2019 年 8 月 12 日 のアーカイブ

読書速度と学力の関係について考える

2019 年 8 月 12 日 月曜日

 お子さんは本を読むのが好きですか? 毎日の日課として読書はしっかりと定着していますか? 今回は、読書活動がもたらす効果、特に読書スピードが学力に及ぼす影響についてお伝えします。

 毎日の自由時間を読書に充てる。それは、お子さんが中学受験をめざしておられるご家庭の場合、受験勉強が本格化した段階では好ましくないと感じる保護者も少なくないことでしょう。しかしながら、3~4年生までの時期であれば、むしろおおいに必要なことです。というのも、子どもの語彙は読書活動を通じて莫大増えますし、文章を快適に読みこなす力が身につきます。これが、学習活動全般に多大な貢献をしてくれるのです。

 ただし、何事も成果があがるまでには時間がかかります。読みの力(読みの精度、速度、情報の統合力、記憶力など)はその典型的なもので、読みの練習を繰り返し飽きることなく積み重ねた子どもほど上達させることができます。これは、スポーツや楽器演奏の上達と全く同じことです。読みの力を上達させるには、読書好きの子どもになるのがいちばんよい方法です。読書の楽しさを知り、習慣化することで、徐々に読みが達者になり、やがてそれが言語能力の飛躍的な高まりを引き出してくれます。

 以下は、長年小学校の教育現場で活躍された先生(故人)の著書の一部を短くまとめたものです。読書がきっかけで、学力を飛躍的に伸ばした少年のエピソードが紹介されています。

 読書好きの子どもは、毎日1冊のペースで本を読んでいます。しかし、生活上必要なことに要する時間はどの子もだいたい同じです。学校にいる時間もだいたい似たようなものです。それでいて1日1冊の本を読めるのは、読書のスピードが相当速くないとできないことです。

 そこで、3年の担任クラスの子どもの読字速度を計測してみました。「発明王エジソン」「りゅうの目のなみだ」「キヌーリーはライオンのこども」の三冊を全員に配り、読みたい本を選ばせました。結果ですが、最初に読み終えた子どもは8分20秒でした。1秒当たり、ちょうど20字読んでいます。

 その子は、実は低学年の頃はテレビ漬けで本嫌いでした。その子が3年生になったとき、私が担任を受けもちました。私はテレビの害を少し大げさに伝え、「もっと本を読みなさい」と読書を勧めました。その甲斐あってか、だんだん本を読むようになりました。5月、6月頃までは、本を読むスピードはのろのろしていましたが、夏休みには図書館へ足繁く通い、本を片っ端から読んでいたそうです。その成果でしょうか。読む速度が格段に速くなりました。

 ただし、このときはまだ学期末の学業成績はさほどではありませんでした。ところが、以後、着実に成績が向上していきました。そして、6年生になると、国語、社会、算数、理科とも、すべて最良の成績を得るまでになりました。無論、この結果は読書一辺倒によるものではありません。その子どもは、宿題も含め、毎日1時間の書くことを中心とした家庭学習を休むことなく続けていました。それらの相乗作用が高い学力を保障する源になったのです。

 とは言え、その子の学業成績の向上に最も貢献したのは著しい読字速度の進歩です。それが新たな学力を獲得したり、広く知見をとり入れたりするうえで有利に作用したのです。読みが速ければ、限られた時間枠のなかで、新しい情報をよりたくさん得ることができます。この男の子が、小学3年の後半という時期に、読書好きになったということの発達的意義は実に大きいものがあります。読書が楽しみになり、読む過程で様々な知識をわがものとし、あわせて読字速度が著しい進歩を遂げたことが、その後の学力の飛躍的な向上のための、何よりの土台を築いたのです。


 右の表をご覧ください。これは、上記の先生が担任をしておられたクラスの児童42名の「読字速度と学力」の関係を表したものです。その先生も述べておられたように、わずかな数の児童をもとにした調査ですから、あくまで参考程度にとどめるべきでしょうが、それでも読みの速さと学力の関係がかなり明確に見て取れるでしょう。

 たとえば、毎秒14字以上読める子どもは12名いますが総合成績の上位3名はこのなかから出ています。いっぽう、読字スピードが毎秒5字以下の子ども7名には、成績上位者はもちろんのこと、中上位者も見当たりません。

 このことから、読字スピードと学力には有意な相関関係があるとみてよいでしょう。速く読めるほうが学業成績に好影響を及ぼす理由は、先ほどご紹介した先生の著述内容にあった通りであろうと思います。

 小学校の中学年ころにさしかかると、抽象的な概念を言い表す言葉が教科書にも増えてきます。読みの達者な子どもは、読書を通じてたくさんの語彙を獲得していきますから、抽象語の理解力も相対的に高いのが普通です。したがって、こうした勉強の高度化にも余裕をもって対応することができます。その意味において、小学校の中学年にさしかかるお子さんにとって、読書は内面の成長のみならず、学力飛躍に向けた土台形成においても大変重要なものだと言えるでしょう。

 近年は、本を読む子どもと読まない子どもの差が広がっているという指摘もあります。よく読む子どもは月あたり20~30冊読んでいるいっぽう、読まない子どもは月に数冊も読んでいないようです(近年の調査によると、月に本を1冊も読まない不読児は4%弱のようです)。読まない子どもは、単に読書から得られる楽しさや喜びを味わえないだけでなく、小学校高学年時に生じる「語彙の爆発」現象(語彙が爆発的に増える)とも無縁となり、その結果学力形成面でも苦労を強いられることになりがちです。

 読書は、ひとたびその習慣を身につければ、子どもにとって欠くことのできないすばらしい友になるものです。さらには、知的能力の向上を支えてくれる頼もしい味方になってくれるものです。夏休み後半には、親子で図書館に出かけ、いろいろなタイプの本にあたってみてはいかがでしょうか。最初は、興味をもてそうな本なら何でも構いません。活字が大きく、挿絵のたっぷり入ったものだっていいのです。

 保護者におかれては、この夏休みという機会を生かし、お子さんが一人前の読書人になるためのよききっかけを与えてあげてください。お子さんが一冊のすてきな本に巡り合うことで、人生が変わることだってあります。さあ、親が関われる今のうちに行動を!

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カテゴリー: アドバイス, 勉強について, 家庭での教育, 小学1~3年生向け