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6年生の今月の本


りんご畑の特別列車 タイトル りんご畑の特別列車
著者 柏葉 幸子
出版社 講談社
 

 いつものように、ピアノ教室から家に帰る列車にのったユキ。けれど、なんだかいつもとちがうことがあった。ユキの目の前にすわっていたおばさんが、りんごを一つとりだして、シャキシャキと皮をむきだしたのだ。となりの、つとめ帰りらしいおじさんも、おじさんの向かいにすわっているおねえさんも……。ユキが車内を見回すと、おどろいたことに、車内の人全員が、りんごの皮をむいていた。

  車掌(しゃしょう)さんは、ユキが「特別列車」の切符を持っていないと言って、りんご畑のまん中にある小さな駅にユキをおろしてしまう。ユキと同じ日だまり村に住んでいる紅(べに)さんと了(りょう)さんの姉弟(きょうだい)が、紙つぶてを投げてよこした。

「メリィさんのところへ行って。」
「地図はこれ。旅行代理店だよ。」

 メリィさんの旅行社は、りんご畑のまん中にあった。
「まあ、よかった。あと十分おそかったら、まにあわなくなるところでしたわ。」

そう言って、ぷくぷくしたおばあさんは、中に赤い液体(えきたい)の入った小さなりんごのペンダントをユキの首にかけ、ジャンパーのえりの中へおしこんだ。
「わたくしがあなたをおとどけする役ですの。ここでおよろしいはずですけど、なにしろ暗いものだから。まあ、だいじょうぶでしょ。」 
おばあさんは機関銃(きかんじゅう)のようにしゃべって、ユキの言葉などまったく聞いていない。
「時間がございませんわ。お友だち、たくさんできるとよろしいわね。さあ、いってらっしゃい。」 
おばあさんがユキをおし出した。
「わたしは家へ帰りたいんです。」 
大きな声で言って、ふりかえった時には、おばあさんも旅行社の建物(たてもの)も消えてなくなっていた。

 いつのまにか、ユキは石づくりの階段のいちばん下に立っていたのだ。階段の上にはりっぱな玄関(げんかん)があった。ここがどこなのか、さっぱりわからないが、とにかく寒い。

 ユキははらをくくって、ひとりでに開いたドアから家の中に入った。家のおくには暖炉(だんろ)があり、ユキはほっとため息をついた。同時に、もう一つため息が聞こえた。ユキは、息をとめてふりかえった。だれかいる。

「だれかそこにいるんですか? だれなんですか?」 
しだいに、うすぼんやりしたもやのようなものがあらわれはじめた。広い肩に大きな手足をした男の人だ。
「わしのいるところがわかるのか。」
ゆうれいでも、透明(とうめい)人間でもなさそうだ。
「さっきまでは、なにも見えなかったの。でも、いまはわかるわ。」 
ユキが答えると、もやのような人は、
「おまえは、この世界の者じゃないな。」
と言った。
「あの、ここはいったい……。」
「メルクリウスという世界だ。そこのバカシル国、ネコヤナギ通り、十五番地だ。」

 もやのような人は、魔王ペキンポと名のった。五百年前、国王バカシルに、みんなから忘れられてしまう魔法をかけられたため、誰からもすがたが見えなくなり、魔法も使えなくなってしまったのだという。ユキがもとの世界にもどるためには、ペキンポの魔法が必要だ。しかし、ペキンポが魔法を使えるようになるためには、バカシルに会って、ペキンポにかけた魔法をといてもらわなくてはいけない。

  そんなとき、バカシルのむすこである王子が、王になるための旅に出ることに決まり、おともをする魔法使いをさがしているとの知らせが入った。おともに選ばれれば、バカシルに会えるかもしれない。ユキは、仕事をもとめて家にやってきた、お人よしでそうじ好きのビーバー・チャップといっしょに、おともにえらばれるための計画を考えはじめた。

「なんとかなるわ。ねえ、チャップ。」
「なんとかなるにきまってますだ。おらたちがついていますだで。」

【 とつぜん足をふみいれるはめになった魔法の国・メルクリウス。みんなには姿(すがた)が見えないペキンポと協力して、魔法つかいのふりをするユキのたくらみは、うまくいくのでしょうか? この本を書いた柏葉幸子(かしわば さちこ)さんの「天井うらのふしぎな友だち」を読んだ人なら、思わずにやりとしてしまう人物も登場しています。ぜひ、読んでみてください。】

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