親に求められる二つの資質とは
7月 9th, 2018
今回は、引き続き子育てに関わる話題を取り上げてみようと思います。前回、このブログの冒頭でスティーブ・ビダルク氏の文献の一部をご紹介しました。そのおしまいの部分に次のような文言がありましたね。
わが子を愛し、自分にできる最善を尽くす気持ちがあり、子育てについて学ぼうという姿勢をもったおかあさんは、例外なくよい親になるための資質をすべて携えておられます。ただし、現実の生活においては、子どもが思うに任せず、途方にくれたりイライラしたりする場面が幾度となくあるのではないでしょうか。つまり、「子育ては、愛情さえあればうまくいくものではない」ということも、偽りのない事実です。今回はこの問題について考えてみましょう。
前出のビダルク氏は、「わが子への愛情の核となるものは、一見対照的とも思える二つの資質で成り立っている」と説明しておられます。それは、「温かいやさしさ」と「ゆずらない強さ」です。毎日の子育てで直面しがちな問題を未然に回避したり、うまく乗り越えたりするうえで参考になるかもしれません。そこで、この二つについてもう少し詳しくご説明してみましょう。以下の①~③は、氏の著作の一部を参考にしてまとめたものです。
① 「温かいやさしさ」とは?
「温かいやさしさ」とは、ゆったりとくつろいで思いやりと愛情を示すことのできる能力です。それは子どものそばにいてやるために、頭でせわしなく考えるのをやめ、自分の本能を信じ、外から押しつけられてくるさまざまなプレッシャーをはねのけられる能力でもあります。あなたがリラックスして自分自身でいられれば、ごく自然に湧いてくるでしょう。
「温かいやさしさ」を無理に引き出そうとする必要はありませんが、心のなかにそれが成長するスペースをつくりださねばなりません。
たとえば、もしあなたの幼少期に親がよそよそしかったり無関心だったりすれば、それが親になったあなたの心のありように影響を及ぼすこともあるでしょう。しかし、わが子の健やかな成長を願うあなたの気持ちは何ら他の親に劣るわけではありません。それは、落ち着いてじっくりとわが子に対する思いに向き合ってみればわかることです。他の何物にも代えられないわが子の存在を、いとおしく思えてくるに相違ありません。
男性も女性も、自分のなかの「温かいやさしさ」を再発見すると、多くのものごとがよいほうに変わるでしょう。
② 「ゆずらない強さ」とは?
「ゆずらない強さ」とは子どもに親切にするが、毅然とした態度で臨む――怒らず、弱気にならず、あきらめずに、ルールをはっきりさせて守らせる――能力です。それは、人々が「あの人には気骨がある」と言うときに思い描く資質です。
多くの人が愛をとらえ損ねているのは、愛がつねに温かく、べたべたしたものだと考えるからです。たとえば父親が、約束した手伝いをまったくしない息子に、高価な遊び道具を買い与える。それは、愛ではありません。たんなる「だらしなさ」です。「ゆずらない強さ」とは、「もちろんおまえを愛している。だが、おまえはやるはずの仕事を随分前から投げ出しているじゃないか。約束をちゃんと実行するまでは、ほしいものを無条件に買ってやるわけにはいかないよ」と、毅然とした態度で伝えることです。
それは冷たくすることや辛く当たることではなく、愛情のこもった意志に基づく強さです。よい親は子どもを愛するがゆえに、しばしば厳しく接するものです。それは往々にして安全性と関わっています。――「おまえを愛しているから、通りを走ってほしくないんだ」あるいは他人を尊重することと関わっている場合もあります。――「わが家では、おたがいを叩いたりしてはいけない」
よい親は、子どもたちに毅然として接するのをためらいません。子どもたちがより幸せな生活を送るのに役に立つのを知っているからです(問題は、日本の親がこういった態度を貫くのを苦手にしていることです)。
③ バランスを見出す!
「温かいやさしさ」と「ゆずらない強さ」を上手に使い分けられるようになるには、試行錯誤しながら、自分自身でやりかたやバランスを見出していく必要があります。やさしいけれども毅然とした親はこんなふうに言います。「だめよ。雨に中に出ていっちゃ。冷たいからね。おうちでできる何かおもしろいことを探したら?」その手の親は、子どもの欲求をよく知っています。――「退屈なのはわかるわ。何ができるか、いっしょに考えてあげる」 けれども、しっかり心に決めています。――「雨が降っている間は、家の中にいなさい」
さて、あなたは今のところこの二つのバランスをどのようにもっているでしょうか? 簡単にチェックしてみませんか?
以上の結果から、「温かいやさしさ」の得点が低く「ゆずらない強さ」の得点が高いかたをAタイプ、「温かいやさしさ」と「ゆずらない強さ」の両方とも得点が高いかたをBタイプと分類します。同様に、「温かいやさしさ」と「ゆずれない強さ」の両方とも低いかたをCタイプ、「温かいやさしさ」の得点が高くて「ゆずれない強さ」の得点が低いかたをDタイプと分類します。あなたはどれにいちばん近いかを確かめてみてください。
上表は、各タイプの特徴を示したものです。言うまでもなく、理想のタイプは「温かくて強い」Bのタイプです。このBのようなタイプこそ、自分で物事を判断し、適切な行動のとれる人間を育む子育てであろうと思います。
ある年、学年でトップ3の成績を常に挙げていた男の子がいました。その男の子の精悍で逞しい外見から「天は、二物も三物?も与えるものだな」と内心感心していたのですが、その男の子が、「ボクは普段は母に叱られることはありませんが、いざというときには厳しくて怖い母です」と、おかあさんのことを語っていたのをふと思い出しました。まさに、Bのタイプの子育てを、その男の子のおかあさんは実践しておられたのでしょう(ちなみに、そのおかあさんに一度お会いしましたが、とても優しそうなかたでした)。
これは筆者の独断ですが、多くの人は「Bのタイプがよいのはわかる。しかし、問題は『ゆずれない強さ』をうまく発揮できないことだ」と思われているのではないでしょうか。そんなかたは、子どもの我儘や甘えについつい応じてしまい、やるべきことをやり通す強さや実行力を育て損なっておられるのではありませんか?その結果、子育てがDのタイプに近づいてしまっているのではありませんか? 中途半端な受験勉強に終始してしまわないためにも、DのタイプのおかあさんはBへとシフトしてくようがんばっていただきたいですね。
お子さんがまだ幼児でしたら、少しわが子への対応を改めれば理想とするBのタイプにシフトしていくのはそう難しくないかもしれません。しかし、わが子が小学校の中~高学年ともなると、なかなか思うに任せないものです。ですが、子どもが節度や実行力を備えた人間に成長していくためには、今こそ「ゆずれない強さ」を発揮できる親に近づく努力が求められるのではないでしょうか。 子どもの我儘を受け入れるわけにはいかないことを、感情的にならずにしっかりと理屈で説明すればよいのです。さあ、今のうちに。子どもが中学生になると、もはや親の影響力は失われてしまいます。
繰り返しになりますが、子どもの言い分や行動が認められないものだったとき、大切なのは親の価値観や考えをきちんと説明することです。そこから、少しずつ「ゆずれない強さ」の域へと近づいていけるでしょう。もしも現状がDのタイプであり、わが子の学習や生活に問題を感じておられるなら、ぜひ今からがんばっていただきたいですね。まずは、「② ゆずれない強さとは?」のところを読み直し、親としての対処のありかたについてもう一度じっくり考えてみてください。
落ち着いた雰囲気のもとで、しっかりわが子を見て親の気持ちを話すと、子どもは親が望んでいることから気持ちを逸らすことはありません。上述の「愛情のこもった意志の強さ」は、親であるどなたにも備わっているものです。
※今回の記事で使用したチェック項目や、4つの子育てタイプの説明は、スティーブ・ビダルク氏の著書をもとに作成しました。