中学受験を振り返り、つぎの学びのステージへ!

2020 年 1 月 27 日

 年明けとともにやってきた広島県内の中学受験シーズンですが、先週土曜日(1月25日)に実施された附属東雲、県立広島、県立三次の入試をもってあらかた終了しました。ただし2月に入ってからも何校かの入試が予定されています。これらの中学校の入試に臨む受験生もおられるでしょう。最後まで気を抜かず、ベストを尽くされますように。

 受験シーズンが来るたびに思うことがあります。入試に向けた準備期間は長く厳しいものですが、いざ本番が訪れると、「一瞬のことだった」と感じるほどあっけなく終わってしまいます。この一瞬のために長期間にわたって大変な勉強を積み重ねるのが受験生活なのですね。受験生のみなさんにおかれては、志望校、本命校の入試でもてる力を発揮できたでしょうか?

 本番では、自分でも驚くほど落ち着いた心理状態で臨めるお子さんもいるものです。「この子にこんな度胸があったとは!」と驚かれた保護者もおられるのではないでしょうか。いっぽう、「この調子なら大丈夫」と思っていたのに、試験直前に至って予期せぬ緊張に我を忘れてしまうお子さんもいます。「うっかり癖」が極端に出てしまうお子さんもいます。わずか12歳前後の小学生の受験ですから、心身のコンディションも含め、様々なファクターに翻弄されてしまうのでしょう。一回勝負の受験というものの怖さを思わずにはいられません。一人でも多くの受験生が笑顔のうちに入試を終えられていることを念じるばかりです。

 なお、弊社会員受験生の入試結果については、これから集計確認の上HPやチラシ誌面で公表する予定です。それまで今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます。現在掌握している主要中学校の入試結果は、ほぼ例年と同じくらいです。目につくほどの変化はありません。

 前述のように、中学入試の結果は実力通りにならないこともあります(そういうことのほうが多いかもしれません)。しかしながら、子どもたちが努力を積み重ねて培った学力に嘘はありません。また、中学受験に至る過程で養った学びの姿勢も、今後に向けて大いに生かされると思います。むしろ、中学受験をお子さんが経験されたことの意義は、こちらのほうが大きいかもしれません。重要なのは、どこの中学に進学するかよりも、先々の学びの手立てを身につけているかどうかなのですから。

 試しに、次のような項目において、どの程度お子さんが身につけたかを、ちょっと振り返ってみてください。

1.「学習計画を立て、それに基づいて家庭勉強をする姿勢」

 計画に基づく家庭学習は、中学校入学後も変わることなく要請されるものです。いや、ますます重要になっていきます。お子さんは、この姿勢をどの程度身につけられたでしょうか。中学校に入ってからでは一朝一夕に身につけられない、受験のプロセスで身につけた貴重な財産です。

2.「授業前にテキストに目を通し、見通しを立てて授業に
   臨む姿勢」

 予習は、学校での授業成果を高めるうえで大いに効力を発揮します。予習段階でわからなかったことを授業で解決しようという姿勢が、授業効果を大いに高めるからです。

3.「授業後におさらい(復習)をする習慣」

 授業後に家庭でおさらいをする習慣のある生徒は、理解に向けた努力を継続的に行っているため、本物の学力を身につけています。復習が足りない生徒は、場当たり的なテスト対策をくり返すため、力がつきません。中学からの6年のスパンで圧倒的な違いが生じてしまいます。

4.「提出物の期限をにらみ、計画的に片づけていく姿勢」

 中学校では、授業で学んだことを定着させるために相当量の宿題が課されますが、これをため込んで難渋する生徒が少なくありません。いっぽう、受験のプロセスで、提出課題の期限をにらみながら計画的にやりこなす姿勢を身につけている生徒は、この問題で苦労することがありません。

5.「定期試験に備えた準備を、見通しを立てながら行う姿勢」

 中学受験のプロセスにおいては、多くのテストを経験します。その準備の過程も重要な受験対策だったわけですが、そのことが中学進学後も大いに生かされるでしょう。試験の日程が発表されたら、それに合わせて準備をしっかりと行う。当たり前のことですが、この姿勢が強力な力になります。

 以上のことは、これまでも再三お伝えしてきたことなので簡略に書きました。どうでしょう? 親の満足レベルには届いていなくても、お子さんにはある程度身についていると思います。だいぶ昔、筆者の息子も中学受験を経験しましたが、「計画性」や「戦略性」に乏しいわが子の勉強ぶりを嘆いたものでした(アドバイスを試みると、激しく抵抗しました)。それでも、中学受験を経験したことは以後の長い学習生活において役立ったように思います(本人がそう言っています)。上記の5つをお子さんと一緒に点検してみてください。収穫と今後の課題も見えてくることでしょう。

 さて、勉強というと「集中して考え続けることだ」と思いがちです。実際、集中力は大変重要なものです。算数の難問に取り組んでいるときなど、既習の知識を様々に適用しながら解決の突破口を見出そうと必死に思考を巡らします。このくり返しによって脳が鍛えられるのですね。しかしながら、こういう思考だけでは問題解決に至らないことも多々あります。同じ視点からの思考に偏りがちで、全体を俯瞰していないからです。いっぽう、脳をリラックスさせ、ゆったりとした気持ちで問題をとらえ直すと、突如突破口が天啓のようにひらめき、問題が一気に解決することがあります。

 このように、脳は対象に気持ちを集中させているときと、休憩しているかのようにリラックスした安静の状態にあるときとがあります。前者は集中モード、後者は拡散モードなどと呼ばれています。人間はこの二つのモードを状況に応じて切り替えながら学んだり生活したりしています。

 これまでの受験勉強において、おそらくお子さんは意識の上では集中モードに基づく学習をされていたと思います。しかしながら、本人はそれと気づかず、ぼんやりと一休みしたり、トイレ休憩をしたり、ジュースを飲んだりしているときに、ふと解きかたの糸口が見つかった経験をされたことがあるのではないかと思います。実は、中学・高校と学習が高度化するにつれ、上記の集中モードと拡散モードとの使い分けが重要な働きをするようになります。両方を上手に稼働させてこそ、学習は円滑にはかどるのです。この二つの思考モードについて書かれた書物の一部をご紹介してみましょう。

 集中モード思考は数学や科学の学習に欠かせない。合理的・逐次的・分析的方法を使って問題を解くときには、この思考が直接関わってくる。集中モードは、額の真後ろに位置する脳の前頭前野皮質の集中力と関係がある。何かに注意を向けると、いきなりフラッシュをたかれたように集中モードがオンになる。

 数学や科学の学習では、拡散モード思考も絶対に必要になる。気を緩め、心をさまよわせるときの拡散モード思考のおかげで、手こずっていた問題の解き方をふと思いつくし、拡散モード思考は「大局的」見地とも関係がある。要は、リラックスすれば、さまざまな脳領域がつながるため、洞察力が増すのである。集中モードと違って拡散モードは特定の脳領域と強く連携しているわけではなく、この思考モードは文字どおり脳全体に「拡散した」状態ととらえることができるだろう。また、拡散モードの状態にあるときに問題の解法がひらめいた場合、集中モード時の「予備的」思考が基になっていることが多い。

 思考に二つのモードがあるのは、生き物が生存していくうえで必要だからです。たとえば、鳥が穀物の種子をついばんでいるときは、視点を小さな種子に集中させる必要があります。しかし、上空には猛禽類などがいて、獲物となる動物をねらっている可能性があります。そこで安全のために周囲の全体を見渡すことも必要になります。こうして、目の前の一点に注意を集中させるモードと、全体を俯瞰するモードとを交互に切り替えるようになったのだと言われています。

 中学校入学後の勉強は、始めは小学校時代の焼き直しでそう難しくありません。しかしながら、多くの私学では中2までに中学校課程を修了し、高校課程の学習へと進んでいきます。この流れにうまく乗るには、前述のような「学習の構えや姿勢」をしっかりと実践に移すとともに、様々な観点から問題をとらえ直す柔軟な思考が求められるようになります。

 集中モードは中学生高校生でも30分以上は続きません。効果ある勉強は、20~30分ごとに短い休憩をとるなど、集中の伴った勉強が継続できるよう、時間を区切って振り分けることも重要でしょう。その休憩のとりかたが、脳のリラックスモードとうまく連動すれば、なおよいと思います。これについて、上記の引用文の著者は次のような具体例をあげておられます。

拡散モードが働き出す一般的な活動
・スポーツをする。
・ジョギング、散歩、水泳
・スケッチや油彩、水彩を描く
・風呂に入ったり、シャワーを浴びたりする
・クラシック音楽やジャズのように歌詞のない音楽を聴く
・楽器を扱える人はお気に入りの曲を演奏する
・瞑想やお祈り
・睡眠(究極の拡散モード状態!)

 集中モードでがんばった自分への報酬として短時間利用する。学習の再開後に発揮する集中度は、上記の例より高くなる可能性もある。

・ビデオゲームをする
・ネットサーフィンをする
・友人とおしゃべりをする
・簡単な仕事を手伝う
・肩の凝らない本を読む
・友人に携帯メールを送る
・映画や演劇を観る
・テレビを観る(テレビをつけたままうたた寝した場合を除く)

 気分転換は時間の無駄と思われがちですが、実は上手にすると学習の効率を上げたり、グレードアップに貢献したりしてくれる重要な働きをするのですね。たとえば、筆者はこのブログの原稿を書いたり、プレゼンのパワーポイントの構成を練ったり、行事の内容を検討したりするとき、しばしば職場の近くにある袋町公園に散歩に出かけます。すると数分程で大概一つや二つの新しいアイデアが浮かんできます。じっと考えているだけではこうはいきません。

 それからお子さんの中学進学にあたり、私学の先生が警鐘を鳴らしておられたことをお伝えしておきます。それは、「わが子を携帯依存症の子どもにしない」ということです。ラインの伝言が気になって片時も携帯が手放せなくなっている生徒さんも見られます。携帯のゲームに夢中のお子さんも少なくありません(ほどほどなら気晴らしになるのでしょうが)。これでは勉強に集中できないし、成果もあがりません。。

 お子さんの学びの人生は、登山にたとえるならまだ麓を通過したばかり。これからが重要です。ただし、中学受験の経験で今後の学びで求められる大切なものの基礎は築けています。これを上手に活かしながら、効果のあがる勉強を効率的に進めていける人間に成長していただきたいですね。

 お子さんが中学に進学されると、たちまち思春期が訪れ、親にとってはまたしても大変な苦労を余儀なくされる事態が訪れますが、ここが踏ん張りどころです。子どもの反発を大きな心で受け止めてあげてください。どうしたものかお悩みのときは、「子育て以上に価値のある仕事は世のなかに存在しないのだ」とご自身を励まし、がんばっていただきたいと存じます。

 なにしろ、いかなる優れた資質も親の子育てなしに花開くことはありません。また、子どもにとっても、おとうさんおかあさんはかけがえのない最高の理解者・応援者です。自分の行き場のない感情の高まりをぶつけられる存在、そしてそれを丸ごと受け止めてくれる存在は、親以外にあろうはずがありません。辛抱強く、愛情深く、お子さんの成長を見守り応援してあげてください。

 お子さん、ならびに貴家のますますの発展をお祈りしています。

※上記引用文と、拡散モードが働き出す活動の例は、「直感力を高める数学脳のつくりかた」バーバラ・オークリー/著(河出書房新社2016)によります。

 

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カテゴリー: アドバイス, 中学受験, 家庭での教育

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