六月のある雨の日、先生がめいわくな質問をした。

「みなさんは、夏休みにどこか行きますか？」

　クラスのみんなは、うかれた大声で口々に先生にどこへ行くか話した。けれども、わたしは目立たないようにじっとだまっていた。だって、わたしはこの夏、どこにも行かないんだもの。そんなことだれにも知られたくない。

　なのに、先生はわたしの方に向かってきた。そして、
「みんなの前で、どこに行くのかちょっと話してみなさいよ。」
なんてわたしに言ったのだ。

　わたしは教室をぐるっと見回した。教室のかべにはられたピラミッドの写真……。わたしは思わずこう言ってしまった。

「わたし、エジプトに行きます！」

　先生もクラスメートもびっくりしたみたい。みんなうらやましそうにわたしのことを見ている。さらにまずいことに、先生は、夏休みが終わったら、エジプトについて発表してみんなに教えてちょうだいねなんて言ったのだ。

　ジジ、ピンチ！　こんな大うそをついて、なんてはずかしい。

　だけど、夏休みになるまでわたしはクラスメートに旅行のことを聞かれるたびに、かなり大げさにうそをついてしまった。

　夏休みに入ったある日、家のポストをみると黄色い封筒が入っていた。それには、「ジジへ」と書いてあった。

　わたしあての手紙だ！

　その手紙はだれから来たのかわからないけれど、ノートの切れ端みたいな紙にヒエログリフ（古代エジプト人が使っていた絵文字）のような、不思議な暗号みたいなのが書かれていた。