勉強の得意不得意と自尊心の関係

2019 年 7 月 8 日

 前々回、前回と、成績不振に陥っているお子さんの状況改善案として、音読の励行による読みの態勢の再構築をご提案しました。

 文字とは、そもそもコミュニケーションのために考案され、共通のルールで体系づけられた記号です。文字を介して伝えられる情報はそれこそ無限にあり、人生経験の浅い子どもがそれを使いこなせるようになるには、相応のステップが必要です。特に、文字を識別し、発音と照合するプロセスは長い時間と習練を必要としますが、そこでの学習で不可欠なのが音読です。もしも「わが子の読みの態勢づくりが不十分だった」と感じる保護者がおありでしたら、音読の励行から巻き返していただきたいと存じます。

 さて、今回は子どもの自尊心の状態と勉強の得意不得意との関係を話題に取り上げてみました。つまり、自分を好きであるという気持ちと、勉強を得意に思う気持ちとには何らかの関連性があるかどうかということです。その調査結果をご紹介し、子どもの健全な成長を促すために大人(親)が留意すべきことは何かを一緒に考えてみようと思います。

 以下は、上記テーマに基づく公的調査の結果を表にしたものです。なお、この資料は教育社会学者の舞田敏彦氏の著書から引用したものです。

※国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する実態調査」(2014年度)より。

 上記資料をまとめられた舞田氏の著書によると、「自分がとても好き」と回答した子どもの割合は、小4で28.9%、小5で24.4%、小6で22.4%、中2で9.3%だったそうです。あきらかに、年齢が上がるにつれて「自分をとても好きである」と思う子どもの比率が下がっています。その理由ですが、氏は次のように述べておられます。

 小学校と中学校の落差が大きいようですが、高校受験を見据えたテストの連続で、周囲と比した自分の相対的位置を思い知らされることが多くなるためでしょう。よって自尊心の程度が、勉強のでき具合に規定される度合いが高まってくるとみられます。

 上表は、「勉強の得意度×自尊心の程度」を示すクロス表です。網掛けしている数字はA~Dの各項目の最頻値を表します。その分布をみると、勉強の得意度が高いほど自分を好きであると受け止める子どもの比率が高くなり、勉強の得意度が低いほど自分を好きでないという子どもの比率が高くなっていることがわかります。この傾向は、小学4年生でも、高校2年生でも基本的に変わりません。

 上記引用文にある「自尊心の度合いが、勉強のでき具合によって規定される度合いが高まってくる」という状況が、より視覚的にとらえられる資料を舞田氏が作成されていますので、ちょっと見てみましょう。

 この資料を見ると、小4では「自分がとても好き」「自分が少し好き」という自己肯定感の強い子どもの割合がかなり高かったのに、高2になると数的割合が随分減少していることがよくわかります。自分を肯定的にとらえる気持ちが、様々なテストなどでの順位付けの経験によって低下していくのでしょう。申し上げるまでもなく、この傾向が強まるのは決して望ましいことではありません。

 弊社のような進学塾においては、学力の相対的な位置づけを知るためのテスト制度が欠かせません(順位を始め、学力の指標となるデータを出します)。うまく生かせば、自分の勉強の成果や欠点がわかる有効なデータとなりますが、成績が伴わないことが続くと、「これは能力を示すのではなく、現在の勉強の結果が数字に表れたものですよ」とお伝えしても、親も子どもも能力判定のように受け止めてしまい、「力が足りない」と思い込んでしまいがちです。しかしながら、実際には勉強の方法に問題があったり、努力の向けかたがアンバランスだったりしたことが成績低迷の原因であることも少なからずあります。つまり、勉強の改善で対処できるのです。

 親が成績を見て子どもの自己肯定感を低下させるような言動をとると、それが覿面にお子さんに影響します。成績が思わしくなかったときには、どうしてそうなったのかを子どもに振り返らせたり、一緒に原因を話し合ったりし、「成績は、自分の勉強の状態が反映したものだ」と受け止めるよう導いていただきたいと存じます。無論、得意不得意もあるでしょう。お子さんが「今回は苦手なところが出た」と言ったなら、「じゃ、そこは少しずつ対策を考えて実行しよう」など、前向きな対応をお願いいたします。

 言うまでもありませんが、「自分は頭のよくない人間だ」「自分という人間が好きでない」と思うことが、人生でプラスに作用することなどほとんどありません。保護者におかれては、テストデータは能力判定をするものではなく、「学習成果のチェック」のためにあるのだということを肝に銘じ、「どれだけ努力したか」を軸にお子さんの勉強を見守りサポートしていただくようお願いするしだいです。成績を能力の問題と一元的にとらえると、成績がよくてもよくなくてもお子さんによい影響はもたらされません。

 また、得意な教科が一つでもあれば、それはお子さんのもっている可能性がいかに大きいかの証しです。保護者におかれてはそれを大いに評価し、励みにするようお子さんに声かけをしてあげていただきたいと存じます。実際、1教科でもよい成績をとれる力のあるお子さんは、取り組み次第で他の教科の成績も上がる可能性が高いのです。また、一つの教科に秀でたお子さんは、中学・高校への進学後もがんばり続ければ、その教科に関連する進路を選択することで高いレベルの大学への進学も可能です。

 お子さんには、自分のもっている可能性に挑戦するつもりで中学受験に備えた学習生活を送っていただきたいですね。勉強は、「やっただけのことがある」と、教えてくれるものです。前よりも、一歩ずつ進歩することを親は望んでいるのだということを絶えずお子さんに伝え、前向きに努力する姿勢を植えつけてあげてください。そうすれば、きっとお子さんは自分を肯定的にとらえ、何事もあきらめることなくがんばれる人間に成長されると思います。

 中学入試は、完成された人間のためのものではありません。完成度の違いで如何様にも結果が変わる、成長途上の子どもが受ける試験です。その試験の途中で能力を見限るようなことがあっては元も子もありません。保護者におかれては、将来的なわが子の成長の姿を見通しながら、今存在する課題や努力目標を少しずつクリアしていく姿勢を大切にしてください。お子さんの内面の健全性や成長にも決して目を離さないようお願い申し上げます。

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学力不振は“読み”の習練不足が原因? その2

2019 年 7 月 1 日

 前期講座がもうしばらくで閉講となります。2月に開講して4カ月ほど経過したわけですが、学習をうまく軌道に乗せて堅調に成績を伸ばしておられるお子さんが多数おられるいっぽう、なかには残念な状況に陥ってしまい、勉強しているのに成績不振から抜けだすことができないままのお子さんもおられるようです。前回から今回にかけては、その原因と対策についてお伝えしようと思います。

 一応の勉強はしているのに成績が伴わない。その理由は、「読みの態勢づくり」に問題があったことではないかということを、前回お伝えしました。もし思い当たる節がおありでしたら、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。

 無論、成績不振の原因は子どもによって様々でしょう。不規則でムラのある勉強をしていたり、一見努力しているように見えても無駄の多い勉強をしていたり、集中力を欠くぼんやりとした勉強に陥っていたり、やりかたがでたらめだったりなど、ちょっとした原因が招いた成績不振かもしれません。女の子の場合、親の声かけにも従順で、テキストの家庭勉強も計画通りやるものの、勉強に向かう強い意志に欠けるために中途半端な成果しかあげられない状態に陥ってしまうケースも結構ありました。ですが、こういうお子さんの場合、平均点前後の成績は取れているものです。

 ですから、毎日のように計画に沿って勉強しているのに成績が振るわないとしたら、他のもっとはっきりとした原因があるはずです。それが「低~中学年期までの不十分な読みの態勢づくり」にあるのではないかと、筆者は思っています。すでに何回も書いてきたことですが、読むという行為こそ、全ての勉強の基本的手段だからです。読みのスピードや精度は一人ひとりずいぶん違っています。そのことをご存知でしょうか? この能力の個人差が学習成果の違いを生み出すのです。

 念のために前回お伝えしたことを繰り返しますが、多くのお子さんは2年生前半までに黙読ができるようになり、読書への欲求が高まって活字に接する機会が一気に増えていきます。それから1年程で黙読の安定期に至り、「読みの速さ」「読みの精度」などが個々の能力として定まります。一定時間枠での読み取り能力を問う国語のテストにおいては、読みに長けたお子さんが圧倒的に有利なのは論を待ちません。逆に読みの稚拙なお子さんは、読む作業が遅いだけでなく、理解も不十分です。こうして、読むほどに語彙を増やし、思考力を高めていくお子さんと、いつまでも読むのに難渋するお子さんとの読解力の差はどんどん広がっていきます。

 黙読力の上達の遅れを取り返す方法は、おそらく音読のやり直ししかないと思います。そのわけも前回お伝えしたとおりです。大人なら、難解な本でない限り字面を目で追えばわけもなく著述内容を理解できます。ですから、「何で音読が必要なの?」と思われるのも無理はありません。しかしながら、誰でもはじめは文字の字形と発音を照合するステップを踏んだからこそ、黙読へと到達できたのです。

 これは筆者の勝手な表現ですが、黙読は音読の進化したものです。黙読は文字の読みを声に出すのではなく、視覚で捉えた文字情報を言語理解中枢に送り、そこで読みの声をイメージして意味を解読する方法です。声に出さずに読めるにようになると、読みの負担は大幅に軽減され、短時間に多くの情報を手に入れられるようになります。人間の言語理解のための中枢はウェルニッケ野ですが、これはもともと音声の言葉を理解するために発達しました。それなのに、視覚で文字列をとらえただけで意味に変換できるのは、脳内で読みの音声をイメージしているからです。したがって、黙読のスピードや精度を高めるには、速く正確に音読できるようになるためのトレーニングが必須です。本人は覚えていなくても、幼少期には家庭で、小学生になってからは学校で、相当な時間や労力を投入して読みの修練を積んでいたはずです。その内容の個人差が、読みの習熟度に影響しているのです。

 筆者は15~16年ほど国語指導の現場にいましたが、おもに6年生の男子のクラスを担当しました。男の子の国語指導をすれば、誰でもすぐに頭を抱える問題に直面することになります。それは、個々の読みの能力差が大きく、うまく読めないお子さんは読解力が足りず、語彙も貧しいために思考も幼稚で、成績的にも底辺をウロウロすることになりがちです。このようなお子さんに音読をさせてみると、ほぼ例外なく同じ現象が発生します。すぐに躓き、読みが前へなかなか進まないのです。いっぽう、常に国語で安定した高成績をあげているお子さんの音読は実に滑らかで、1ページくらいわけもなく一気に音読することができます。したがって、筆者はたとえ入試が近づいている6年生であっても、授業では素材文のリレー音読や役割音読を欠かしませんでした。そして、上手に音読できるようになることを奨励したものです。

 以上のことについて、お子さんにあてはまるようでしたら、今から夏休みにかけて、お子さんに音読練習をするようもちかけ、毎日サポートしてあげていただきたいですね。たとえば、次のような手順でやってみたらどうでしょう。

.音読練習の実施を提案する
 
なぜ音読なのかを、今回の記事を参考にしてお子さんに伝える。上手に読めると、勉強が楽しくなることを熱心に説明する。

2.実施期間や、時間を相談して決める
 いつから始めるかをまずは決める。期間は最低3ヶ月くらい(乗り気でないようなら夏休み限定でも可)。できるなら、期間中は毎日やりましょう。時間は、15~30分程度。

3.音読素材
 特によい本が思い当たらなければ、弊社の国語テキストの素材文でよいでしょう。読みに抵抗のある子は、楽しいストーリーの本を親子で話し合って選んでも構いません。

4.一度に音読する量(ページ)
 
お子さんの技量に合わせて無理のない分量にしましょう。1ページくらいから出発し、上達に合わせて2~3ページに増やしても結構です。

5.音読の方法
 まずはお子さんに一定の範囲を音読させてみましょう。音読のよいところは、間違ったら本人が気づくことです。おかあさんは間違いの数をカウントし、何回か繰り返す中で、躓きが減ったら大いにほめてあげてください。おかあさんと交替で読むのも楽しいかもしれません。

6.フィードバック
 
音読は自分でも上達ぶりがわかりますが、おかあさんが毎回練習の終わりに感想を伝えてあげれば、次への励みになります。能動的なフィードバックで励ましを! 

 以上はアバウトで申し訳ないのですが、各ご家庭で工夫を加えてやりかたを決めていただくようお願いいたします。なお、音読の練習期間ですが、できるなら3か月以上を見込んでいただきたいですね。以前もお伝えした記憶がありますが、ある種の技能獲得にあたっては、取り組みの効果が見て取れるようになるのにだいたい3ヶ月ほどかかると言われています。

 文字列を視覚で捉える。視覚からの情報を脳内で転送して発話中枢(ブローカ野)に届ける。ブローカ野から発せられた情報を筋肉運動に変えて音声で発する。それを聴覚で捉え、今度は言語理解中枢(ウェルニッケ野)に転送する。これによって意味を解読する。ーーこのような音読の作業を繰り返しているうちに、音読という作業に脳の神経ネットワークが順応し、素早く正確にできるようになっていきます。こうした変化がはっきりとわかるようになるまでの期間はだいたい3ヶ月くらいだと言われています。そして、同時に音読力の向上とともに確かな黙読力も準備されていくわけです。

 読みが達者になるということは、文字を介した情報入手に長けた人間に成長するということです。小学生までに確かな読みの態勢を築けば、それは一生モノの財産になるでしょう。中学受験対策の学習をより快適にできるようになること以上に、読みの態勢づくりには大きな意義があるのだということをご理解いただき、お子さんの音読練習に付き合ってあげていただきたいですね。こうした協力ができるのは、お子さんが小学生のときまでと言えるでしょう。どうぞよろしくお願いいたします。

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学力不振は“読み”の習練不足が原因? その1

2019 年 6 月 24 日

 前期の講座ももうしばらくすると終了し、夏の講座へと切り替わります。これまでのお子さんの学習状況はいかがでしょうか。

 今回は学習がうまく機能せず、勉強しているにもかかわらず成績がふるわない状態が続いている4・5年生のお子さんのご家庭に、夏休みからの底上げのポイントの一つと思われることをご提案してみようと思います。思い当たる節のあるご家庭の参考にしていただければ幸いです。

 会員の子どもたちのマナビーテストの成績をチェックすると、5年生では400点満点で200点を割り、教科平均にして50点未満の成績のお子さんが一定数おられます。なかには総合150点未満のお子さんもいくらかみられ、とても残念な思いに駆られます。4年生についても、算・国合計200点満点で100点を切っているお子さんがまま見られます。この状態が続くと、お子さんは自信を失ったりやる気を喪失してしまったりする危険性が少なくありません。

 勉強はある程度しているのに成績が上がらない。それどころか親の期待とは程遠い状況が続き、「いったいどうしたものか」「何が原因なのか」と、ため息をついておられる保護者もなかにはおられるのではないでしょうか。

 原因はいろいろあるでしょう。しかし、「勉強している割に成果があがらない」という点で思い当たる節もあります。たとえば、筆者がかつて国語の指導現場にいて痛感したのは、「小学生の読みの習熟度、特に黙読のスピードや精度の個人差は、大人が思っているよりもはるかに大きい」ということです。これが学習成果に少なからぬ影響を及ぼすのです。黙読の態勢が整うと、子どもの読書活動は一気に活性化し、みるみるうちに読みの能力はスキルアップしていきます。それはだいたい3年生の頃ですが、この流れを築き損ねると、いつまでも読みのしっかりとした読みの態勢が築けないと、学習活動全般に支障を来してしまいます。4年生、5年生になると、この読みの力の差が学力の個人差となって如実に表れてくるのです。

 読みが達者になったお子さんは、勉強したらしただけ成果をあげることができるいっぽう、読むのに時間がかかる子は、文字面から言葉を抽出して意味に変換する能力が磨かれておらず、単に時間がかかるだけでなく、脳内に取り込む情報の量も正確度も大きく劣ります。必然的に「勉強している割に成果が得られない」ということになってしまいます。

 まず、文章を読んで意味内容を理解するときに、読み手の脳の中でどのような働きが生じているのかを簡単に見てみましょう。文字面を目で追っていきながら、伝達されている事柄の意味を理解していくときに、二つの大きな情報処理の流れがあります。

トップダウン処理とボトムアップ処理

1.トップダウン処理
 文章中に特定の言葉が出てくると、誰でも読み手はその言葉に関する知識を頭にめぐらせて理解の手立てにしていきます。たとえば、「先週の土曜日に、家族全員で宮島へ行きました。大きな鳥居やたくさんの鹿を見られて楽しかったです」という記述があったとき、宮島に行った経験に基づく知識があれば、赤い大鳥居や沿岸部の道路を行き来する多くのシカの様子を容易に想像することができます。このような情報処理のしかたをトップダウンと言います。

2.ボトムアップ処理
 活字の流れを追っていきながら、単語の区切り目を識別したり、言葉と言葉の繋がりの関係を分析したりしながら文全体の表すところを理解します。また、文と文の接続のしかた、段落相互の関係に基づき、全体としての著述内容を読み解きます。このように、既有の体験やそれに基づく知識に頼らず、文字とその連なりから得られる情報をもとに、文章内容を理解する情報処理のしかたをボトムアップと言います。

 このように、文章を読み進めて著述内容を理解していくとき、脳の中では新たな言葉が登場するたびに自分の既有の知識と照合したり、言葉と言葉、文と文、段落と段落の繋がりや関係を分析したりする作業が延々繰り返されているわけです。そして、話の展開や内容的に重要と思われることを記憶に残しながら、不要な情報は次々に消去していきます。それが文章を読むということです。なお、こういう情報処理を担うのがワーキングメモリという脳機能で、この活動レベルが高いことも知的能力の一つの指標です。ワーキングメモリは、読書以外も様々な活動をする際にも働いています。たとえば、料理をしながら洗濯物を取り入れるタイミングを見計らったり、算数の筆算で位取りをしたり、日にちと曜日の関係を対応させたりする際にも、ワーキングメモリはめまぐるしく働いています。

 少し脱線しました。トップダウン処理とボトムアップ処理の話に戻ります。子どもはどちらの情報処理においても一定年齢に達するまでは難渋するものです。というのも、小学生の子どもの既有知識は、大人とは比較にならないほど少なく、生活体験や読書経験の乏しい子どもはトップダウン処理の能力が十分に機能してくれません。また、字面を目で追っていきながら、言葉やそのつながりから得られる情報を分析処理するボトムアップ処理の能力も個々で随分差があり、それを可能にするための習練が不十分な子どもは苦手とします。

 筆者が着目しているのは、後者のボトムアップ処理です。文字から得られる情報を分析理解するうえで必須の技能は"読み″の力、特に黙読力です。この黙読力が不十分だと、前述のように時間当たりの情報処理能力が劣るため、同じ文章を読んでも脳にストックされる情報に著しい差が生じてしまいます。勉強しても成果が得られにくいお子さんは、この黙読力の不足によるところが大きいのではないでしょうか。

 では、黙読力を今から高めるにはどうしたらよいのでしょうか。それは音読です。音読というのは、文字の一つひとつの読みを実際に発音して照合する作業です。「ひ」を「hi」と発音し、次の「ま」を「ma」と発音し、さらに「わ」を「wa」、「り」を「ri」と発音していくことで「ひまわり」という言葉を抽出する。それを経験すると、次の機会には一目で「ひまわり」と認識できるようになります。こういった習練を繰り返しているうちに、やさしい文章なら文字列を目で追いかけながら声を出し、言葉の切れ目にアクセントを置きながら声に出して読めるようになります。そうして、ある段階から声に出して発音しなくても、字面を目で追っていきながら言葉に対応する音をスムーズにイメージできるようになります。これが黙読です。

 研究者の書物によると、黙読は普通2年生前半までに可能になりますが、黙読の助走としての音読が不十分だと、前述のように読みのスピードや精度が不足し、結果として読んでも理解が十分にできません。音読という、読みの土台形成に必須の習練をちゃんとやったお子さんは、「読みたい」という欲求を自然と高め、読書活動に勤しむようになります。そうして、3年生頃には黙読が安定軌道に乗り、スムーズな黙読のできるお子さんはまずます読書を通じて語彙や思考力を発達させていきます。小学4~5年生は、語彙の増加率や増加数で生涯最高の数値を記録します(これを「語彙の爆発」と言います)が、その結果かなり難しい抽象的な内容の文章も読んで理解できるようになっていきます。これが学習において大いに効力を発揮するのです。

 ところが、大概の保護者は「音読なんて幼稚なもの」「音読なんかしなくても、ちゃんと文章は読めている」と思いがちです。しかしながら、文字の字形と読みの照合という基礎があってこそ、黙読は可能になるのであり、それを十分に経ていないのに黙読へ移ってしまうと、前述のようにスピードも精度も劣り、読むのに時間がかかるだけでなく、理解もできていないといった状況からなかなか抜け出せません。読みを支える脳の働きを知り、今からできる対策(音読練習)をすることこそ、回り道のようで実は最も早く効果を引き出せる確かな方法だと筆者は確信しています。

 長くなりましたので、今回はここでひとまずここで終わり、続きは次回お伝えしようと思います。よろしくお願いします。

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夏休みには、小さくて大きな成長作戦を!!

2019 年 6 月 17 日

 まだ夏休み到来までに1カ月余りあり、少し早いかもしれませんが、夏休みを活かしてお子さんの成長を引き出すためのちょっとした提案をしてみようと思います。現在今回の記事が何らかのヒントになり、夏休みをお子さんの成長に向けたアイデアがまとまったなら、ぜひ実行に移してみてください。

 とは言え、ご提案するのは特別なことではありませんし、わざわざ筆者がお伝えするまでもなく、すでにお子さんに十分備わっていることかもしれません。それは何かというと、「計画性」「粘り強さ」「実行力」など、受験勉強を円滑に進めるために欠かせない諸要素を強化しようという提案です。

 受験勉強は志望校合格をめざしてするものですが、「どういう取り組みで受かるか」という視点に基づいて勉強すれば、子どもの生きる力を育むといった意味においても、少なからぬ収穫が得られるものです。その意味において、上記の三つを養いながらの受験生活を実現すれば、今後の人生の歩みに計り知れない可能性が広がっていくのではないでしょうか。そこでこの夏休みの到来にあたり、次のような目標を親子で話し合ったうえで掲げてみてはいかがでしょうか(一つだけでも構いません)。

 子ども、特に男の子を意識して意気込みや気概を刺激する言い回しにしてみました。いかがでしょうか。ほんとうに当たり前のことですが、実はこれがなかなかできないことだということも、保護者の方々はよくご存じだと思います。また、計画性や試行錯誤する力、実行力を携えていることは、今日の社会を生き抜くうえで必須のことですから、受験生活を通じて養えれば今後の学習に威力を発揮するのみならず、社会に出てから自分を通用させるうえで大きな強みになることでしょう。お子さんに喜ぶような言い回しを工夫し、標語のように掲げてみてはいかがでしょうか。

 勉強はできるのに、自分で状況を判断し自ら対処することができない。苦難を自らの努力で乗り越えるバイタリティが不足している。……これは、難関大学に在籍する学生に多く見られる近年の特徴だそうです。特に、大都市圏の高偏差値で知られる中高一貫校の出身者に多いと言われます。これでは何をすべきかをあらかじめ明確になっていることならできても、予期せぬ事象に遭遇したり複雑な難題にぶつかったりしたとき、周囲から頼りにされる人間には到底なれないことでしょう。

 夏の講座が始まる前に、ぜひ親子で話し合いの場を設け、親が何を期待しているのかを伝えてあげていただきたいですね。夏休みの講座への参加にあたっては、どのご家庭にも「学習計画表」を作成していただくことになっています。それにからめて、「勉強は、自分のためにするものだ。じゃ、どういうふうに取り組んだらいいと思う?」と問いかけ、お子さんの反応を引き出しながら、今のお子さんが克服すべきテーマは何かを絞り込んでいくよう導いてあげてください。

 そのプロセスにおいては、おとうさんやおかあさんの職場の人間模様などを織り交ぜ、できる人はどういう姿勢をもった人か、他者から信頼されて頼られる人はどんな人物かを言って聞かせ、夏休みの学習にどう取り組むかで、そういう人間に近づけるかどうかが決まるのだということを伝えれば、お子さんは親の期待をしっかり理解されると思います。無論、夏休みになってからのわが子の取り組みの様子を見守ったり、定期的に報告させたりしながら、承認や励ましの言葉をかけることも忘れないでいただきたいですね。

 

 ずいぶん前のことですが、6年生になるときに受験を思い立ち、親に頼んで塾通いを始めた男の子がいました。たまたま筆者の担当クラスにいたのですが、子どもながらあっぱれというべき素晴らしい取り組みをしていました。

 初めての塾通いですから慣れるまでが大変だったろうと思います。しかし、筆者のアドバイスや声かけを真正面から受け止め、必死でくらいつくかのように勉強をやり抜き、とうとう最難関私学に合格しました。初めは「受験をしてみたい」という程度の気持ちだったのでしょうが、塾に通って勉強するにつれて「みんなに追いつきたい」に変わり、次には「自分の納得の行く勉強をしたい。もっとできるようになりたい」になり、ついには「やるべきことをやらないと自分が許せない」といったように、どんどん意識が向上していきました。成績面の不安をおかあさんが口にされたとき、「僕は、そんなことのために勉強してるんじゃない!」と一喝したほどの気概溢れる少年でした(このエピソードは本人から聞いて知ったのですが、驚きました)。ここまでくれば、彼はどこに行っても通用する人間に相違なく、もはや志望校合格のほうはおまけに過ぎないとすら感じたほどです。

 「なかなかわが子の取り組みに進展が見られない」「いったい、やる気があるんだか…」などと気を揉んでおられる保護者はありませんか? 上記エピソードの少年も、6年生の夏休みの段階ではまだテストで全体平均点すらとれない状態でした。「計画性」と「試行錯誤を厭わない粘り強い取り組み」、そしてやり切る「実行力」、この三つを磨いていけば、子どもは見違えるように変われますし、そのレベルをあげて行けば将来は前途洋洋です。

 子どもの成長は環境次第の面が多々あります。親がどのような期待を差し出してわが子の成長を応援するか。学習塾がどのような学習指導によって合格へと導くか。そうした諸々のことが学力のみならず子どもの取り組みや人間形成に大きな影響を及ぼします。一緒に子どもの成長を応援しましょう。

 今回掲げた夏休みの目標例は、ごく当たり前のことばかりです。しかし、この当たり前のことがしっかりできることこそ、よい人生を歩める人間になるための必須事項だと思います。三つのうちの一つだけでも結構ですから、この夏休みの達成目標にしてみませんか? うまくできなくても叱るのを我慢し、親の願いを愛情深く伝えてやりましょう。目の前の小さな目標を達成することから、子どもたちの大いなる成長は可能になっていきます。


 この夏休みを、わが子の特別な成長の舞台にしましょう!

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低学年部門「夏期講座説明会」のご案内

2019 年 6 月 7 日

 夏休みの講座の募集活動が始まりました。毎年、弊社の低学年部門の夏休み講座には「中学受験を考えているので、夏休みの講座だけちょっと子どもを通わせてみよう」「受験のための塾に少しずつ子どもを慣れさせておこう」など、お試し的に弊社の教室にお子さんを通わせてくださる保護者が相当数おられます。

 そこで、このたび弊社では「夏期講座説明会」を実施し、お子さんの中学受験を視野に入れておられる保護者の方々に必要な情報をお届けすることにいたしました。この「夏期講座説明会」においては、二つの内容を柱に据えてお話しします。一つは、弊社の低学年部門の指導方針や夏の講座の指導内容について。もう一つは、低学年児童期の生活や学習で最も大切にすべきことは何かということについて。

 弊社は中学受験専門塾ですから、児童期前半のお子さんの学習指導にあたっても基本的に中学受験を念頭に置いています。しかし、「少しでも早く受験に直結した内容の学習を子どもにさせよう」と考えているわけではありません。むしろ、早くから難易度の高い学習を子どもにさせるのは好ましくないと考えています。弊社が最も心を砕いているのは、「高学年になってから、快適に受験対策の学習が行える子どもになっておくにはどうしたらよいか」ということ、つまり「いかにして伸びしろの豊かな子どもを育てるか」ということです。

 というのも、ほんとうに頭のよい子どもに育てるには、知識を大量に注入したり、学習の先取りに傾注したりするやりかたよりも、頭を使って考えることに強い志向性をもった子どもにすること、学習の手段としての文字や数字という記号に強い子どもにすること、自らの行動を律する主体性を携えた子どもにすることなどのほうが遥かに重要なことだと考えるからです。また、ある種の学習領域で求められる感覚的素養には発達臨界期があるのをご存知でしょうか。刺激を与えたらその分だけ成長が見込める時期のことを言いますが、これを踏まえた学習や遊びを体験しておくかどうかも大変重要なことです。歯を食いしばってやる勉強だけでは頭脳開花につながりません。

 「夏期講座説明会」の後半では、「学力はどの子も伸ばせる」というタイトルを掲げて、上記のことがらを保護者の方々になるべくわかり易くご説明しようと思っています(時間の関係で多少急ぎ足になることをご了承ください)。以下は、説明会でお伝えする予定の内容を簡単にピックアップしたものです。

✿「夏期講座説明会」でお話しする予定のテーマ ✿

 勉強に主体性があり、自立している子どもはどんな育ちかたをしているのでしょうか。特別なことはありません。普段の生活の繰り返しにおいて育てるべきものがちゃんと育っているかどうかです。一緒に項目チェックをしながら、わが子の成長の方向性を確認していただきます。

 「読み・書き・計算」は学習活動の最も基本となる要素です。英語では、「Reading・Writing・Arithmetic」の綴りにそれぞれRが含まれることから、スリーアールズなどと呼ばれています。このうちの「読み」の能力は、学力の差をもたらす最も大きな要因となっています。実は、個々の読みの能力差が大きく開くのは3年生頃です(「書く力」も「計算力」も3年生頃です)。なぜそうなるのか、どうすれば読みに堪能な子になれるのかをご説明します。

 「図形」や「速さ」など、算数のある種の単元においては感覚的素養が求められ、学習を快適に進められるかどうかを決定づけます。また、これらの単元に強いと「センスがある」「有能だ」とほめられ、子どもの自己有能感を刺激します。こうした方面の学習に必要な資質は、いつごろまでに、どうやって形成されるのでしょうか。実は、低学年部門の学習指導で最も力を入れているのがこの分野です。

 低学年児童期の子どもの学習意欲に最も大きな作用を果たすのは何でしょうか?多くの人は、「好奇心だろう」「向上心だろう」などと答えます。しかし、児童期前半までの子どもには当てはまりません。実は「親」が大きな影響力をもっているのです。子どもにとって絶対的な存在は親だからです。では、親がどのように働きかければ、子どもの意欲は増すのでしょうか。表題のとおり、キーワードは「信頼関係」です。一緒に考えましょう。


 興味をもっていただくため、多少思わせぶりな書きかたをしたかもしれません。詳しくお知りになりたいかたはぜひお越しください。データによる裏付けの資料もスライドで多数ご覧いただけます。以下は、説明会の実施要項です。

 小学校低学年は、子どもの学力が顕在化する前の、いわば潜伏期にあたる時期です。子どもたち個々の学力差はまだそれほど見えてこないのですが、実はこの時期に資質開花に向けた流れが形成されていますし、今学んでいる一見易しい内容の学習の積み重ねや繰り返しを通して学力の大切な基盤を築いています。

 勉強は人生を通して常に必要とされるものですが、勉強を好きになり得意になれるかどうかは低学年児童期におおよそ決まります。そしてこの時期は、親の影響が非常に強い時期にあたります。もう何年かして思春期に達すると、親の影響力は限りなくゼロに近づいてしまいます。だからこそ、今のうちに親はわが子に何をしてやるべきかを考え、適切にわが子に関わるべきでしょう。子どもたちの学力は無論のこと、学ぶことに対する受け止めかたや姿勢についても、今なら親は強い影響力を発揮することができます。親の情熱と力で、子どもを適正で望ましい方向へ導いてやりたいものですね。

  夏休みは学校への通学がないため、これまで築いてきた生活習慣が乱れやすい時期です。しかし、そのいっぽうで「毎日を計画的に過ごそう」という意図を子どもにもたせ、時間や行動を管理することで得られる充実感や達成感を味わわせてやれば、またとない成長の場にもすることができるでしょう。弊社の夏の講座への通学も含め、夏休みを有効に過ごすための計画をお子さんと立ててみてはどうでしょうか。今回ご案内した説明会への参加をきっかけにして、お子さんの望ましい成長に向けた具体的プランを描いてみませんか?

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カテゴリー: お知らせ, ジュニアスクール, 小学1~3年生向け, 玉井式, 行事のお知らせ