「子どもを自立させる」ことが、子育ての大きな目標の一つであるとお考えの保護者の方は多いと思います。
「子どもの自立」をイメージした際、最初に思い浮かぶのは、日常生活における身の回りのことに関してではないでしょうか。幼児期であれば、自分で服を着替えられるようになる、自分で歯磨きができるようになる、一人でトイレに行けるようになる・・・など。小学校に入れば、朝起こされなくても自分で起きられるようになる、教科書やノートを自分で片付けられるようになる、食器を自分で片付けて洗えるようになる・・・といったことも含まれてきます。
幼い頃からの積み重ねによって、こうした身の回りのことがひとりでできるようになることは、将来独り暮らしを始める際や、結婚して配偶者との共同生活を始める場合に必要となる資質ですから、これらのスキルを磨くことは重要な意味を持っています。
ただし、自立とは、身の回りのことができるようになれば十分というわけではありません。
まずは、子どもが精神面で自立することが基本になります。
これから成長していく上で、物事を決める際に親や身近な頼れる人物などに盲目的に依存することなく、まずは自分で考えて決定していこうとする姿勢をもてるようにならなくてはなりません。もちろん、親や周囲からの意見を素直に聞き入れる柔軟性は必要ですが、芯となる部分は自分で考え、自分のことに関する最終的な判断は自ら下せるだけの主体性がなければ、自立したひとりの人間として社会生活を送ることはできません。こうした考え方をしっかり身につけていることは、責任感や積極性にもつながっていきます。
さらに長いスパンで考えれば、将来経済的な面でも子どもが自立できるよう、親の働き掛けも重要になります。
「自分の食い扶持は自分で稼ぐ」「働かざるもの食うべからず」などという言葉があるように、自分の生活は自分自身の収入で支えるという考えをもつことは、社会生活を送る上で至極当然のことではあります。ところが近年、就職して毎月の給料をもらっているにも関わらず、実家で食事の準備や洗濯・掃除などを親にしてもらう「パラサイトシングル」とよばれるケースや、学校卒業後も働くことなく親の世話になり続けるような「引きこもり」のケースなどが増えているといわれます。日本国内のパラサイトシングルだけでも1,200万人を越えるという情報もあり、こうした状況が日本を含むアジア諸国で問題となっているのです。
世界的な観点で見ると、こうした状況が起こることは欧米諸国では少ないのだそうです。欧米では「給料をもらうようになれば独立するのが当然」という考え方が親子ともにあるため、社会人となった後いつまでも親元に留まるケースは多くありません。一方、日本を含むアジア諸国では、「親、特に母親は、子どもに献身的に尽くして細かなところまで世話をすることを美徳とする」という価値観を強くもっているため、親子のつながりは後々まで続いていきます。
文化圏が違えば家庭に対する考え方も異なりますから、どちらが良いかを単純に比較することは難しいですが、子どもの世話をすることへの意識が強過ぎて、「子どもが成長した段階で、生まれ育った家から上手に離れさせ、自立させる」ことに親の目があまり向かない状況があるとすれば、それが子どもの自立を遅らせる大きな要因となっていることは認識しておかなければなりません。
学校卒業後や就職後も家から出ることができないケースが、単に経済的な問題だけではなく、精神的な自立の問題とも関係しているように、これら自立に関する項目も全て互いに関連したものと考えられます。
では、「わが子を自立した社会人にしたい」という思いを形にするためには、今の時期にどのような働き掛けをすべきなのでしょうか。これに関しては、回を改めてまた考えてみたいと思います。
(butsuen)