉強、勉強!」と追い立てられてきた子どもは、「勉強とは嫌なもの」という観念がが染みついています。したがって、やるべき時間が来てもなかなか勉強に切り替えられない子どももいることでしょう。やっと取りかかっても、ダラダラと時間を費やしてしまい、終了時間が来たらやりかけのまま投げ出してしまいがちです。

 行動の切り替えが上手になると、時間を有効に使えるし、やるべきことに集中できるので成果も格段に上がります。しかしながら、それができるようになるには、楽しいかどうかだけを追い求めるのではなく、より重要なことを優先して行動する姿勢も求められます。このような姿勢は子どもの頃までに身につけておくべきもので、学業面での成果や人間としての歩みに多大な影響を及ぼします。今、勉強よりも遊びを優先しがちなお子さんも、心の中ではどちらが大切かはわかっています。易きに流されることなく、大切なほうを優先して行動したときの気持ちのよさ、得られるものの大きさを知る体験が足りないのです。

 この点において参考になる話があります(別件ですでにご紹介したことがあります)。アメリカの学者によって次のような実験が行われました。幼児を一人ひとり順に呼び出し、マシュマロやクッキーの類を一つ見せ、「すぐ食べてもいいよ。でも15分食べるのを待ったら、もう一つ同じものをあげるよ」と言って、実験者が席を立ちます。さて、結果はどうなったでしょうか。大概の子どもはすぐ食べたいという欲求に負けてしまいました。15分待ち、二つのお菓子を見事手にした子どもは僅かだったそうです。

 この実験はかなり前に行われたものですが、今でも世界中の教育関係者によく知られています。その理由は、人生の成功者になるうえで極めて重要な要素を示唆してくれるからです。実は、被検者の幼児のその後の人生の歩みが20年、30年以上にわたって調査されたのです。その結果、食べるのを我慢できた子どもは、総じて社会的地位が高く、高い水準の所得を得ていたことがわかったのです。

 いったいどうやって幼い子どもが欲望を抑制できたのでしょうか。「あのお菓子はまずいに違いない」とか「あれはおもちゃのお菓子だ」など、今すぐ食べてしまいたいという欲望を押しのけるための知恵を絞ったのです(うろ覚えですが、だいたいそういうことだったと記憶しています)。それは、「15分我慢したらもう一つもらえる」と先を見通し、すぐに食べてしまうのを我慢し、適正に自分の行動を制御することができたからではないでしょうか。幼児期の子どもにとってはハードルの高い行動ですが、見事目先の欲望をコントロールできる子どもがいるのですね。そして、そういう子どもは、多くの場合人生においても成功しているのです。

 この夏休みを機会に、おたくのお子さんを行動の切り替えが上手な人間、少々辛くてもより重要な行動のほうを選択できる人間へと成長させませんか? ポイントは、「何が本当に自分にとって必要か」を理解し、目先の欲求をコントロールする練習を繰り返すことです。ゲームや漫画は目先の快楽は与えてくれますが、勉強は自分にとってもっと必要なものだというぐらいのことはどの子もわかっています。だいいちやるべきことを放って遊んでも、心から楽しむことはできません。

 やるべきことをちゃんとやったうえで、楽しみにしていたことをする。そのほうが気持ちがよいにきまっています。そういう体験を是非お子さんにさせてあげてください。そうすれば子どもも変わります。前述の実験で、一部の子どもが自己抑制を働かせることができたのは、幼児期の親のしつけ・家庭教育の賜物に他なりません。

 まずは、「遊び ⇔ 勉強」の切り替えの現状を、お子さんと気楽な雰囲気で振り返ってみることをお勧めします。そして、

そして、この三つの要素と照らし合わせながら、毎日の勉強にどう取り組むか、成績の向上はどうしたら実現するか、どうすれば中学入試で希望する結果が得られるか、中学進学後も勉強で躓く生徒と躓かない生徒はどこが違うのか、将来よい人生を歩むうえで今必要なことは何か、などに絡めて話し合ってみてはいかがでしょうか。それはアバウトな内容で構いません。ただし、夏休みの生活と勉強については、具体的にどうするかをできるだけしっかり目標として定めましょう。できれば、親から一方的に語り聞かせるのではなく、「これはどう思う?」とまずは子どもに問いかけ、子ども自身で考えるような流れをつくるほうがよいでしょう。こうしたやりとりも、子どもの主体性を築くうえで効果があると思います。

 また、そういった会話の際、おとうさんやおかあさんの子ども時代、学生時代、社会人になってからの歩みと、上記の三つの重要性に照らす形で話してあげていただきたいですね。失敗談や後悔の気持ちなども効果があると思います。なにしろ、親の経験はお子さんにとって自分のこととして考えるうえで大きな作用を果たします。

 現在アメリカのメジャーリーグで、バッターとピッチャーの二刀流で大活躍をしている大谷選手も、ただ才能だけで頭角を現したわけではないことを、野球に興味をおもちのおとうさんはよくご存知だと思います。怪我や野球の違いなどで苦労をしたものの、治療、食事、トレーニング、メンタルなどの様々な要素と向き合いながら、何年もかけて今のような結果を手に入れたのでしょう。大谷選手が目標を叶えるまでのプロセスを、お子さんに話して聞かせるのもよいかもしれません。結果は偶然もたらされるものではないということは、お子さんにもよく理解できると思います。

 弊社の教室に通い、受験勉強をしているお子さんは家庭環境に恵まれた優秀な小学生です。自分を適正にコントロールする方法を身につければ、中学入試突破は無論のこと、中高一貫校、大学、社会人までの歩みに大きな期待がもてるようになることでしょう。子どもを大きく変えられるのは小学生の今のうちです。「今こそ、親の出番!」と心得てください。

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子どもに‟自信”と‟やる気”を吹き込む親になろう!

2021 年 7 月 5 日

 現在夏休みの講座の申し込みを受け付けていますが、現会員のかたで手続きをまだ済ませておられないかたはおられませんか? 受講できない事情が特におありでなければ、ぜひ参加いただきますようお願いいたします。

 さて、今回は先週の話題を引き継いで「子どもの自尊感情」を話題に取り上げてみようと思います。まずは次の資料をご覧ください。これは日本、アメリカ、中国、韓国の高校2年生が自分自身をどう思っているかについての調査結果を示したものです。なお、わざと日本のデータを白紙にしています。まずはあなた自身で1~11の質問に「全くそうだ」「まあそうだ」と思われるものに印をつけてみてください。前者なら◎、後者なら〇でお答えください。

 

 表中の数字は、「全くそうだ」もしくは「まあそうだ」と回答した生徒のをパーセントで示したものです。質問項目のは、人格や協調性などの人間的側面に関する質問です。3・4・5・10は自己肯定感に関わる質問だと思います。6・7・8・9・11は、メンタルの強さや安定度に関わる質問でしょう。いずれも、人間が前向きでよい人生を送るうえで欠かせない要素です。

 日本人の特徴として、「自信満々」のタイプにカテゴライズされる人物が少ないということはよく知られています。謙譲の美徳という言葉があるように、日本人は謙遜をよしとする傾向があります。ですから質問のなどの数値が低いことは予想されました。その点に鑑みるなら、数値はあくまで参考程度とすべきかも知れません。

 ともあれ、みなさんそれぞれご自身の結果を踏まえつつ、アバウトで結構ですから日本の高校生のデータを想像して書き込んでみてください。

 書き終えましたか? では、実際のデータを確かめてみましょう。質問は43.7%、質問は64.3%、質問は44.4%、質問は36.8%、質問は60.1%、質問は31.8%、質問は27.0%、質問は48.0%、質問は22.3%、質問10は56.1%、質問11は45.7%でした。みなさんの予想と概ね一致していたでしょうか。何と、質問の以外はすべて日本の高校生の数値が一番低いことがわかりました。これにはいささか驚かされます。

 自分の人柄について尋ねられると、日本人なら大人も子どもも多くは控えめに答えるでしょう。ですから、数値が低いことは予想できましたが、これほどまでとは思いませんでした。

 実は、この資料をご紹介した理由は、保護者の方々に質問項目の3・4・5・10などの結果、つまり日本の高校生の自己肯定感の現状を見ていただきたかったからです。というのも、自分の能力を肯定的にとらえられるかどうかが、お子さんの将来の歩みに大きな影響を及ぼします。みなさんのお子さんが高校生になったとき、これらの質問項目に「全くそうだ」「まあそうだ」と、内心胸を張って答える人間であってほしいですね。

 では、自分の能力に信頼の気持ちをもった子どもに育てるにはどうしたらよいでしょうか。それには様々な方法があると思いますが、今回はひとつのことに的を絞ってご提案しようと思います。それは何かというと、「努力を奨励し、子どもの努力の実践のプロセスをしっかりと見届け、ほめたり承認したりすること」です。努力すれば結果はついてくるということを子どもに実感させるのです。仮にうまくいかなかったとしても、「親ががんばったことをこんなにも喜んでくれる。認めてくれるんだ」ということを繰り返し体験することは、心の健全性を養ううえで大きな作用を果たすことでしょう。親がしてやれることとして、これ以上ないものではないでしょうか。

 だいいち、人間には誰にも一定の能力が備わっています。それなのに、ほとんどの人間は本来有している能力の何分の一も発揮しないまま大人になっているのです。その原因は、「やればできるんだ!」ということを実感する経験が足りないからではないでしょうか。

 努力の価値について、東京大学の遺伝学者は著書で次のように述べておられます。

 私のように遺伝の研究をしている立場からすると、その影響の大きさをことさら主張したいところですが、実際には、どうもそれ以上に環境の影響が大きいようです。

 たとえば、生まれつき知能が高いとしても、それにともなう努力がついていかなければ、その能力は発揮できません。平均的な知能であっても、努力すればかなりの能力を発揮できます。もちろん、ノーベル賞級の研究者になるには、生まれつきの才能が高いうえに、人にはまねのできない努力が必要でしょう。しかし、一般社会レベルでの「頭がいい人」「仕事ができる人」となれば、生まれもった能力はそれほど違いがないのですから、努力の量にかなり比例するといっていいのではないでしょうか。

 そして努力することによって、遺伝子のはたらきが変わることはあるのです。遺伝子自体は決して変わりませんが、遺伝子のオン、オフを変えることはできます。

 一生懸命努力すれば頭がよくなるのは、それまではたらいていなかった遺伝子がオンになって、有効に働くようになるからだと考えられます。

 生まれつき頭がいい人というのは、ある能力が働きやすい遺伝子をもっていて、それに対して、ある能力が不得意な人は、それが働きにくい遺伝子をもっているわけです。

 しかし、はたらきにくい遺伝子をもっていたとしても、くりかえし努力することで、その遺伝子のスイッチがオンになってはたらきやすくなることがあります。たとえば、もともとはたらきにくい遺伝子がある物質の受容体だとします。そのはたらきが悪いために、電気の流れがよくないわけですね。しかし訓練、努力を重ねることで、つねに電気が流れ、受容体のはたらきが活発になることは起こりうるわけです。

 どうでしょう。開花する可能性を有した能力を、埋もれたままにするのはあまりにもったいない話です。「うちの子には才能が必ずある!」と信じ、つねに努力する姿勢を引き出しやりたいものですね。

 わが子を受験塾に通わせていると、努力の大切さは十分にわかっているはずの親でも、目先の成績に振り回されて子どもの努力を認めてやることを忘れ、不満を漏らしたり叱ったりすることになりがちです。そうした傾向はありませんか? そうことが繰り返されると、子どもは能力開花に向けてよい流れを築くことができません。

 とは言え、親がわが子に努力の大切さを伝えるのは当然としても、いきなり努力、努力と言い出したのでは不自然です。まずはわが子の小さな努力を一つも見逃さないよう注意して観察することから始めたらどうでしょうか。ほめる対象は勉強面に限りません。努力の様子が感じられたなら、タイミングを見計らってほめるのです。喜んでやるのです。「親は、結果よりもプロセスを大事にし、がんばっていたらどんな結果になってもほめてくれる」――そういった雰囲気が家庭内で定着したら、子どもは必ず変わります。子どもが自信を失うのは、他者と比較され、自分にしたことを認めてもらえないときです。親がわが子を見守る視点を変えれば、子どもは自信を取り戻します。子どものがんばりに活気が伴ってきます。そうなると、上記引用文のように電気の流れがよくなるのは間違いありません。

 グローバル社会は、お子さんが社会に出る頃にはますます進んでいることでしょう。外国人との交流において、日本人の欠点としてしばしば指摘されているのは自己表現や自己主張の弱さです。それには自己肯定感が低いこととも大いに関係があると思います。自分にプライドをもち、自分の考えをしっかりと言えない人間が国際社会で通用しないのは自明のことです。国際派の人間が少ないのは日本人が英語を苦手にするからだという説もありますが、実は英語力は本質的問題ではなく、日本人が自分の考えをもち、その考えを、自信をもって主張する姿勢を欠いているからだと指摘する専門家も少なくありません。

 ものごとが意図通りに成就するには、少々のことではへこたれない精神力や実行力が不可欠ですが、それを支えるのは自分への信頼の気持ちではないでしょうか。わが子に自己信頼の気持ちを吹き込むのは親の大切な仕事の一つです。小学生までの子どもは、親の対応ひとつで大きく変わります。子どもに努力の価値を教え、自分に手ごたえを感じる体験をたくさん味わわせてあげてください。

※上記引用文は、「『頭のよさ』は遺伝子で決まる!?」石浦章一/著 PHP新書478 によります。

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子どもを前向きに生きる人間に育てる家庭内会話

2021 年 6 月 28 日

 ご存知のように、広島県では6月21日をもって緊急事態宣言が解除されました。ただし新規感染者の数は減少傾向にあるものの、毎日一定数の感染者が確認されています。予断を許さぬ状況であるのは変わりません。十分にお気をつけください。

 さて、今回は家庭内での親子間の会話のもつ役割や重要性を話題に取りあげてみました。親子の意思疎通を図るうえで会話がいかに大切なものであるかは論を待ちませんが、中学受験をめざして勉強しているお子さんのメンタルケアの観点においても大変重要な意味をもっています。みなさんのご家庭では、親子の会話はどれぐらいあるでしょうか。

 まずは、家庭内の会話の時間と子どもの学習状況に関する調査資料をご紹介しましょう。以下は、小4~高2の子どもを対象に実施された調査の結果です(ベネッセ教育研究所による)。

学習時間と親子の会話量          ベネッセ教育研究所(小4~高2対象調査)

 グラフ内の数字は%(パーセント)を表します。親子の会話が多い家庭では、総じて子どもの学習時間が長いということがわかりますね。子どもと心を通じ合わせる時間を確保することが、子どもの学びに向かう意欲を高める効果をもたらすのでしょう。子どもにしっかり勉強してほしいと考える保護者のなかには、「おしゃべりしている暇があるなら、勉強、勉強!」と子どもを追い立てておられる保護者はおられませんか? しかし、それは子どものやる気をしぼませる生憎な結果を招きがちです。

 筆者は、親子関係を密なるものにするうえで重要な時期は児童期だと考えています。というのも、児童期の親子のコミュニケーションの状態が、子どもの成長に後々までも影響を及ぼすからです。どういうことか、ちょっとご説明しておきましょう。

 小学生の子ども、特に低~中学年までの子どもは親を全面的に頼って暮らしていますから、親の影響力がきわめて強い状態にあります。この段階においては、親が多少理不尽な命令をしたり、子どもの意向を無視したりしても概ね従大きな問題にはなりません。しかしながら、成長とともに行動範囲が広がり、他者との交流が増えるにつれて自分自身の考えをもつようになり、親への精神的依存性が徐々に低下していきます。もしも親への不満や反発の気持ちを根底に抱いていたなら、やがて親に反発し口答えばかりするようになる危険性が多分にあるでしょう。そのような子どもが思春期を迎えると、もはや全く親を顧みなくなってしまいかねません。ですから、わが子が小学生のうちにこそ信頼で結ばれた風通しのよい親子関係を築いておく必要があるのではないでしょうか。

 上記資料を見ると、子どもの年齢が上がるほど会話時間が長いか短いかの違いが学習時間の差を拡大させています。児童期に親子の会話時間が少なかった家庭が、高校生になって激変し、十分な会話の時間を設けるようになるとは考えられません。その理由は先ほどお伝えしたとおりです。親子の会話を今のうちに大切にしておきたいものですね。

 「親子の会話の重要性はわかった。でも、会話の際どんなことに留意したらよいかがわからない」というかたもおありかと思います。教育学者の汐見稔幸氏(東京大学名誉教授・前白梅学園大学学長)は、親子間の会話について次のようなことを述べておられます(「学力を伸ばす家庭のルール」2006小学館)。

 家庭の中で考えることを促すような会話、言葉を選んで答えなくてはいけないような会話が意識されているかどうかによって、普段の何気ない会話の中で、ある程度知的な準備がされるかどうかの違いが生じます。

 たとえば子どもと会話をしたときに、親が期待していることと違うことをしゃべる、ということがよくありますね。そういうときに「何をバカなことを言っているの」とか「子どものくせに生意気云うんじゃないの」と批判するか、「え、どうしてそんな面白いことを言うの?」とか「そうかあ、お母さんはそういうことを聞いたんじゃないんだけど、あなたは面白い発想をするね」というふうにして、子どものこちらの期待通りではない発言に対しても、きちんとプライドを大事にしてやる、ということを心がけているかどうかによって、子どものセルフイメージ(自己像)が大きく変わってきます。

 セルフイメージとは、自分を自分でどう価値づけるか、ということです。「自分がどう考えたとしても、自分が一生懸命考えたことは大事にされるんだ」というふうに自分を感じるのか、「親の期待通りに発想しないと自分はいつも否定される」と感じるのか。

 自分という人間は祝福されているし、ちゃんと肯定されている、ということになれば、自己像も肯定的になります。こういった親の配慮のもとで育つと、望ましい自尊感情や自己肯定感が育まれていきます。

 一方、いつも頭ごなしに反論されたり批判されたりすると、「自分という人間はどこかダメなのかな」とか、「何を考えても意味がないのかな」ということを学習してしまいます。これでは、自分に対する肯定感や受容観がうまく育まれません。

 このように、親の何気ない対応によって、わが子の知的能力だけでなく、心というか、セルフイメージも違ってくるわけです。ですから、普段の会話はできるだけ一方的にならず、活発にやりとりができる雰囲気をつくるよう心がけたいものです。

 これを読むと、子どもの自尊感情・自己肯定感を育むような会話を心がけることの重要性が語られています。そのための会話のポイントがわかり易く書かれています。ぜひ参考にしていただきたいですね。

 また、上記引用文で紹介されているような親の会話における配慮や対応は、中学受験をめざして勉強している高学年児童にとっても極めて重要な意味をもたらします。

 というのも、自分と他者とを比較し、優れているとか劣っているなどの意識が芽生えるのは、だいたい小学4~5年生の頃だからです。塾通いを始めた当初、塾に通って授業を受け、新しい友達もができたことを喜んでいたお子さんが、いつのまにか学びの活力を失い、勉強に向かう意気込みをしぼませることがあります。それは、テスト成績で自分と全体(他者)を比較する新しい世界の洗礼を受け、自分の能力に疑念をもつようになったからに他なりません。これまで何度もお伝えしてきましたが、全員が受験をめざす集団内での成績はそうやすやすと上がるものではありません。実際は、随分学力的に向上しているのですが、他者と比較すると頭打ちに見えたり、下がって見えたりするものです。

 しかしながら、自尊感情をサポートする親の存在があったなら子どものメンタルはダメージを回避することができます。自分に対する信頼の気持ちがあれば、子どもは困難に出合っても簡単にはあきらめません。「どうやったら成績が上がるか」を考え、柔軟に対処することができます。また、親子間の会話が常にある家庭では、親がわが子を励まし奮起させる機会を適切に設けることができるでしょう。上記引用文にあるような親の対応は、子どもの気持ちを強くさせ、困難に立ち向かう勇気を吹き込んでくれるのではないでしょうか。

 児童期後半の子どもは、少しずつ親離れしていく時期にいます。この時期が結構難しいのです。親が手の差し伸べ過ぎるのもよくないし、ほったらかしもよくありません。大切なのは、失敗を恐れず困難に立ち向かう姿勢を育むことです。無論がんばったのに失敗することもたびたびでしょう。しかし、「あきらめるな!次がある」「困難にくじけずに挑戦する人間になることが親の願いなんだよ!」と、サポートしてくれる親がいれば何も心配要りません。

 受験までの道のりは決して平たんではありません。度重なる失敗もあることでしょう。しかし、親子間に強い信頼関係があればだいじょうぶです。そうした信頼関係を育むのが毎日家庭で交わされる会話なんですね。現状をもう一度振り返り、今回の記事のなかで参考になる点が見つかれば採り入れてみてください。

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どうすれば学習対象が覚えやすくなるか

2021 年 6 月 21 日

 夏休みの講座の受付が始まりました。受験部門(4~6年生)はクラスや定員に比較的余裕がありますが、低学年部門は、どの校舎・学年も割りあてられる教室数に限りがあり、しかも年齢を考慮してクラス定員も少ないため、すぐに定員に達する場合があります。弊社のHPにて申し込み状況を確認のうえ、申し込み手続きをしていただきますようお願いいたします。

 さて、前回は低学年児童向けの夏休み講座についてご案内しましたが、その導入として「記憶によく残る学びとはどういうものか」を話題に取り上げて考察してみました。今回もこの話題を引き継ぎ、「どういう情報や学びが記憶に残りやすいか」について、ともに考えていただきます。お伝えする内容は、高学年児童の受験対策に応用していただけるのではないかと思います。

 ロシア語の同時通訳者として活躍された米原万里氏(1950‐2006)は、文筆家としてもすぐれた才能を発揮され、語学や教育に関わる著述を多数残されています。筆者は氏の文献をかねてより拝読していますが、それは氏の学習や記憶に関する著述が、近年脳科学の発達にともなって解明されている諸々の事柄と見事に合致しており、唸らされる思いをたびたびしてきたからです。今回は、どんなものが覚えやすいか、覚えにくいかについて書かれている部分をかいつまんでご紹介してみます。中学受験をめざしている子どもたちの勉強のありかたを考えるうえで役立つのではないかと思います。

どんなものが覚えやすく、どんなものが覚えにくいか

 覚えることに長け、テストで常に好成績をあげているお子さんは、丸暗記が得意(記憶力が高い)だからというよりも、「新規の知識をものにしたい」という意欲の熱量が高く、覚えることに工夫を凝らす努力を惜しまないからよい結果を得ているのではないでしょうか。特別に記憶力のよい人の話をときどき耳にしますが、一般的には人間の記憶力はそう違ってはいません。それぞれの教科の勉強にあたり、上記でご紹介したことを応用して覚えるための工夫をしてみるとよいと思います。

 前出の米原氏は同時通訳者ですが、全く異なる分野の専門家の会議やシンポジウムなどの仕事がつぎからつぎへと舞い込み、その度におびただしい量の資料に前もって目を通し、必須事項を頭にインプットしたうえで現場に向かったそうです。その仕事ぶりをちょっとご紹介してみましょう。

 帰国翌日は、万国家禽会議で「卵のコレステロールのほうが豚のそれに比べてどれだけ優れているか」とか、「鶏をあまりにも非人道的に扱っている。もう少し鶏の福祉を考えるべきだ」という話を「ああ、どうせ絞めて喰ってしまうのに」と思いつつ、それをおくびにも出さずに通訳したかと思うと、夜はボリショイ・バレエのプリマのインタビューに備え、「バ・ドゥ・トゥ」と「バ・ドゥ・トロワ」の違いなどを予習し、翌日からは二日間のセミナーで「日本の天皇制とロシア帝政の比較」「日本における中国研究とロシアにおける中国研究の比較」とかいうテーマの歴史学者たちの報告の通訳の仕事が待っていた。文系出身者としては、やっと「一息つける」と期待していたら、中国語の固有名詞の発音が日本語とロシア語と想像もつかないほど隔たっているため、通訳も、したがって会議も混乱した。

 次の日は、日本から輸出する養魚施設に関する商談の通訳で、魚が成長する過程で、「仔魚から稚魚になり、稚魚から幼魚になり、幼魚から成魚になり、そして子を産む親魚になる。だから、なまこの稚魚にあたる時期を「稚なまこ」ということを日露両語でそれこそ血まなこになって覚え、さらに次の日は東京都の下水施設視察に同行し、そこで処理された水を飲んでみないかと勧められて閉口したり、「翌週は「旧石器時代におけるユーラシア北部の細石器文化」というテーマのシンポジウムの通訳を引き受けたため、細石器の名称や製造技術、出土する地層や遺跡の名前を、「ああ、せっかく覚えても、わが残りの人生で二度と使うことはあるまい」と思いつつも懸命に頭に詰め込んだり。…………

 想像を絶するようなハードワークの様子は、この後も延々と紹介されていました(上記引用文は、都合で多少約めています)。ユーモアたっぷりに書いておられるので思わず笑いながら読んでしまいますが、常人にはとてもこなせない高度かつ過酷な仕事であることがよくわかります。

 ところで、米村万里氏はどのようにしてこのような卓越した情報の処理能力や表現力、機転の利いた会話術を身につけられたのでしょうか。そのヒントとなるもののひとつに、氏が小3から中3の途中までプラハのソビエト学校で受けた教育があるように思います(以下は氏の著書より引用)。

1.子供用にダイジェストされたり、リライトされたりしていない文豪たちの実作品の多読。学校附属図書館の司書が、学童が借りた本を返す都度、読み終えた本の感想ではなく、内容を尋ねる。本を読んでいない人にも、その内容をわかりやすく伝える訓練を、こうして行う。そのうえで、もちろん感想も聞かれる。

2.古典的名作と評価されている詩作品や散文エッセーの主なものの暗唱。低学年では、週二篇ほどの割合で大量の詩作品を暗記させられていく。

3.小学校三年までは日本で過ごした私の経験では、国語の時間、「では、何々君よんでください」と先生に言われて、間違いなく読めたら、それでおしまい。「座ってよろしい」だったのが、ソ連式授業では、まずきれいに読みおえたら、その今読んだ内容をかいつまんで話せと要求される。一段落か二段落読まされると、その都度、要旨を述べない限り座らせてもらえない。

 日本の学校教育とはずいぶん異なることに驚かされますね。両者の違いについて云々すると、それだけでおびただしい文字量になるので割愛させていただくとしても、参考になる点について一言申し添えておきたいと思います。

 ただ教科書やテキストを読む、重要事項を覚えることの繰り返しでは、たいした頭脳の鍛錬効果になりません。前回のブログでも、他者に説明する、教えることが、理解や記憶につながることをお伝えしましたが、上記のソビエト学校の教育も同じことが言えると思います。学んだら、その内容を他者に教える、説明するという機会があるとよいでしょう。

 低学年なら、それこそお子さんが親に説明する仕掛けを工夫するのも有効かもしれません。もちろん高学年でも構いません。「なぜこうなるのか」を自分に問いかけ、納得しなければ他者には説明できませんから、そのプロセスが頭を鍛えることになるのですね。ただし、高学年の学習内容ともなると、親が説明して教えるのは困難ですし、それを経験すべきは子ども自身です。ですが、頭脳鍛錬のパートナーとして聞き役を務めるなら、勉強に親が関わるのも決して悪いことではないと思います。

 読書も頭脳鍛錬にもってこいのツールです。読書をしたら、どんなストーリーだったかを親に説明したり、親子で互いに読後感を語り合ったりすると、読んだ本の内容がより深く子どもの脳に浸透するのではないでしょうか。かなり読めるようになったら、あらすじをまとめたりするとよいと思います。そこまでできないご家庭では、親の前で朗読するだけでも効果があるでしょう。言わずもがなですが、親が一方的に語りかけたり、苛立って説教をしたりしないよう、くれぐれもご留意くださいね。

 親が聞いてくれていたり、後で親に説明する必要があったり、あらすじをまとめる仕事があったりすると、子どもは集中して真剣に読みます。はじめから高度な要求をすると、子どもにとって辛くて嫌なものになりますが、親も同じものを読んで感想を交換したり、子どもの表現足らずを前提に練習相手をするつもりで親が臨めば、段々と上手になり、半年後には驚くほど進歩しているのは間違いありません。

 小学生までの子どもの学びは、見守ってくれる大人の(厳しくも)温かいまなざしを背に受けてこそ活性化するものです。自学自習はいきなり達成できるものではなく、そこへのステップとして大人の適切な関わりや助力が必要なのだと思います。成長途上の子どもほど関わりがいのある対象は存在しません。上手に間合いを取りながら、少しずつ自立へとお子さんを向かわせてあげてください。最後、少し脱線しましたが、参考にしていただける点があったならうれしいです。

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