子どもの健やかな成長に必要な「休養」「栄養」「運動」のうち、前回・前々回は前の2つについて触れましたが、今回は「運動」について書かせていただこうと思います。
社会全体が便利になるにつれて様々な種類の移動手段が発達し、大人も子どもも全体的な運動量がどんどん少なくなってきています。NHKの調査によると、30年ほど前は約23,000歩だった小学生の一日あたりの歩数が、近年の調査では平均10,000歩程に減少しているそうです。つまり、30年余りの間に、子どもが一日に歩く量は半分以下になってしまったことになります(大人はもっと少なくなっていますので、私も含めて運動不足には要注意です)。
これは、単純に移動手段が便利になって、自分の足で歩く量が減ったというのも原因の一つではあるのですが、子どもの運動量に関していえば、平日の放課後や休日の遊び方、学校での過ごし方の変化によるものが大きく影響していると考えられます。
かつては、放課後になれば、家の玄関にランドセルを放り投げてそのまま暗くなるまで遊び回るという子どもが多くいました(自分自身もそうでしたし…)。空き地で野球やサッカーをしたり、山の中に分け入って秘密基地を作ったりして毎日楽しく動き回っていましたから、特段日々の運動量など考えるまでもなく、しっかり必要な運動を重ねていたものです。
しかし、今の子ども達は、習い事などで放課後も毎日忙しいですし、遊ぶにしても、外遊びより楽しく感じられるものがたくさん身の回りに溢れています。こうした状況の中で、子どもの運動量は自然と減少していったのだと考えられます。
さらに、学校で過ごす間であっても、子どもが体を動かす時間は減ってきています。
昔は、授業の時間内でも体を動かす活動が多く、課外活動として学校外にも出掛けて豊かな自然の中で遊びを交えながら学ぶという機会も多く設けられていました。しかし、今では、自然環境や社会状況の変化による安全管理の問題や、学習内容の質や量の変化などもあって、軽々しく「学校の外に出て活動しよう」とは言いにくい状況になってきています。
また、授業中・休憩時間に先生も一緒になって体を動かすことで、子どもの活動量が増加するという興味深いデータも示されています。やはり、上手に場をリードする大人の存在が、子ども達の活動をより活発にするということなのだと思いますが、最近では、先生も種々の業務で非常に忙しく、休憩時間にも事務作業などに追われることが多いというのは周知のとおりです。先生達に「休憩時間にグラウンドに出て、子ども達とドッジボールでもしようか」などと考えるだけの余裕がなくなっていることも、子どもの運動量に影響しているのかもしれません。
このように年々減少している子どもの運動量ですが、「休養」「栄養」「運動」のサイクルについて考える上で、一度崩れたこれらのバランスを改善するために特に効果的なのが、日中の「運動」であるといわれています。
日中の運動によってしっかり体を動かした子どもは、十分な運動で空腹になるため食欲も旺盛になり、夜の訪れとともに心地よい疲労感で眠りにつくことができます。十分な睡眠時間を確保できれば、翌朝はスムーズに起床できるようになる…といった好循環の流れをつくることができますから、日中の運動をきっかけにして、一連のサイクルを好転・改善することができるというわけです。
また、近年、子どもの体の異常の一つとして、低体温(体温が36℃未満)・高体温(体温が37℃以上)の児童が増加している点が挙げられています。体温調節がきちんとできない状態にある子ども達は、何もせずにボーっとしていたり、集中力に欠けて落ち着きがなかったり、些細なことですぐ興奮状態になることなどが指摘されていますが、この問題に関しても、運動が大きな効果をもたらすことが報告されています。
十分な量の運動をすることによって、筋肉の活動が活発になり、体に熱が生まれることで、低体温の子どもも元々低かった体温が上昇します。逆に高体温の子どもは、運動による発汗によって元々高かった体温が下がりますから、低体温・高体温いずれの子どもも、十分に体を動かした後には36~37℃の適温範囲内におさまったという結果が示されています。そして、このような運動量を継続的にキープしていけば、低体温や高体温の子ども達の体温調節機能にも改善がみられるようになるのです。
もちろん、単に体を動かして遊べば全てがうまくいくというわけではありません。子どもの生活サイクルをより健全に保つためには、日常の「休養」「栄養」の面も保護者がしっかりサポートすることが欠かせません。
子どもが成長するための基盤となる日々の「休養」「栄養」「運動」のサイクルや生活リズムを整えることは、子どもの発育に大きな意味をもっています。ぜひこの機会に、日頃の生活を親子で見直してみてはいかがでしょうか。
(butsuen)