子どもを理系分野へ進ませたいなら

2020 年 4 月 27 日

 まもなくGW(ゴールデンウィーク)が始まります。今年は新型コロナウィルスの感染拡大の防止という、国をあげて対処している深刻かつ喫緊の問題が存在します。そのため、GWの名とは裏腹に海外旅行はほぼ不可能ですし、国内旅行も自粛が強く要請されています。他県・他地域への移動もままなりませんし、故郷への帰省も見合わせる家庭が大半であろうと思います。

 ウィルスに感染した人たちが多数命を失っています。窮屈で不自由な生活はしかたないことではあるものの、長期戦に至っているのでどなたもストレスを溜めておられることでしょう。しかしながら、これ以上感染が拡大すると、社会が成り立たなくなるほどの大打撃を被ることになります。一つひとつの家庭、一人ひとりの行動自粛が求められています。ウィルス感染が収まるまで、ともに協力しながら対処してまいりましょう。

 さて、今回はお子さんがやがて進んでいく将来の方向に関わる話題を取り上げてみました。わが子に対し、「将来は、理系の分野へ進んでほしい」と望んでおられる保護者は少なくないことでしょう。そこで、「子どもを理系にするために、親ができることは何か」を共に考えてまいりたいと思います。

 小学校、中学校、高校と、学年が上がるにつれて修める学問のレベルは高くなっていきますが、高1の終了時に子どもたちは将来の進路設定に大きな影響を及ぼすであろう、学問選択の岐路に立たされることになります。いわゆる「文理選択」をしなければなりません。得意なほうにすればいいとはいうものの、希望と現実とに齟齬が生じるケースが多いのは、保護者も先刻ご承知でしょう。

 かつてご自身も悩まれたのではありませんか? 文系か、理系かの選択において、どちらが人気なのかは言うまでもありません。広島の私立6か年一貫校の先生に、自校生徒の文理選択状況を伺うと、文系より理系に進む生徒さんのほうが圧倒的に多かったと記憶しています。これは、医学部人気や薬学部人気が背景にあるだけでなく、理系の分野に魅力を感じさせる職業が多くあるからだと思います。

 しかしながら、理系の専門的な分野に進むにあたっては、それをやりこなせるだけの学力が必要です。

 また、本人にそうした学問に対する興味や探求心も求められるでしょう。そうでないと、仮に理系を選択しても、後で様々な問題や悩みに直面する可能性が高く、後悔をすることになってしまいます。実際、無理をして理系に進んだものの、勉強がおもしろくない、わからない、やる気になれない、などの問題に直面し、行き詰ってしまう生徒さんもいると聞きます。

 お子さんがまだ小学生ならどうでしょう。まだまだ文系タイプか理系タイプかに固まってしまう段階には至っていません。まして低~中学年児童なら、基礎の基礎からしっかりと学問の土台を築けますし、大人の配慮で理系分野への興味関心を育てることも可能でしょう。親が子どもの進む学問的方向性に関与できるとしたら今のうちです。中学生になり思春期を迎えると親の影響力は一気になくなりますし、お子さん自体も素養が固まってしまいます。ですから、親にとってこの問題は「今のうちに考え、対処すべきものだ」と言えるでしょう。

 早稲田大学名誉教授(理学博士)の大槻義彦氏に、「子供を理系にせよ!」(2008NHK出版 生活人新書)というタイトルの著作があります。数多くの本を出しておられる氏ですが、親向けの本のように見受けられたので読んでみると、みなさんにご紹介したい情報が目に入りました。

 氏が勤務しておられた大学の理系学部の新入生1500名以上と、上級生1500名に「理系を選んだ理由は何か?」というアンケートを実施されたそうですが、結果は次のようなものでした。

質問:理系を選んだ動機は何か?

 第一位 親に理系を薦められた・親が理系だった…32%

 本を買ってもらったり、テレビを見せられたりといった親の影響も含めると70%になる。つまり、親の影響や親の希望が何らかの形で影響を及ぼすことが、子どもの進路に強い影響を及ぼすということがわかる。

 第二位 学校の先生、とくに中学の理科の先生の影響…26.4%

 「中学の理科の先生がすてきだった」「科学に対する興味を開いてくれた」複数の先生の授業、クラブ活動での指導もあるが、圧倒的に多いのはただ一人の先生の影響だった。 

 第三位 科学に関する書籍の影響…23.0%

 科学的読み物や漫画、雑誌、書物などの影響。また、教室に貼られている「科学ポスター」の影響も決して少なくない。

 第四位 映像や映像社会からの影響…15.4%

  科学、医学、宇宙物のテレビの特番や映画などを繰り返し見て影響を受けた学生が多い。

 いっぽう、「博物館」「科学館」「プラネタリウム」などの影響を受けて理系に進んだという学生がほとんど見られなかったそうです。これにはアンケートの実施者である著者自身が驚かれたとか。なにしろ、3000名余りの学生のなかで僅か1名しか該当する者がいなかったのです。近年は子どもの興味を惹く「科学実験イベント」や「科学ショー」などが盛んに行われ、テレビなどでも紹介されていますが、これらも理系進学への動機を高める効果を発揮していません。これはどういうことでしょう。

 上記報告を見ると、子どもの理系進学に最も強い影響を及ぼしているのは親です。ただし、親の働きかけに特別なものは見当たりません。何が作用しているのでしょうか。氏は、「親と子どもは家族として毎日接している。子どもは生活の中で親の様子を観察し、何らかの影響を受けているのではないだろうか」と推測し、次のような要素が子どもに影響しているのだろうと述べておられます。

・父親あるいは母親が自分の仕事に熱心に取り組み、成果をあげていること

・親が自分の理系の仕事に誇りをもっていること

・親が自分の理系の仕事に満足し喜びをもっていること

・親が自分の理系の仕事について子どもに話をしていること

 この見解に基づくと、親が理系の仕事に従事し、やりがいや誇りを感じて生き生きと仕事をしていれば、それで十分だということなのでしょう。なおかつ、ときどき自分の仕事について子どもに語って聞かせていれば、特別な理系教育をしてやるまでもなく、子どもは自然と理系を選んでくれるのです。

 また、氏は次のようにも述べておられます。「親は、機会があれば、自分の職場に子供を案内することを考えるべきである。このような機会があれば、子供には決定的な影響を与える。科学博物館も科学実験イベントなどもいらない。ただ親の理系の仕事場に一、二時間連れて行けばよいのだ。日曜日の午後、急いで目を通す必要のある書類を忘れたので、ふと職場にそれをとりに行く。子供をついでに車で連れてゆくのだ。わけのないことではないか。しかしその子供にとっては生涯忘れられない思い出にもなるわけだ」

 博物館で実物をつぶさに見る経験をしたり、目を奪われる科学ショーを見たりするよりも、なぜ親の影響のほうが格段に大きいのでしょうか。これについて氏は、「博物館や科学ショーは1回きりの経験になりがちであり、くり返し継続的に受ける刺激とならないのに対して、親との接触は毎日継続されるものだ。子どもにとって親は生きた手本であり、最も身近な影響力をもつ存在だから、この『毎日』というのが効力を発揮するのではないか」といったような主旨のことを述べておられました。児童期の子どもにとって親は尊敬の対象であり、生きた手本でもあるのですから、それは頷けることですね。

 そういえばノーベル物理学賞の受賞者で、20世紀最大の科学者と言われるリチャード・ファインマン氏(米)は、子どもの頃父親にしばしば博物館に連れて行かれ、氷河痕の模型を一緒に見る経験をしたそうです。このエピソードは以前もご紹介しましたが、そのときには「博物館での体験が科学への興味関心を引き出す原動力になったのだろう」と、いささか漠とした感想をもったに過ぎませんでした。

 しかしながら、今改めて考えてみると、博物館で氷河痕の模型を見たことよりも、ファインマン少年を博物館に連れて行ってくれた父親が、熱心に氷河期の様子について語ってくれたこと、すなわち父親の情熱がより大きな影響を及ぼしたのではないかという気持ちになります。当時のファインマン少年は、「父親の説明には誤りがある」と気づいたそうですが、それよりなにより父親の愛情と熱意に動かされたのでしょう。

 このことを踏まえたなら、「文系の親はどうしたらよいの?」と当惑していたおとうさんも、元気が湧いてくるのではないでしょうか。そうです! 理系の親であるかどうかは問題ではありません。理系の専門知識を豊富にもった親である必要はありません。親のわが子に対する思い。それがわが子に伝わればよいのです。子どもに見せてやりたいもの、経験させてやりたいことをいろいろ思い描き、テーマを見つけて一緒に出かけましょう! とは言え、子どもを触発するための語りかけに説得力があることは重要です。もしも入念な下調べをもしもしていたなら、そのほうがよいに決まっています。わが子が知らないこと、興味をもちそうなことを雄弁に語ってやれるだけの知識を仕入れておけば、効果は何倍にもなるのではないでしょうか。前述のように、説明に間違いがあったとしても、それは大した問題ではありません。

 今年のゴールデンウィークには、残念ながら親がわが子に実物を見せ、科学への興味関心を引き出してやれる機会はつくれそうもありません。しかし、一緒に図鑑を見たり、科学に関する話をしたりするなど、根回しから始めておけばいいのではないでしょうか。そして、ウィルス問題が収まったなら、ぜひ行動に移してみてください。子どもの眠れる才能を開発できるいちばんの存在。それは親なのですから。

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カテゴリー: アドバイス, 子育てについて, 学問について, 家庭での教育, 家庭学習研究社の特徴, 小学1~3年生向け

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