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6年生の今月の本


白い手 タイトル 白い手
著者 椎名 誠
出版社 集英社
 

――通学路の途中におっこし坂というちょっと急な坂道があって、道の片側が石垣の斜面になっている。
――この坂をのぼり切った先に「市原保」という表札の出ている大きな二階建の家があって、その家の下を通るのがいつもちょっとしたスリルだった。どうしてかというと、その家の一番はずれの二階の部屋から時々人間の「手」が出ているからだ。小さくて白い手なので、それは子供のものとわかるのだけれど、なにしろいきなり窓から手だけが出ているので、最初の頃は実に気味が悪かった。――

 その手は女の子のものだということはわかったのですが、白い手に関する主人公の感想はそんなものでした。ところが、一緒にいた同級生の松井は、「きっと病気で寝ている子供なんだろうね」とひどく驚き、その後は家の前を通るたびに窓の下でハーモニカを吹きながら通りすぎるのでした。
 そんな松井の様子がなんとなくはずかしくて、主人公は「背中のへんがこそばゆく」なってしまいます。そして、このことはクラスの連中には絶対に知らせないでおこう、と思うのでした。

 なぜなら、松井はわけあってクラスのなかで浮いた存在だったからです。松井のお母さんに頼み込まれて、学校の行き帰りから松井と行動を共にしなければならなくなったとき、主人公は正直うんざりしていたのですが、当時はめずらしいテレビ見たさについつい松井の家に押しかけてみたりするのでした。仲間といっしょに地上25メートルはある榎(えのき)の大木に登ったり、タンスに猫のミイラがいたといううわさの無人倉庫に忍び込んだりするうちに、松井もだんだんとクラスになじんでいきます。

 そんなある日、主人公はひょんなことからクラスで作る「壁新聞」の編集委員になってしまいます。メンバーは松井と、松井がクラスで浮く一因をつくった相原トモエでした。さいしょは一向(いっこう)に進まない新聞作りですが、友だちの神田パッチンが骨折したとか、校庭の鉄棒が低すぎるとか、弁当のおかずを交換(こうかん)してはどうかといったニュースや提案で、紙面はそれなりににぎわってきました。けれどもある日、松井が書いてきた記事は、主人公にとって思いもよらぬものでした。それは、あの「白い手」についての記事だったのです……。

【 作者の椎名誠(しいな まこと)さんは、あとがきにこんなことを書いています。「どうもその頃、ぼくのまわりにはいつも何かがキラキラしていた。あれは一体なにが光っていたのだろうか――と時々ふっと真剣になって思い出そうとするのだけれど、うまくいきません。」 椎名さんの言う「その頃」に、今みなさんはいるのかもしれませんね。ちょっとせつないお話ですが、男の子にも女の子にもおすすめの作品です。】

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