“音声言語”と“文字言語”の理解のプロセス その2

2020 年 9 月 4 日

 先月上旬、当ブログの閲覧数が累計200万ビューに到達しました。2008年の秋に始めてからおよそ12年。読んでくださる人がおられたからこそ、こんなにも長く続けられ、しかもこのような閲覧数を記録できたのだと思います。みなさま、誠にありがとうございました。

 100万ビューを超えたあたりから、「およそ思いつくことは書いたし、年齢的にもそろそろ潮時かな」という本音の思いと、「受験のプロセスで揺らぎがちな保護者に指針や励ましを提供する場を!」という、開設以来堅持してきた思いが交錯し、逡巡することが多くなりました。それでも続けられたのは、やはり当ブログの果たしてきた役割に対する思い入れがあったからであろうと思います。今後、どこまで続けられるかはわかりませんが、もうしばらくはやっていこうと思います。保護者の方々に参考にしていただける情報を少しでもお届けできるよう、今後もがんばってまいる所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

 前置きが長くなってすみません。前回は、人間が生まれながらに備えている言語中枢は音声言語を理解するためのものであり、文字言語を理解する能力は学習によって後付けで獲得する必要があるということをお伝えしました。そして、そのことを踏まえ、「人間はどうやって文字列から言葉を抽出し、意味に変換しているのでしょうか」という問いかけをしたところで終了しました。今回はその続きを書いてみようと思います。この理屈を知れば、読解力不足で受験対策の勉強がはかどらないお子さんに必要な対策が何かについて、保護者におわかりいただけるのではないかと思ったしだいです。

 まずはみなさんが文章を読む(黙読する)ときの状況を思い浮かべてみてください。文字列を目で捉えるや否や、文字のつながりや切れ目を峻別し、文脈に沿って著述の内容を順次理解しておられると思います。そのとき、意識しておられるかどうかわかりませんが、心の中(脳内で)で文字に対応する音声(自分の声)をイメージされているのではないでしょうか。この「文字の音(発音)をイメージする」ということにより、文字言語情報が音声言語情報に置き換えられています。これによって著述内容がウェルニッケ野(音声言語の理解中枢)で解読されているのです。つまり“読む”という行為(ここでは黙読のこと)は、脳内で文字言語を音声言語化する作業なんですね。

 前述のように、人間は何の学習もせずにそれができるようになるわけではありません。幼児期から少しずつ文字というものに触れ、一つひとつの文字の字形とその文字が示す音を教えられた(先生は主としておかあさん)からこそ、「文字を見る→音をイメージする」という一連の流れが造作なくできるようになったのです。これには、積み木の文字と絵を組みあわせた玩具(例:「あ」と大きく書かれた文字と、あさがおの絵が組み合わされている)が少なからず貢献しています。こういうものをずいぶん昔から親がわが子に与え、文字を教えていったのですね。

 こうした文字学習初期の段階で不可欠なのは、文字の字形に対応する音を実際に声に出して確かめることです。「あさがお」という言葉を見た瞬間に「a‐sa‐ga‐o」と読めるようになるには、「あ(a)・さ(sa)・が(ga)・お(o)」と、それぞれの文字に対応する音を学ぶ必要があります。絵と文字を組み合わせた積木は、それを学ぶうえで大変有効だから広まったのでしょう。また、絵本を広げ、子どもに見えるよう文字を指さしながらゆっくりと読んで聞かせる「読み聞かせ」も、子どもが音声の言葉と文字の言葉、事物との関係性を学ぶうえで大いに貢献したことでしょう。

 こうして文字に慣れ親しむようになった子どもは、小学校に入る頃にはかなりまとまった文を一人で読めるようになります。ただし、読めるのはまだひらがなとカタカナ、僅かな数の漢字に過ぎません。ですから、易しい文をさらに読みやすくするため、教科書の文は「にわに きれいな はなが さいた」などのように、文字のつながりや切れ目がわかるよう工夫された「分かち書き」になっています。

 以上からも容易にわかりますが、まだ音声の言葉の語彙数に文字の言葉の語彙が遠く及ばない段階では、文をすらすらと読むことは子どもにとって困難なことであり、文字の列をゆっくりたどりながら音声の言葉と文字の言葉とを照合し、文字の言葉の語彙を増やす作業を地道に続けていくことが求められます。この作業の中心となるのは「声に出して読むこと」です。すなわち、文字列の視覚的情報を音声に変え、それによって文字のまとまりとそれによって形成される言葉の意味を学んでいくのです。この学習が一定の期間にわたって続けられるうちに、視覚から入力された文字情報が自動的に音声情報へと変換されるようになります。

 このような学習をたっぷりと繰り返した子どもは、いち早く黙読段階へと移行し、正確に滑らかに読めるようになります。子どもにすれば声に出す負担から解放されるとますます読むのが楽しくなりますから、読書活動も勢い活発になります。こうなると、子どもの読みの習熟は一層進みますし、ものすごい勢いで語彙が増え、それに伴って抽象的な思考の発達も進んでいきます。黙読が可能になるのはだいたい2年生の春ごろ、語彙が急速に増加するのは4~5年生頃、抽象的な思考が発達してくるのも4~5年生頃であるのは、読みの習熟の流れと連動していることがわかりますね。

 いっぽう、“読み”の能力の土台形成期の学習(文字の字形と音の照合)が不十分だと、読みの習熟が停滞し、読解力の上達、思考の高度化といった中~高学年期の成長変化が見られないもどかしい状態が続きがちです。読むのに手間どる、読んでも理解が不十分、読解力が足りなくて国語のテストに対応できない…、このような子どもは能力に問題があるからではなく、読みの習熟に不可欠のスキルを十分に経験していなかったことが一番の原因です。

 ここまでお伝えしたことから、「読解力を強化するには何をしたらよいか」についておわかりになったことでしょう。これまで何度もお伝えしてきたことと同じです。そう、「文章を目で追っていくだけでなく、声に出して読む練習をする」ことに尽きるのです。昔の人が「読書百編意自ずから通ず」という言葉を残していますが、ここで言う読書とは「声に出して読むこと」を指します。「意味はわからなくても、とにかく繰り返し声に出して読むことだ。それを続けているうちに意味も自然とわかるようになる」ということなのでしょう。声に出して読む行為は、その意味では「音読」というよりも「素読(そどく)」と言ったほうが適切かもしれません。音読は、意味を考え受けとめながら声に出して読む行為を意味します。

 文章を声に出して読む。この練習を今からやってみませんか? 「高学年からでは遅すぎる」ということはありません。声に出して読むことで、自分の読みの具合を確認できますし、滑らかでスピーディな黙読の下地をつくることができます。練習した分だけ脳は賢くなりますから、必ず成果はあらわれます。2~3ヶ月もすると、つっかえつっかえながら読んでいた男の子も、ずいぶん滑らかに読めるようになってきます。それは「活字を読んで理解する」学習活動全般に好影響をもたらすことでしょう。

 先月、6年生のお子さんとそのおかあさんに「声に出して読む練習を、3ヶ月、毎日15分ぐらいでいいから続けましょう」とお伝えしました。その理由は前述のとおりです。活字を目で捉え、声に出して読むのが上手になれば、その分自分の読む声をイメージする作業もスムーズになります。実際に声に出さない分楽に早く読めるようになりますから、文章を一気に読み通す力もついてきます。こうなってこそ、家庭での一人勉強によって成果をあげる態勢も整ってくるのです。

 特に2~4年生頃のお子さんは、文章を声に出して正確にスピーディに読めるようになるための練習を繰り返し毎日行うことを強くお勧めします。黙読のみによる学習では、お子さんにも保護者にも読みの熟達度がどういう状態にあるのかわかりにくいものです。声に出して読む作業に難渋するお子さんは、間違いなく黙読もうまくできていません。また、声に出して読むと、目と耳と二つの経路から情報が行き来しますから、それだけ読んだ内容が知識として定着する確率が高くなります。

 読書の秋がもうすぐやってきますが、その前に読書を快適に楽しめる下地づくりにも精を出してくださいね。

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 家庭での教育

“音声言語”と“文字言語”の理解のプロセス その1

2020 年 8 月 25 日

 変則的な日程で実施した今年の夏の講座ですが、懸念されたコロナウィルス関連の問題も生じることなく、無事に終了することができました。

 ただし、新規感染者数は徐々に減少しているというものの、感染発症のピークアウトはまだまだ先のことだと考えるべきでしょう。それどころか、日本感染症学会の理事長(舘田一博 東邦大教授)は、「今は第2波の真っただ中にいる」という見解を述べておられます。現状認識については専門家の判断も若干割れてはいるものの、重症者の数が増加している府県もあることを考え合わせると、まだまだウィルス問題は予断を許さない状況にあるとみるべきでしょう。

 広島県内においても、新規感染者が少数ながら確認されています。間もなく開講する後期講座におきましては、これまで同様に感染予防に向けて十分な対策を取りながら子どもたちの学習指導にあたってまいる所存です。ご家庭におかれてもお子さんの健康維持に向けて十分なケアをお願いいたします。

 さて、受験勉強に限らず、教科学習に欠かせない重要なものの一つが“読み”の力です。何しろどの教科の勉強も文字を介して行われます。勉強するうえで読むことは、呼吸するのと同じように不可欠の営みだと言えるでしょう。人間としての完成形に達した大人は日本語の読みで苦労することがありませんが、児童期の子どもは学習の大前提となる“読み”の能力の基盤形成の途上にあります。それがうまくいっていないために読みで躓く(学習がうまく捗らない)子どもが少なくありません。大人がそのことを誤解し、漠然と「うちの子は国語が苦手なんだろう」で片づけてしまっているケースが少なくないように思います。

 文章問題にたくさん取り組ませる、長文にたくさん当たらせるなどの勉強を子どもにあてがっても、国語の成績が振るわないことへの根本的な対策にはなりません。そればかりか、子どもはますます国語嫌いになってしまいます。今回の記事は、こうした点を踏まえ、これまで何回か取り上げたかと記憶していますが、読みの能力(黙読力)を底上げするためには何が必要かについて書いてみようと思います。

 ご承知のように、言葉には耳から入るもの(音声言語)と目から入るもの(文字言語)とがあります。両者の違いで大きいのは、音声の言葉は誰でも楽に理解できるのに対し、文字の言葉を理解するには「読もうという意志」を発動させる必要があり、相応のエネルギーを要します。

 子どもは、生まれたときから母親の音声を耳にし、母親の声かけや世話を受けながら育っています。したがって、音声の言葉は文字の言葉よりも容易に理解することができます(大人でも、音声言語のほうがわかり易いと感じる人のほうが多い)。中学受験をめざすうえで問題となるのは、活字を読むことに習熟した子どもと、スキル不足の子どもとの“読み”の能力差が大変大きいことです。活字を読むスキルが不足している子どもは、読むという行為を「気の進まないしんどい作業」に感じ、実際のところ読んでも著述内容の理解が上手ではありません。こういう子どもは、「自分は本が好きではない」などと言います。しかしながら、実際は本が嫌いなのではなく、快適に読めないから本を読みたがらないだけなのです。これが悪循環を招き、ますます読みの熟達が進んでいる子どもとの差を広げています。

 ところで、人間が音声の言葉をコミュニケーションの手段として使用するようになったのはいつ頃のことでしょうか。脳生理学者の酒井邦嘉氏(東京大学教授)の文献(「言語の脳科学」中公新書1647)に次のような著述があります。

 特に注目すべき最近の発見によると、舌下神経管の太さ(断面積)を頭骨の底部から測定したところ、現代人は類人猿や猿人よりも約2倍太く、約30万年以上前の化石人類は現代人並みだった。舌下神経は舌の筋肉を支配する運動神経であり、舌の運動神経が急に発達した直接の原因は「話す」ことにあると考えられている。ネアンデルタール人は、約10万年前から3万年前にかけて生存したと言われているので、それよりもさらに昔の人類が話をしていた可能性がある。

 頭蓋骨が現代人とほぼ同じような形状になったのは、今から10万年ほど前だと言われています。おそらく、当時の人類はすでに音声の言葉を交わしてやりとりをしていたのではないかと思います。さらに、上記引用文によると、30万年前には音声言語が使用されていた可能性があります。

 いっぽう、人間が文字を使ってコミュニケーションをするようになったのは、音声言語の登場よりもはるか後のことです。文字言語として最も古いと考えられているインダス文字は今から約5500年前ごろ、次に古いとされるエジプト文字は5300年ぐらい前に使用されるようになったと言われます。日本人の文字使用は、大陸から伝来した漢字をもとに平仮名やカタカナが工夫され、一般に行きわたってきた平安期の頃ですから、文字使用が定着してからまだ1200年余りしか経っていません。文字使用の歴史は、音声の言葉の長い歴史とは比べるべくもありませんね。

 このことからも想像がつきますが、音声の言葉を理解する脳機能は人の遺伝子に組み込まれており、生まれたときから予め備わっているのに対し、文字の言葉を理解する脳機能は生まれた段階では宿っていません(言語理解中枢は、発見者のドイツ人医師の名に因んでウェルニッケ野と呼ばれています)。そこで、後付けで学習によって身につける必要があります。小学生と言えば6~12歳の子どもですから、文字を読んで理解するための学習の年数は知れています。しかしながら、だからこそいち早く読みの態勢を築いた子どもと、そうでない子どもとでは少なくない個人差が生じているのです。

 では、人間はどうやって目を通してとらえた文字列から言葉を抽出し、意味に変換して理解しているのでしょうか。その理屈を知れば、読みのスキルアップのために何をすれば効果があるかがわかってくるのではないでしょうか。今回はだいぶ文字数が多くなってしまいましたので、続きは次回お伝えします。よろしければ引き続きお読みください。

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カテゴリー: アドバイス, 家庭での教育

ダメな勉強法をいつまでも続けていませんか?

2020 年 8 月 12 日

 今は夏の盛りで、毎日暑い日が続いています。受験生の子どもたちには、睡眠や食事、水分補給などに気をつけ、熱中症や夏バテに陥らないよう気をつけていただきたいですね。

 特に今年は、コロナウィルスの感染問題で学校や塾での勉強にも支障が生じています。受験準備のための学習にも影響がないわけがありません。その意味において、「暑い夏をどう乗り切るか」は、例年以上に合格を得るうえで大きな課題と言えるでしょう。体調の管理に細心の注意を払いつつ、今できるベストの受験対策を実現していただきたいですね。

 子どもたちに与えられた時間は1日24時間。すべての受験生は平等な時間的条件の下で学んでいます。しかしながら、一人ひとりの勉強のクオリティは様々であり、時間を有効に活かした実のある勉強を実現している受験生もいれば、効率の悪い勉強をしている受験生もいるのではないかと思います。受験生はまだ11~12歳の小学生ですから、やりかたの間違いに自分で気づくことができず、いつまでも空回りの勉強をしているケースもあるかもしれません。本人は一生懸命に取り組んでいるつもりでも、時間や労力をいたずらに費やしてしまう。そんなことにならないよう気をつけていただきたいものです。

 そこで今回は、多くの子どもたちにありがちなダメな勉強法を例示してみようと思います。

1.ただテキストを眺めるが如く読むだけでは、せっかく読んだことも理解できないし、成果につながりません。わかったつもりになってそれでおしまいです。漫然と読むのではなく、重要ポイントを理解するつもりで読み、ひとまとまりの区切り目ごとにポイントを反芻する必要があります。「読む→ポイントをチェック」をくり返しましょう。

2.問題を解こうとするものの、考えが行き詰るとすぐに解きかたの解説に目を通すお子さんがいます。これだと表面的には能率が上がって問題を解くペースもはやくなったかのように見えますが、実際には「わかったつもり」になるだけでまったく力はついていません。「こういう勉強法は最悪のものだ」と専門家は語っておられます。安易に解答や解説に目を通さず、まずは試行錯誤のプロセスを挟みましょう。自分なりの考えかたを明確にした後に目を通してこそ、解答や解説は勉強の手助けになります。

3.いつもマナビーテストの前夜になってからお尻に火がつき、テスト対策の勉強に取り組むお子さんがいます。頭のよいお子さんはそれでもそこそこの成績はとりますが、ほんとうの力はつきません。また、一夜漬けの勉強で受験までを乗り切ることは不可能で、やがて高い壁にぶつかってしまいます。テスト前に慌てて勉強するエネルギーがあるなら、それをコンスタントな計画的勉強へと向けるべきでしょう。実はそのほうが楽であり、なおかつ繰り返しや反復による学習効果も生まれ、ほんとうの学力を養うことになります。

4.同じようなタイプの問題ばかり解いても、柔軟な思考を養うことになりませんし、テストの対応力も身につきません。これは時間ばかりかかる効果のない勉強法です。別の解きかたを必要とする問題にも手をつけ、いろいろな対応の仕方を学んでこそ、応用的な力も養われます。

5.テキストで紹介される例題とその解きかたを学ぶのは、その単元の最も重要な柱となる考えかたをマスターするうえで欠かせないことです。スポーツで基本の型を知らずに取り組んだのでは成果があがらないのと同じです。頭のよいお子さんは、「めんどうくさい」と思いがちですが、基本を押さえたうえで問題に取り組んだほうが、結局ははるかに時間もかからず効率のよい勉強を実現することになります。

6.自分の手に負えないときには人の手を借りる。そういう方法を身につけていることも立派な自立の要素です。先生への質問は、自分の疑問解決のためにのみ先生を活用できる最高の機会です。これを活用しない手はありません。また友達同士で教え合うことも、最も効率のよい勉強法の一つだと言われています。わからないことを、同じ年齢の子どもの言葉で説明してもらえるのですから、わかり易いのは当然でしょう。また、友達に教えてあげると、わかっていることをもう一度頭の中で整理整頓することになり、教えた側にも多大な恩恵がもたらされます。お友達との教え合いも大切に!

7.勉強にやたらと時間がかかるお子さんの多くは、集中力の伴わない非能率的な学習に陥っている可能性大です。テキストを読み始めたばかりなのに、すぐボーっとしたり手悪さをしたり、漫画に手を伸ばしたり…。こういう癖がつくと、いくら勉強に時間を費やしても(実際には勉強時間になっていない)効果はほとんど期待できなくなります。そういう傾向の強いお子さんは、少し細かく時間を刻み、休憩を挟みながら勉強してみてはいかがでしょうか。そうやって集中力を少しずつ強化し、時間枠の中で一気にやり切る力を徐々に養っていきましょう。

8.鉛筆や蛍光ペンで重要語句にアンダーライン引くのはよい勉強法の一つです。しかし、むやみやたらと引いたのでは、何が大切なのか、何を覚えておくべきなのかわからなくなってしまいます。丁寧に読んで考え、「これは重要だ。忘れないようにしよう」と思った事柄にのみアンダーラインを引くようにしましょう。その判断を擦るプロセスも、重要事項を記憶するうえで意味のある時間になります。

9.睡眠は、体や脳に休息を与えるうえで欠かせません。また、睡眠中にその日学んだことが脳内で整理整理整頓され、十分にわかっていることとわかっていないことを振り分ける作業が行われます。十分な睡眠時間はそのためにも必要なものです。睡眠不足で疲労がたまると、脳内に有害な老廃物がたまり、ニューロン間の信号アクセスが悪くなって頭が働かなくなると言われます。夜は早めに就寝し、最も頭がすっきりとしている早朝に、前日まで解けなかった難問に挑戦するほうがはるかに勉強の効果はあがります。

 

 どうでしょう。1~9について当てはまるものはないか、お子さんと一緒に点検してみてください。特に、「勉強しているはずなのに、成績が振るわない。どうしてだろうか」と心配されているご家庭においては、今のうちに勉強法にチェックをしていきたいものです。もしも当てはまるものがあったなら、ここで挙げた対応例を参考に、今から間違った勉強を改善していきましょう。

 中学受験のプロセスは、望ましい学習法やルーティンを築き、将来の飛躍に布石を打つ絶好のチャンスです。合格点を入試で取れる学力を備え角が受験勉強の役割ではありますが、筋のよい学びの方法を体得する場にすれば、中学を受験することはより大きな意義をもたらすことになるでしょう。

中学受験のプロセスを、将来の飛躍に向けた備えの場にしましょう!

 

※今回の記事は、「直観力を高める数学脳のつくりかた 」バーバラ・オークリー/著 河出書房新社 の著述を参考に作成しました。

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カテゴリー: お知らせ, アドバイス, 勉強について, 勉強の仕方

夏場のコンディションは睡眠で決まる!

2020 年 8 月 3 日

 長い梅雨が8月を目前にしてどうやらやっと明けたようです。例年のことながら、梅雨明けが近づくころに大雨に見舞われることが多く、今年も西日本や東北地方では激しい雨による土砂崩れや河川の氾濫に伴う災害が多数発生しています。被害に遭われた方々の暮らしが1日も早く回復されますことを心よりお祈りするばかりです。

 さて、例年なら今頃は夏休みの真っ最中ですが、今年に限ってはコロナ禍の余波を受けて学校の夏休みが大幅に短縮されています。そのため、中学受験をめざしている子どもたちは、日中は学校があり、夕方から塾に通って受験対策の勉強をするというハードな毎日を送っています。日中は学校、夕方からは塾というパターンは、子どもたちにとってはおなじみのことではありますが、真夏ともなると移動中も体力を消耗させるほどの暑さと闘わねばなりません。体調の維持は細心の注意が必要であり、保護者の方々にはお子さんの健康面のサポートをいつも以上に心がけていただきたいと存じます。

 暑い盛りの時期の健康管理において特に注意していただきたいのは睡眠です。ただ単に睡眠時間をたっぷりとるというのではなく、規則正しい生活のもとで決まった時間に決まったパターンで就寝することが大切です。特に夜更かしは厳禁です。適切に睡眠をとっているかどうかは、健康維持のみならず学習の成果にも少なからぬ影響を及ぼします。今回は、中学受験生が夏を上手に乗り切るうえで必要な睡眠の取りかたを話題に取り上げてみました。

 さて、そもそも睡眠の果たす役割とはどのようなものでしょうか。むろん、大人ならおおよそのことは知っておられると思います。ただし、育ち盛りの子どもたち、それも中学受験準備の学習に励んでいる子どもたちにとっての適正な睡眠ということになると、「疲労回復」や「体調維持」といった漠然としたものではなく、もう少し厳密に睡眠の役割や重要性を知っておく必要もあると思います。睡眠については、過去のブログにおいてもかなり詳しくお伝えしています。今回の記事のおしまいの部分に掲載タイトルと掲載日を記しておきますので、よろしければ目を通していただければと思います。

 ご存知かと思いますが、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という質的に異なる2種類の睡眠があります。これらの睡眠は一晩のうちに交互に何回か繰り返されており、“睡眠周期”と言われています。入眠に入ると、まずレム睡眠から始まり、次にノンレム睡眠にスイッチします。1回の周期に要する時間は、大人で90分ほどだと言われています。子どもの成長にとって大切なのは、この睡眠周期が適切に繰り返されることです。中学受験生についてあえて言えば、この睡眠周期をしっかりと維持することで、入試本番でもてる能力を100%出し切れる状態を築くことができます。つまり睡眠は冴えた頭脳育成にとっても欠かせません。睡眠を大切にしてくださいね。

 ともあれ、まずレム睡眠とノンレム睡眠が、それぞれどのような睡眠なのかを確認しておきましょう。レム睡眠という呼称は、英語のRapid Eye Movementsの綴りの頭をつなげたものです。この呼称からもわかるように、眠っているときに閉じた瞼の下で眼球が頻繁に動いており、比較的浅い眠りの状態にあります。ノンレム睡眠は、眼球の活発な動きがなく、安らかな深い眠りの状態にあります。それぞれの眠りの特徴をご説明しておきましょう。以下は、脳科学の専門家である福岡教育大学名誉教授の永江誠司先生の著作からの引用です。

 睡眠の最初の3時間の中に最も深い眠りが含まれています。いわゆる熟睡です。その後の睡眠では、浅い段階のノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返されていきます。最初の深い眠り、すなわち深い段階のノンレム睡眠は、大脳の回復あるいは修復にとって大切なものであり、この時に成長ホルモンが分泌されます。したがって、入眠からの3時間は、子どもの成長にとってとくに大切な時間といえます。この時の睡眠が邪魔されないように気をつけなければなりません。

 これに対し、レム睡眠は大脳の情報の整理あるいは定着に大切だと考えられています。レム睡眠では、脳は覚醒に近い状態にあります。眠りのこの状態にあるとき、起きて活動していた折に学習された情報の整理整頓が行われるのです。睡眠中のノンレム睡眠とレム睡眠の占める割合は、子どもと成人では異なっており、発達的に子どものほうがレム睡眠の占める割合が大きいことがわかっています。新生児や乳児のレム睡眠の割合はほぼ50%ですが、大人になると、20~25%ぐらいになります。

 これを読むと、睡眠に入ってからの3時間がとても重要だということがわかります。勉強が終わった後、テレビを長時間見たり、ゲームに興じたりすると、強い光が脳を刺激して子どもの眠りを妨げると言われています。就寝時間になったら、穏やかな精神状態で眠りにつくような習慣を築いていただきたいですね。

 また、ノンレム睡眠には主として1日の活動で生じた疲労を回復させる働きがあり、レム睡眠は学習によって得た情報を整理整頓する役割を果たしているようです(上記引用文の下線部分より)。

 1日24時間のうち、約半分は起きて活動するための時間、残りの半分は眠るための時間として脳にプログラムされていると言われます。脳の健全な働きと成長のためには、このバランスが崩れないようできるだけ1日の活動パターンを固定化し、リズムよく過ごすことが望ましいと言えるでしょう。

 睡眠が脳の健全な発達に欠かせないということについて、前出の永江先生は次のように述べておられます。

 子どもの活動水準は、大脳の機能水準に依存しています。大脳の機能水準は、睡眠によって大きく影響されます。したがって、子どもの睡眠が不足していれば大脳の機能水準は低くなり、その結果、気分がすぐれず意欲も減退して活動水準が低くなります。逆に、睡眠が適切にとれていれば大脳の機能水準は高くなり、その結果、気分もよく意欲も向上して活動水準も高まります。子どもが起きているときに清明な意識水準を維持し、高い活動水準を維持するためには、適正な睡眠をとることが大切です。

 あるおとうさんが、「睡眠は時間の無駄でしかない」と、わが子の睡眠時間を大幅に削られたという話を聞いたことがあります。また、あるおかあさんは「親も仕事を家にもち帰って夜中まで働いているのだから、あなたも一緒に起きて勉強をしなさい」と6年生の息子さんに命じられたという話もあります。

 これらは、子どもの脳の成長や働きにとって非常に危険であり、マイナス効果しか生み出さない方法だと思います。勉強の成果は時間だけでは決まりません。むしろ早寝早起きを励行し、昼間の活動水準を上げ、夜はしっかり眠る。これによってメリハリや集中力の伴う受験生活を送ったほうが勉強の成果も上がるし脳の成長にもプラスになるでしょう。

 暑い夏こそ睡眠をしっかと確保し、規則正しい生活を送って能率のよい学習を!

★「睡眠」に関連する過去のブログ記事 ★
「適性な”睡眠”が学習と生活のリズムをつくる!?」
2017年10月2日掲載
「子どもの睡眠不足にご注意を!」2016年6月27日掲載
「あなたの子どもの睡眠時間は足りている?」2016年6月20日掲載
「夏休み後半の過ごしかたを大切に」2015年8月17日掲載

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カテゴリー: アドバイス, 子どもの発達, 子育てについて

子どもに小言ばかり言ってしまうかたへ

2020 年 7 月 27 日

 先週から弊社の夏休み講座が始まりました。ご承知のように、今年は新型コロナウィルスの感染拡大への対応で学校が長期間休校となりました。そのため、夏休み期間が大幅に短縮されており、弊社においても学校への通学がある夏休み期間は夕方から授業を行っています。また、オンラインでの受講にも対応するなど、通常の年度とはずいぶん異なる形態での夏の講座実施となっています。

 現在6年生の子どもたちにとっては、コロナ関連の問題のしわ寄せが受験勉強にも少なからず影響していることでしょう。しかしながら、入試は例年と同じ時期に実施されます。残されたあと半年ほどの準備期間を有意義に過ごし、今からでき得る最善の受験対策を実現すべくがんばっていただきたいと存じます。暑い夏の期間は、集中力が成果をあげるうえでものを言います。凌ぎやすい時間帯を有効に活かし、効率のよい受験対策を実現していただきたいですね。

 さて、いきなり質問です。みなさんは日常の生活においてお子さんに小言を言うことはありますか? これは愚問というほかないかもしれません。というのも、子どもに小言を言いたい場面のない親などおそらくほとんどいないからです。第一、子どもと親とでは人生経験があまりに違います。子どもの足りない部分をあげつらおうと思えば、数限りなく見つかるものです。まして受験生の親であれば、勉強面についてわが子に注文のつかない親などおそらく一人もおられないに決まっています。

 小言に関する親の悩みはどういうものかと言うと、大概は同じようなことで、「毎日小言ばかり口をついて出てきます。でも、利き目はせいぜいその場限り。自分でも『これではいけない』と思うのですが、わが子の現実に直面すると結局小言を言ってしまいます」などのようなことをおっしゃいます。このように、小言は効き目がないとみなさん十知っておられます。しかし、ちゃんとやらないわが子を放っておけなくなるんですね。

 なぜ小言は利き目がないのでしょう。臨床心理学者の河合隼雄氏(1928-2007)の著作(「こころの子育て」1999朝日新聞社)に、なるほどと思う記述がありました。人間は、自分の至らない点を指摘され、「こうしなさい」と命令口調で正しいことをくり返し言われ続けると、体がこわばってきて動けなくなるのだそうです。親子関係における親の小言も同じで、正しいことを言えばいいわけではないのだそうです。親に冷たい目で見られて正しいことばかり言われたらたまりません。子どもに正しいことをパッパッと言ったらいい、と思うのは親がちょっと焦り過ぎだそうです。たいいち、指導や助言をする立場のほうが圧倒的に楽です。子どもが反省して行動を改めるために必要なエネルギーは、親の想像を超えるものなのかもしれませんね。まして受験勉強は、子どもにとって楽なものではありませんから、これに関する小言ならなおさら心に重くのしかかるのは想像に難くありません。

 では、小言を減らすよい手立てというものはないのでしょうか。そのことへのヒントになる著述や、子育て中の保護者にとって参考になりそうな著述を今回はご紹介してみようと思います。今回の記事は、順調に受験生活を送っておられるお子さんのご家庭には必要のないものかもしれません。ですが、親子関係の基本的なことで悩んでおられる保護者には、参考にしていただけるかもしれません。なお、文字数の都合で引用文を調整しています。ご了承ください。

 

質問1 「早くしなさい」「それはだめ」と、小言ばかり言っています。

回答:「何か言いたくなったときに、そこで五秒待つんです。『早くしなさい!』と言うのを、ちょっと待つだけでも違います。そうすると、子どもは何か面白いことをしますよ。とにかく一息待つ。たとえば、学校へ行っていない子に『なんで行ってないの?』と聞いたら、『学校行くと友達ができるから』とか言うわけ。『変なことを言うな』と言いたくなりますが、がまんして『はー、友達ができるからねえ』と言って待っていたら、また続きがでてきて、やがて友達ができると、父親が変な病気にかかっているということがわかるからだという理由が判明します。ほんとうは父親のことで悩んでいたんですね。子どもの行為の理由を「早く言いなさい」という気持ちでいたのでは、全然待っていることにはなりません。子どもにその感じが全部伝わっているんですから。「待っている」とか「ちゃんとそこにいる」ていうのは、ほんとに難しいことです。

 

質問2 思い通りにならないのは、育て方が悪いからですか。

回答:現代は、親が子どもをコントロールできると思い過ぎているんじゃないでしょうか。近代科学が発達して便利になり過ぎているから、上手にやったらうまいこと行くとみんな思っている。それで、子育てが思い通りにならないとイライラしてしまうんですね。一人の生きた人間を育てるのは、機械を扱うようなわけにはいきません。マニュアルなどありませんから。「上手に子育てをしたら思い通りになる」というのは完全に迷信です。

 とにかく、相手は子どもで、生きている存在なんです。こちらの思い通りにならないのが生き物というものでしょう。イヌやネコでも思い通りにはなりません、まして人間の子どもが思い通りになるはずがありません。ところが自分の子どもというと、どうしてもなんか思い通りになりそうな気がするんですね。だから、子育てがうまくいかないと「自分が悪い」と罪悪感をもつ人がいるけど、そんなことはおかしいんで、どんなよい親でも、よい子でも、思うようにならないときというのは必ずあるんです。

 ほんとは、思い通りにならないことほどすごいことなんですよ。そしておもしろいことなんです。そうやって、思うようにならなくて、あれやこれや考えてもどうしようもないときは、寝るんですよ。それが一番です。目が覚めたら、また変わっていますよ。ひと晩たつって、不思議ですよ。

 

質問3 ボーっとしていることがよくあります。心配ないですか。

回答:こころができあがっていく、というのは大変なことで、まあ、お味噌とかお酒とかが発酵するみたいなものです。子どもにも、そういうボーッとしている時間が必要なんです。お酒を造るには、麹でじわじわ発酵させなきゃならない。それなのに、アルコール成分をパーっと注ぐみたいなことをして、『できました!』とか言ってたら、味もそっけもないものになってしまうのは当たり前でしょう?

 おとなだって、朝から晩までずっと死ぬ思いで働いている人なんていないですよ。みんな適当にボーっとしているはずです。そのくせ子どもには『ボンヤリするな!』なんて言う。ボーっとするのは、ただボーっとして何もしないから大事なんです。おとなだって本来はボーっとしている時間が必要なんです。ヨーロッパ人には、休暇で他所の場所に行ってボーっとする習慣があります。日本もかつては、おとなも子どもも適当に遊びに行ったり、気晴らしをしていました。

 今は、子どもを監視するほうにおとなのエネルギーが集中しています。本来子どもは成長しながら、『親の目』みたいなものを自分のなかに取り込んでいきます。ですから、休暇をとるとかとかコンサートに行くとか、広い意味での遊びをもう一度おとながやりだせばいいんです。おとながそういうことにエネルギーを集中させていてこそ、子どもは遊んだりボーっとしたりできるんです。おとなが自分の世界をもっていることは、子どものこころが育っていくうえで大きいんです。

 どうでしょう。参考になる点はあったでしょうか。筆者が少なくとも感じたのは、おとな(親)は目先のことにとらわれて、感情的になったり、拙速な行動に出たりするのではなく、子ども成長を見守り見届ける精神的なゆとりをもたなければならないということです。子どもは必ず成長していきます。それを信じて“待つ”ことを忘れないようにしたいものですね。

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 家庭での教育