2019 年 10 月 14 日 のアーカイブ

勉強を嫌がらない子どもにするために その2

2019 年 10 月 14 日 月曜日

 今回も、引き続き幼児や小学校低~中学年児童をおもちのご家庭に向けた記事をお届けしようと思います。話題は表題の通りです。お子さんの中学受験を視野に入れておられる保護者、お子さんの学力形成に関心をもっておられる保護者の参考にしていただけたなら幸いです。

 前回は、「知りたい」という知識欲に突き動かされて学習に取り組む子どもと、親に促されてしかたなく勉強する子どもでは、学習成果に大きな差が生じるということを、琢磨武俊先生(東京都立大学名誉教授)の著作の一部を引用しながら、筆者の考えを加えてお伝えしました。。

 小学生の場合、自発的な勉強を奨励しても、それだけでは期待通りに子どもはやってくれないものです。これは、まだ内面の成長が未熟で、「何が最も大切か」の認識や、やるべきことの優先順位の判断が甘いからだと思われます。その結果、目先の誘惑や目の前の関心事に振り回されてしまうのでしょう。しかしながら、やるべきことをわきまえているかのように、率先して勉強に取り組んでいる子どもも大勢います。弊社の教室に通う低~中学年児童のなかにも、いつでも楽しそうに授業に耳を傾け、伸び伸びと学んでいる子どもたちが多数います。こういう子どもを育てられた保護者には、心から敬意を表さずにはいられません。これこそが子育ての成果に他ならないからです。

 では、何でも知ろうと積極的に調べたり考えたりする姿勢をどうやって子どもに植えつけたらよいのでしょう。少なくとも一朝一夕に身につくものではないことはみなさん先刻ご承知だと思います。ずばり、日頃の親の小さな働きかけ、努力の積み重ねしかないでしょう。前回、子どもが何かに興味をもったときの親の対応の例をご紹介しました(子どもが、「コーラを飲んでもトマトジュースを飲んでも、オシッコはなぜ同じ色なの?」と尋ねたときの対応)。ああいった、子どもの何気ない質問の瞬間を生かしたいものです。

 しかしながら、現実にはすでに「勉強しなさい」を繰り返した結果、子どもが「なぜ?」と、親に質問を投げかけてこなくなりつつある家庭もおありかもしれません。どうしたらよいでしょうか。その場合、親から不思議の例を挙げ、子どもに興味をもたせたり、考えさせたり、一緒に調べてみたりする機会を積極的につくってみたらよいと思います。

 たとえば、科学的なことに興味をもたせたい場合、「好奇心をそだて考えるのが好きになる話365」(ナツメ社こどもブックス)という本があります。これを使って、毎日ひとつの「なぜ」を取り上げては解決する楽しい時間をつくるのです。言葉の知識を増やしてやりたい場合には、子ども向けのことわざ辞典を一冊買い、毎日ひとつずつ諺の勉強を一緒にするというのも面白いと思います。「藪をつついて蛇を出す」「猿も木から落ちる」など、ほとんどのことわざは事実をそのまま示すのではなく、超現実的で象徴的な事例をあげたものですから、それをもとに一般化して考える姿勢が育ちます。「このことわざは何を言おうとしているのか」を考え理解することで、抽象的思考力を伸ばすこともできるでしょう。うまく親がリードすると、お子さんは大変喜ぶと思います。

 無論、他にもっと面白いアイデアをおもちのかたもおありでしょう。取り組みやすい、親にも負担が少ない方法を一つに絞り、ずっと親子で続けていくと効果が必ず得られると思います。ぜひ試みてみてください。

 子どもと一緒に考えたり調べたりするときに親が留意すべきことは、子どもの考えを否定しないこと、子どものまどろっこしい話に耳を傾けることです。これは子どもの立場になってみれば当たり前のことですね。自分の考えを否定されたあと、「一緒に調べてみよう!」と言われても、到底その気になれるものではありません。"強制”のにおいを子どもが感じ取ってしまう恐れも多分にあるでしょう。たとえ思考が稚拙で話下手であっても、子どもが考え、説明しようとすること自体に価値があります。うまくできない子どもを変えるための働きかけですから、親は辛抱強く、「子どもが反応を示したこと自体がチャンスなのだ」と受け止め、子どもの言葉に肯定的な姿勢で耳を傾けることが何よりも大切でしょう。

 さて、子どもが頭の中に宿らせた不思議を解決し、新たな知見を得ることを楽しいと感じるようになったなら、やがて子どもの知性開花に向けたよい兆候が表れるようになっていきます。前述の琢磨先生は次のように述べておられます。

 まず学習態度(=授業で得るものが多い)、特に学校や塾の授業を聞く姿勢にはっきりとした違いが見られるようになります。知的興味を携えた子どもは、先生の話に耳を傾ける姿勢をもっています。そういう子どもになっていくのです。ちゃんと聞くと、授業の内容も面白くなり、より興味が高まったり、知りたいという気持ちが強くなったりします。当然ながら、一回の授業で得られる知識や情報の量が、ちゃんと聞いていない子どもより圧倒的に多くなるのです。授業というのは、最も大切で基本的なことを選りすぐって行うものですから、それをどれだけ聞いているかによって基礎の身につきようや学習の発展性が格段に違ってくるのです。

 次に、読書習慣(=圧倒的な読書量)に大きな違いが生じてきます。知的好奇心の豊かな子どもは、文字の読み書き学習にも興味を示しますから、リテラシーの確かな基盤が築けます。知りたがりの子どもにとって、それは熱心な読書活動への起爆剤に他なりません。その量たるや圧倒的と言ってもよいほどで、これがますます知識量を増やし、思考のレベルを高めていきます。小学生というのは人生経験が短いだけに、読書や会話の質・量の違いが個々の知識・思考レベルに大きな違いをもたらします。中学受験においても、読書量の多い子どものほうが圧倒的に有利になるのは疑いのないことと言えるでしょう。一般に、読書量は小学生時代がいちばん多く、中学生、高校生になるにつれて減って行きます。小学生のうちに豊かな読書生活を送り、知的成長の流れをしっかりと築いておきたいものです。

 三つ目に、何かに夢中になれる(=伸びしろを育む)という傾向を生み出します。知的好奇心が旺盛な子どもほど、好きになれるものと出合える確率が高いのは言うまでもありません。機械いじり、昆虫採集、スポーツ、音楽など、興味の対象が直接勉強に関係のないものであったとしても、まったく問題ありません。好きなものに打ち込んだ経験をもった人は、のちに専門分野を得たときに伸びる確率が高いのです。何にでも興味をもち、自分で調べて知的欲求を満足させようという姿勢をもっていることが、好きになれるものとの出合いを生み、さらには人間としての大成にもつながっていくのですね。

 以上の三つについて、今から親としてサポートできることはないでしょうか。きっとみなさんの家庭やお子さんの状況に応じていろいろあると思います。「今すぐには思いつかない」というかたのために、筆者がお伝えしたいことは次のようなことです。

 まず、学習態度に関連して。日頃から、子どもの話に辛抱強く耳を傾けてあげてください。これまで何度かお伝えしたことがありますが、男の子の話しぶりはいかにも稚拙でまどろっこしいものです。だからこそ、子どもには話す練習が必要です。おかあさんに話しかける場をもらえれば、子どもは少しずつまとまった話ができるようになります。また、おかあさんがちゃんと聞いてくれることは無言の教えになり、他者の話に耳を傾ける姿勢が育ちます(何しろおかあさんが一生懸命に聞いてくれるのですから、「人の話は聞くものだ」という観念が育ちます)。授業をちゃんと聞けるのは、生まれつきの能力ではなく、おかあさんの努力の賜物なんですね。

 次は知識の発達を促す読書に関して。おかあさんといろいろな疑問について考えを語り合ったり、一緒に調べたりする経験は、知識欲を大いに刺激します。それは文字の習得にも好影響をもたらします。2年生ぐらいになると本を一人で読めるようになりますから、この知識欲が読書へと向かっていくのは必然の成り行きでしょう。子どもの好奇心を育てる親の対応は、「読書をしなさい」と言わなくても子どもを活発な読書活動へと向かわせる効果も引き出すのですね。子どもが勉強している時間におかあさんが読書をするというのもいいかもしれません。その様子を見せることで、子どもの読書意欲をさらに刺激することができるでしょう。

 最後に、夢中で取り組む姿勢を育むことに関して。子どもが何かに興味を示して行動を始めたとき、大人は「そんなこと、何の役にも立たない」と言って、やめさせることもありがちです。しかし、功利的な考えを挟み込まず、「子どもの好きという気持ちや興味を尊重する」という親の姿勢が、すばらしい成長を引き出すことは少なくありません。まずは、わが子の興味関心が何にあるかをさりげなく調べてみましょう(観察眼を発揮しましょう)。そして、その方面の話題をタイミングを見て話題にしてみましょう。お子さんの目が輝くかもしれません。何かに夢中になれる体験に恵まれると、やがて夢中の対象が変わったときにも同じように一生懸命になれるものです。当然、成果も生まれますし、その道の専門家にまで到達することだって珍しくありません。

 どうでしょう。これまで、わが子に勉強を押しつけてきたという後悔があったとしても、今から修正していけばいいのです。まだまだ子どもは固まる年齢ではないのですから。これまでの対応を変え、わが子が伸び伸びと学ぶ姿勢を築いていくようサポートすれば、子どもの将来は大きく変わることになります。もしも、これまで通り子どもに勉強を押しつけた場合どうなるか、そのことを想像してみればあきらかでしょう。親に求められるのは、親がなすべきことは、子どもの将来を見通した対応です。親として今してやれることを、精一杯やっておきたいものですね。

子育ては、それぞれの子どもに人生で一回きり。時間は巻き戻しできません。"今”を、後悔の残らぬものに!

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カテゴリー: アドバイス, 子育てについて, 家庭での教育